第8話:クラマの力。
「そう言えば剣の方はどう? エイムさん褒めてたね♪」
「ん、しかし実際まだまだだ。仮にエイムの言葉が本当だとしても俺にはユキナのような特別な力は無い」
悔しそうな顔してる。
確かにクラマは強いし飲み込みも早いからすぐにエイムを越える剣士になるだろう。
だけど、クラマは「それだけだ」と言う。
かなり強い剣士、それ止まりだと。
彼はその事をとても気にしていて、夜中にこっそり自主練してるのを僕は知ってる。
少しでも慣れてもらう為に一緒の部屋のままだから気付かない方がどうかしてるけど。
あまりその事をつついてもしょうがないので知らない振りをしてあげてる。
そんなに負けず嫌いな面があったなんて可愛い奴だよね。
でも実際この先どうしたらいいんだろう? 僕の魔法修行が終わったらほんとに世界を救う為に旅に出るの?
もしそうなるなら僕は絶対にクラマを守るけど、きっと彼はそれを望まない。
僕に守られるなんて嫌に決まってる。
だからこんなに焦って力を付けようとしてるのかな?
だったら頑張ってよ。
僕を守るヒーローはいつだってクラマだったんだから。
これからも僕の事守って。
勿論、守られるだけなんて僕だって嫌。
今までずっと助けてもらって来たんだから恩返ししたい。
二人で並び立って対等な関係になろうね。
お互い対等な関係になれたら、たまには僕にも守らせてね。
「……? 何を笑ってるんだ?」
「ううん、べっつにー♪ ねぇクラマ、ちょっと一緒に散歩でもしない?」
「俺はもう少し……いや、分かった。行こう」
もしかしたらさっきのエイムさんの言葉を思い出したのかな? だとしたら感謝しないと。
「じゃあ裏庭の方行こうよ。あっちにいい場所あるんだ〜♪」
ついうっかりクラマの手を取って歩き出していた。
一瞬だけその手に物凄い力が込められたけどすぐに弛緩して、諦めたみたい。
チラっと振り向いてみると、繋がれた手を見つめてしかめっ面してる。
ほんとクラマは女の子ダメなんだなぁ。
「無理させてごめん。僕も気を付けるよ」
そう言って手を離すと、「すまん……」だってさ。
そんなリアルにへこまれるとこっちもどうしていいか分からなくなっちゃうからやめてほしい。
裏庭に回って僕が練習していた場所よりもうちょっと先へ行くと、そこに花畑が広がっている。
背の低い小さな淡い紫色の花が一面びっしり生えていて、近くには長細いベンチが一つ。
「ほう、これは確かに凄いな」
「綺麗でしょ? 修行中にいつも視界に入っててさ、いつか来てみたいなって思ってたんだよね〜♪」
「これだけ天気がいいと眠くなってくるな」
クラマが大きなあくびをした。
「少し寝てく? 後で起こしてあげるよ。疲れてるでしょ?」
いつも夜遅くまで頑張ってるんだからたまには息抜きしないとね。
「ふむ……そうだな。俺はこっちで少し横になっていよう」
花畑のすぐ脇のベンチに横になるとすぐに寝息を立て始めた。
よっぽど疲れてたんだね……。
さてと……じゃあ僕は今のうちにっと……。
僕が花畑でもそもそ作業して一時間くらい経ち、やりたい事も終わってそろそろクラマの所にでも行こうかなって思ってた時だ。
しゃがんでいた僕に大きな影がかかる。
城の誰かが来たのかな? と思い振り返ると……。
「……えっ、嘘……」
目の前に居たのは豚のような顔をした人型の魔物だった。
ここは隔離されていて魔物も入ってこないって話だったのにどうして!?
体は僕の倍以上あって、口からはぼたぼたと涎を垂らしている。
オークだ。片目に大きな傷がある。
知能はあまり高くないらしく、僕の姿をじろじろ見て、首を傾げていたが、急に腕を掴まれてしまった。
そ、そうだ……魔法! 魔法で、やっつけなきゃ!
「グルルル……!」
「ひっ……」
初めて実物を見る魔物はとても恐ろしかった。
元々そんなに勇気も度胸もある方ではないし、どうして僕がこんなのと戦えるって思っちゃったんだろう。
いや、しっかりしろ。
今の僕には力があるじゃないか。
魔法、魔法を……。
「グルァァァァッ!」
僕が何かしようとしてるのに気付いたのかオークが吠える。
ビリビリとオークの声がボクの鼓膜を震わせ、身体に力が入らなくなってしまった。
そういう効果があるわけじゃなくて、ただ単に足が竦んでしまった。
ついてこいとでも言いたいのか、オークが僕の腕を乱暴に引っ張る。
「い、痛いっ!」
「おい貴様……俺のユキナに何をしている?」
「く、クラマ、ダメ! 逃げて!!」
いきなり魔物と戦うなんてできるはずない。
今クラマが持ってるのは模造刀だし、ここは僕がなんとかしないと……!
「グルルガァァァ?」
「何をしていると……聞いてるんだっ!!」
何が起きたのか全く分からなかった。
一瞬でクラマが目の前に移動したかと思ったら、その模造刀でオークの腹部を打ち抜いた。
まるで野球のバッターのように振り抜いた。
あの巨体を、相当の重量がありそうなあのオークを。
衝撃でオークは僕の手を離し、そのまま十メートルくらい吹き飛んでゴロゴロと地面を転がる。
生きてはいるみたいだけど、よろよろと起き上がるとクラマを見て怯え、逃げて行った。
「クラマ……ありがとう」
「大丈夫か? 怪我は無いか?」
「……うん、大丈夫」
やっぱりクラマにも特別な力があるじゃんか。
僕は先ほどまでの恐怖なんてどこかへ吹き飛んでしまって、クラマが力に目覚めた事が嬉しくて仕方なかった。
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