第8話 生徒会室と権化
放課後になると、美華と一緒に生徒会室に今日も仕事をするために向かった。
「なあ美華」
「ん?」
「楽しみなのか?」
「なにが?」
質問に質問を返してこられると、こっちも困るんだよな。
「いや、そんなに笑顔で質問返しされてもなあ。生徒会がそんなに楽しみなのか?」
「え、いや、笑ってないけど」
美華は自分が楽しみのあまり頬が緩んでいることに気付いていなかったようで、焦って僕から視線を逸らす。
「そんなに楽しいものでもないけどな」
基本的に学校の行事がある場合は忙しかったりするけど、今は冬休み前、それほどすることもないわけで。
「凛さんの他にも生徒会メンバーがいるんだよね」
「まあ、そうだな。同級生が一人と先輩が一人いるな」
「冬馬の友達とも仲良くなりたいからね!」
「お、おう……」
美華は無自覚だろうけど、満面の笑みを浮かべて僕に笑いかけてくる。
そんな顔されると勘違いするからやめて欲しいんですけど!
いや、もう勘違いしましたよ美華さん!
るんるん駿河さん……恐るべし。
男子がどれだけ単細胞で出来ているのか、とても痛感してしまった。
僕と美華はいつの間にか生徒会室の目の前に着き、扉を開ける。
そこには、今日も元気に仕事をする会長と元気ではなさそうな司さん、冷静沈着な見た目をしている斎藤が先にきていた。
「お疲れ様です。今日は会長に言われた駿河美華を連れてきましたよ」
僕がとりあえず美華のことを紹介すると、一斉に美華に視線が集中する。
「おお、駿河ちゃん! よく来てくれたね!」
よくもなにも、あんたが先に手をまわしていたくせに。あまり美華を面倒ごとに巻き込みたくなかったのに。
「おー、これがアボカドの彼女さんかー」
「おい、斎藤。心にも思ってないことを言うんじゃない。おもっくそ棒読みだぞ」
ありゃ、なんてふざけた顔をして首を傾げる斎藤。
「……どーも」
……声ちっさ。
司さんはもうちょっと声出してくれてよくないですか……。確かに僕が入るときもそんな感じっていうか、言葉が少なすぎて一語一句まで同じなんだけど。
そして、本人の美華はというと、
「駿河です……よろしくお願いします」
と僕のやや斜め後ろから挨拶をしている。
まあ最初の挨拶はそんなもんだよな。僕もこの人たちのことを知らなかったから緊張して挨拶したけどさ。
会長の外見は確かに美人だけど、中身がこんな人だったらときめいたりなんて絶対にしてないのにな。
これは絶対に断言できない。…………いや、できないのかよ!
僕が自分の中の僕に突っ込んだところで、一応否定しておかないといけないことがあることを思い出した。
「美華、ここの人たちは変人だから見た目で判断してはいけないぞ。とくに会長だ。あの人はとくに変わり者だ。とことん仕事ばかりを押し付けてくるから、要注意人物だな」
「んー? それは冬馬が警戒しすぎなんじゃないの」
それは大きな間違いだ。
この人は資本主義の権化だ。それは、この被害者の一人である僕が宣言します。
「それは酷いよ後輩君。わたしは後輩君ならできるだろう仕事をお願いしているに過ぎないよ」
「そんなことないですよ。僕が出来る仕事なんてたかが知れていますよ」
会長は、瞳を閉じて考える素振りをすると、
「まあ、仮にそうだとしても後輩君はよく無断欠席をすることがあるわけだけど。それに関しては、どう考えているのかな?」
「あ……僕お腹壊しやすくて」
「そんな人が毎日お昼休みにコーヒー牛乳を飲むのかい? 知らないのなら教えてあげるけど牛乳はお腹が弱い人にはあまりよくないと思うんだよ」
「う……」
痛すぎる正論に、本当にお腹が痛くなってきた。あれ? なら帰ってもいいのかな?
「それじゃ駿河美華ちゃん。今日からよろしく」
「わたしは斎藤千秋、一年生だよ。よろしく。あ、あの人は塚持司さんだから」
斎藤に名前を紹介されて司さんが小さく会釈を返す。
自己紹介を後輩にさせるのはどうなんだろうか。
みんなに挨拶をされて、美華は緊張気味でもしっかりと返事を返す。美華はしっかり者なんだろうな。
まあだからこそ、この生徒会に近づけたくなかったんだよ。
「それで駿河ちゃんには、このわたしの補佐をしてもらいたいんだけど、どうかな?」
「その会長、昨日も言ったんですけど会長の補佐って必要ですか? そもそも会長は仕事ができるし問題ないと思いますけど」
「そんなことないよ。最近肩が凝ってしまってこれ以上凝ってしまったら死んじゃう病気なんだよ」
「そんな深刻そうな顔しても無駄ですよ。そんな奇病聞いたことないですよ」
どんな病気だよ。ほんとにそんな病気があったら、世の中のサラリーマンはほとんど絶滅危惧種になってしまうぞ!
「まあそれもあるんだけど、実際問題に駿河ちゃんはこの学校に来たばかりだろ」
「いや、まーそうですけど」
「それに後輩君が一緒のほうがいいと思ってさ。学校でも家でも一緒のほうがいいでしょ」
「あれ、アボカドが同棲してるって……それはもう色々とことは済ませたってことなの?」
「おい、さらっと僕の最近の一番知られたくないことをなぜ知っている。あと、斎藤。その訝しむ顔はやめろ」
この会長の情報網には呆れたものだ。
「あ、ごめん。言っちゃだめだった?」
あなたが言ったんですか……。
申し訳なさそうに美華が僕の顔を覗き込んでくる。
「……確かに一緒に住むことになったけど、それ以上はなにもないからな」
「ふーん、まだ未遂ってことね」
斎藤が凄いゴミを見るような目をしている。それは、なんですか。僕はなにも悪いことしてませんよ。汚物を見る目だけはやめてください。泣きますよ、僕?
「それで、どうかな? やってくれる、駿河ちゃん?」
会長に声をかけられると、美華は即答する。
「はい……よろしくお願いします」
「うん! 改めてよろしく」
そんなに生徒会に入りたかったのだろうか。
美華は嬉しそうに笑顔で、会長から差し出された手を握り返す。
「はい! これでわたしたちは友達ね」
「あっ……はい!」
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