LOVE TROOPER
『-
「タッチしてくださいまし」
「……やらないと駄目エル?」
「まさか、私のお願いを断りますの?」
「問答無用エルか」
ミノタウロスになって疲れているのに、連続変身で酷使しようとは。可愛い顔に似合わず、アキュートも妖精使いが荒いのなんの。
ここで文句を小一時間垂れてもいいのだが、世界を守る者としてそれはいけない。オレの
「変身したエルよ」
「よろしいですわ」
オレが疾風のペガサスに変身すると、予想通りそこにアキュートが飛び乗ってくる。スカート越しのお尻が柔らかい。馬はいつもこの幸せを感じているのか。清楚な処女じゃないと振り落とす駄馬はグルメの類いか、贅沢者め。って、それはユニコーンだ。
「ソグサのいるところまで」
「タクシーかよエル」
「いいから早く」
「はいはい、了解エルよ」
「返事は一回でよろしいのですわ」
風の翼をはためかせてオレは青天へと飛翔。上空に浮かぶ少年、メガネウラの力を秘めたソグサへと一直線だ。
「よくぞ我の元へ辿り着いた、
陽光を全て吸い込む黒きスーツに身を包むソグサは、これまた容姿と釣り合わない偉そうな口ぶりで出迎えてくれる。小娘と言っているが、客観的に見ればそちらの方が年下だ。実年齢を問われると、ゾスの眷属の方が上なのかもしれないが。あと、ただの馬は酷くないか?
「ここで会ったが百万年目にして貴様らの運の尽き! 我が得物の錆びにしてくれる!」
ソグサが振るうのは、メガネウラの
「は、速いエル!?」
「回避してくださいまし!」
「我の刃より逃れられると思うな!」
――ひゅん、ひゅん!
風を切り裂き、鋭い刃先が眼前で舞い踊る。狙う先は騎手のアキュート、ではなく馬のオレだ。的確に足先と翼を狙った斬撃だ。移動手段を潰してからじっくり攻めるつもりなのだろう。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ……下等生物の言葉通りにしてやろう」
「偉そうな言い方する割に
疲労が溜まりつつある体に
「あの、エルル」
アキュートが耳元で
「対抗策が浮かんだエルか!?」
「いいえ。ただ、姑息というのは間違いではないかと」
「はい!?」
「姑息というのは本来一時しのぎという意味でして、昨今の使われ方はどちらかというと卑怯と言うのが正しいですわ。それにソグサの戦法は理にかなっておりますし、卑怯というの当てはまらないと思いましてよ」
「今、その情報必要かな!?」
生死を賭けた戦闘中に、誤用を憂いて日本語講座を始める奴がいるか。こっちは語尾をつける余裕もなくなってきているんだぞ。戦いに集中してくれ。
「我との一騎打ちに心ここにあらずとは良い度胸だ!」
「はい、アキュートランス」
「ぐはっ!?」
勝機とばかりに斬り込んできたソグサへ不意打ちのカウンターが撃ち出された。
虚空から出現したのは風で形作られた槍。アキュートはそれを突き出して、がら空きだったソグサの腹部を
「こ、姑息な手を……!」
「ですから、姑息の意味は卑怯ではありませんし、これは立派な戦術で、その場しのぎではないのですわ」
「勉強の時間はもういいから、エル」
真面目なのか不真面目なのか、いまいち測りかねるな、この子。
「一気に決めますわよ」
「言われなくても、早めに終わらせたいエルよ!」
風属性が司る高速移動の力を四足に込めて、オレはソグサへと全速力で駆けていく。馬上のアキュートは槍を構えており、その姿はさながら戦場を疾走する騎兵、
「その真っ向勝負、受けて立とう!」
「上等ですわ!」
翅の薙刀と風の槍が交錯する。
薙刀の刃は竜巻く槍の上を滑り、騎兵の首を切り落とそうとその切っ先を伸ばす。だがアキュートはわずかに首を傾けて斬撃を回避。刃は傷ひとつつけられず空を切る。
一方の槍は薙刀と接触するもブレることなく、狙い通り正確無比にソグサの肩を貫く。傷口から粘液がぱっと散り、黒い花がねっとり咲いた。
「ぐああああああああっ!」
貫通した槍を引き抜けず、ソグサはきりもみしながら墜落していく。
「おまけですわ」
アキュートは追撃に風の槍を二本生成、哀れな虫に向けて
地面に叩きつけられたソグサは、肩を
『-
「アキュートペガサステンペスト!」
アキュートのタクト捌きに合わせて空中を駆け回ったオレは、頭部に作り出した巨大な三角錐をソグサめがけて発射する。
「無念……」
槍で動きを封じられたソグサは防御姿勢がとれず、ノーガードの腹部に三角錐が直撃し、盛大な爆発を巻き起こす。
黒い粘液は噴水のように飛び散って、市街地を汚く染め上げた。
「はぁ、疲れたエル」
地面に降り立ったオレはアキュートを降ろすと、元の妖精姿に戻る。力が抜けて、どっと疲労感が襲いかかってきた。
本気で疲れた、これ以上働きたくない。バイト三十日連続勤務した時と同じくらい意欲と気力が削がれている。ぶっ壊れる限界直前だ。
しかし、嫌な予感がする。否、予感で済むはずがない。何故なら、ブラックな少女はもうひとり残っているのだから。
「最後はあたしだね!」
「あぁ、やっぱりエル」
ほらね、知ってた。
しおしおに
干物になりかけているオレは、本日三度目の戦いに引きずられていく。
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