あこがれ Go My Way!!
「へぇ。覗き見するなんて、妖精にしてはいい度胸してるじゃない」
「ちょっと君、キャラ忘れてない?」
「そっちも語尾ないんだけど」
「……あー、うん、そうね」
オレは今、部屋のど真ん中で正座させられている。これもデジャヴ、というか風華の家でも同じ目に遭っていた。違いがあるとすれば、まいんは座らず仁王立ちしているところか。実に雄々しい。可愛い子ぶりキャラはどうした、行方不明か。
素肌で畳の上にいるので微妙に痛い。あと
「ところで、まいん。ひとつ聞きたいんだけど」
「だから語尾ないって」
「キャラ作りが得意な奴相手に下手な演技したって無意味だろ」
「あんた、ホントに妖精?」
「一応な」
まいんの前では不思議と素で話してしまう。隠し事持ちの同類だからだろうか。ほむらや風華と違って妖精キャラになりきらなくても良さそうだ。もっとも、元一般男性という事実は内緒にしておく。さすがのまいんもどん引き通報即逮捕のコンボをしかねない。
「それで、聞きたいのは猫かぶり……キャラの使い分けについてだが、それは君の処世術なのか?」
「まぁね、お察しの通りですよ。こんなところに住んでいたら、嫌でもうまくずるく生きる術を覚えちゃうって」
まいんは窓越しに寂れた町並みを見渡す。
「ママは死んじゃったし、パパは毎日お仕事で必死。一家全滅しちゃいそーなくらいギリギリの生活だし。まいんも遊びほうけている場合じゃないんだよね」
「それで誰かに取り入ったり漁夫の利を得たり、世渡りの
「そ。周りの大人達の生き方を取り入れてね。それに早いところ独り立ちしないと、パパや妹に迷惑かけちゃうんだもの」
「苦労しているんだな」
子育て家庭の六分の一は困窮世帯、という統計データをどこかで見た気がする。親の収入が少なく、塾や習い事はおろか、学費や給食費すらまともに払えないほど。日々の食事すらままならない家庭も珍しくないそうだ。まいんの家もそのひとつなのだろう。
「
「それはそれ、これはこれ。あくまでも気晴らしだし、息抜きの時間がないと生活が苦痛なだけじゃん。貧乏暇なしって言うけど、趣味がないと人生無味乾燥でしょ?」
「趣味扱いかよ」
「それよりさ。まいんを追いかけてきたってことは、あっちの
顔がむぎゅっと掴まれる。まいんの右手がにぎにぎ、柔らかい頬が大福のように潰されそうだ。脅迫かな。
「ンなこと誰も言ってないから」
「えー、じゃあどうして覗いていたのかなー」
「敵情視察ならぬ、味方情視察だな」
「は?」
「一緒に
同志に
「それって、エルルの独り占め禁止なんでしょ?」
「無論だ」
「まいんだけの必殺技になってくれないの?」
「諦めてくれ」
「えー、つまんないのー」
だが、まいんはなおも食い下がる。口先を尖らせてぶーぶー抗議中だ。
「今はまだ脅威じゃないゾスの眷属も、これからメキメキ強くなるかもしれない。それなら先に一致団結して、万全の対策を立てた方がよくないか?」
「えー。協力とか、なんかダサくない?」
「うっ」
――ダサくない?
飾り気のない
正義のためにグループを組んで戦う。
言われてみれば確かに由緒正しい、悪く言えば古臭くてダサいスタイルだろう。最近では規格統一のされていない、千差万別のヒーローヒロインが一堂に会するパターンもあるが、大衆の目にはどれも同じに映るのだろう。敵ひとり相手に何故集団で戦うのか、という疑問も湧くかもしれない。
正義の味方に夢憧れた身なので見分けはつくし、全員集合の美学も理解できる。しかし一般的には違うらしい。色が似ていたら同じに見えるし、個人対多数という数の暴力に物言わせていると感じる人もいるそうだ。
誠に心外だが、それが現実なのだろう。正義の味方とは常に孤独なのだ。世のため人のために戦う彼ら彼女らには頭の下がる思いである。
……って、
「やっぱり、お前を正義の味方扱いするのは納得いかないな」
「エルルの
「正義の概念壊れるわ」
やはり話は平行線を辿ってしまう。
互いに考える正義の味方や力の使い方、その価値観に大きな隔たりがある。歩み寄ろうにも両者を分かつ溝はあまりにも深い。一朝一夕ではわかり合えないだろう。
どうしたものか。
ドリームランドの王女として、
オレはどうするべきなんだ。
答えが全くわからない。
力量足らずの自身に腹が立って、乱暴に頭を
窓の外、
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