ヒロインズドラマ
「えへへ、あのぉ、マジバトヘヴィって言いますぅ」
どすんっ。
重めの響きを奏でて降り立った少女は、上目遣いと甘え声のコンボで名乗ってくる。
「私はマジバトアキュートですわ」
「エルはエルルエル」
素直に名乗ってくれたので、こちらも礼儀で自己紹介をしておく。社交辞令だ。できればこのタイプとは関わりたくない。
「いやぁ、アキュート先輩ってとぉっても強いんですね。見ましたか、ゾスの眷属の悔しそうな顔! ヘヴィ、とっても憧れちゃいますぅ~」
「
「またまたぁ。
「あなた、やけに馴れ馴れしいですわね」
初対面なのにベタベタと距離感がおかしいぞ。
太鼓持ちの腰巾着みたいにおだててくるヘヴィという
手放しで過剰な褒め称えにアキュートも困惑気味だ。居心地悪そうに
「それでぇ、ヘヴィとっても気になっているんですけどぉ。あのおっきなペガサスの技って、どうやって出したんですかぁ?」
「どうもなにも、エルルとの合体技ですわね」
「エルルにも原理はよくわかってないエル」
「ふーん、そうなんですね~。合体技かぁ、憧れちゃうなぁ~」
ヘヴィはあの大技について知りたいらしい。ちらちらと、オレとアキュートの杖を交互に見ている。
派手で強力な大技を、同じ
と今後の展開に憂いていたのだが。
「じゃあじゃあ~、ヘヴィにもこの妖精さんを使わせてくださいね~」
がしり、と。
オレの、エルルの大きい頭が、UFOキャッチャーよろしく掴まれた。
「ふぁっ!?」
気付けばオレは、ヘヴィの豊満な胸の谷間にずっぽり差し込まれていた。柔らかさとぬくもりで気分は良いが、身動きはさっぱりとれなくなった。
回避や抵抗をする間もなく、あっさりと、男の夢と希望が詰まった双子山に、体の自由を奪われてしまったのだ。
明らかにピンチなのだが、ちょっぴり嬉しい。鼻の下がびろんびろん伸びてしまう。
「なんのつもりですの!?」
「見ての通りですよぉ。ヘヴィもぉ、先輩みたいなつよつよ必殺技を使いたいだけなんですってば」
「だからって、エルルを奪うなんて、ゾスの眷属と同じじゃありませんこと!?」
「はぁ、口うるさい先輩ですねぇ……」
頭上から「ちっ」と舌打ちが聞こえた気がした。否、確実に鳴っていた。
もしかして。
恐る恐るヘヴィの顔を見上げると、案の定、その瞳は冷たく歪んでいた。可愛い子ぶってすり寄ってきたが、どうやらこちらが本性らしい。
「新しい力さえあれば、先輩なんてどうでもいいんですよ!」
さらけ出した本心の叫びと共に、視界がぐるりと高速で回る。
――ズガッ!
「ぐっ」
「あはっ、さすが先輩。防がれちゃいましたね♪」
左の前腕を盾代わりにした防御は間に合い、ヘヴィの拳は狙いを外してしまう。
だが、それだけで終わるはずもなく。
ヘヴィは続けて左の拳を振り下ろす。そこへ更に右、再び左。嵐のような連続パンチを叩き込んでいく。
「だだだだだだだだだだっ!」
降り注ぐ拳の雨に、アキュートは両腕を構えて
「あれあれぇ? もしかして先輩ってば、ヘヴィよりも弱いんですかぁ? ザコなんですかぁ?」
「ぐっ……
――ばきっ。
減らず口に返答した瞬間、アキュートの
しかしそれは、守りきれなかったせいではない。
「アキュートストーム!」
技を放つために敢えて防御の構えを解いたのだ。フリーになった右手、そこに握られた銀色の杖から、風の三角錐が鋭く撃ち出される。
「きゃあ!?」
至近距離からの射撃を避けきれず、三角錐が腹部に直撃。爆風でヘヴィ、そして胸に挟まれたオレは吹き飛ばされてしまう。
「――もうっ、痛いんですけどっ!?」
「先に手を出したのはそちらですわよ」
「揚げ足取りなんて、先輩、器が小さ過ぎですよ!」
舌戦で毒づきながら体勢を立て直すと、ヘヴィは虚空から一本の杖を取り出す。
『-
くぼみにはめ込むのは彼女のイメージカラーと同じ、
「ヘヴィクラッシャー!」
技名を叫ぶと同時に杖から岩石の弾丸が放たれる。ゴツゴツとした見た目に反してそれは高速で敵の肉体を
対するアキュートは真っ向から受けて立ち、青く光る杖より三角錐を撃ち出した。
――ガリガリガリッ!
空中で岩と風が激突して、周囲に砂利混じりの突風が吹き荒れた。
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