MOON~月光~ATTACK
「ペガサスに変身しただと!?」
想定外の展開に、ソグサは緑色の瞳をまん丸に見開き、忙しなく手足をばたつかせている。格好付けている割に肝の小さい少年だ。もっと堂々としないと大物さは出ないぞ。
「嘘……」
一方のアキュートも驚きを隠せないらしく、ぽかーんと口を開けっ放し。妖精の王女が突然ペガサスになったのだ、思考停止するのも無理はない。
「アキュート、このまま決めるエルよ!」
「え、ええ、そうですわね!」
呆けていたアキュートだったが、はっと我に返るとその目には戦士の色。地球の生命を守る正義の光が宿っていた。
『-
「アキュートペガサステンペスト!」
アキュートは杖を天高く掲げ、空をかき混ぜるようにくるくると回すと、一気に前方へと振り下ろす。
オレはその指揮棒に合わせて
「食らうエル!」
頭部より放たれた三角錐は、ドリルのように回転しながら怪人の腹部に突き刺さる。だけではなく、更に高速で回り続けて貫き通し、胴体にぽっかりと大きな穴を開通させた。
「ディ、イィ……」
黒い粘液を噴出させながら、ディープワンはどうと倒れる。と同時に大爆発し、散り散りになった触手が散乱していく。びちびち釣りたての魚みたいに触手が跳ねる中、爆心地には素体だった少女が転がっていた。
巨体すら貫通する槍が刺さったので内心ヒヤヒヤだったが、どこにも外傷は見当たらない。無事に救い出せたようだ。便利だな、この必殺技。
「え、我の見せ場は……?」
まともに戦うことなく手下を倒されてしまい、ソグサはショックで放心状態。粉々のディープワンだった物体を見つめているだけだ。
「身の丈に合わない見栄えを求めているから、ご覧の通り無様に負けるのではございませんこと?」
「ぐぬっ……! わ、我が再臨する時を楽しみにするがいい!」
そして煽りに対してなにも言い返せず、ソグサはさっさと帰っていくのだった。
実力足らずなのに自信過剰で強がりを言うあたり、やっぱり中二病っぽいな、あいつ。
※
元の妖精形態に戻ったオレと、疲労で倒れ込んだほむら、そして変身解除した風華のふたりと一匹は、市内にある公園のベンチに腰を下ろしていた。
戦っている間にもう夜だ。薄暗い敷地内を、心許ない街灯だけがぼんやり照らしている。日中子供達が遊んでいただろう遊具も、静けさの中ではどこか寂しそうに見えた。
一方、周囲の景色とは対照的に、オレ達の空気は至って明るい。
「龍崎ほむらさん。あなたの
「それって、つまり?」
「エルルさんのお世話は、あなたにお任せしますわ……ってことに決まっているでございましょう?」
「あ、ありがとうございます、生徒会長!」
青春ドラマあるある、拳を交えて気持ちが通じる、肉体言語的なアレだ。河原で寝転んでお互いの健闘を称える、ベタなシーンが思い浮かぶ。
今の彼女達はそれと同じ状況なのだ。
至らないところだらけでも、一度やると決めたことは意地でもやりきる。不屈の精神で立ち上がるドレイク――ほむらの姿を目の当たりにして、使命に固執していた風華の気持ちも変わったのだろう。これからはふたりの関係も柔和で
「あー、でも心配ですわ。あなたって掛け値なしの馬鹿ですもの」
「……え」
「やっぱり私が預かった方がいいかもですわ」
前言撤回。
まだ溝は深そうだ。
「ちょっと生徒会長!? あたし結構お馬鹿な方だけど、やる時はやるんですよ!」
「ええ、それ込みで気を揉んでいるのですわ」
「ひーどーいーでーすーっ! もうちょっと手心! 信頼という名の手心を~っ!」
「ありませんわ」
「凄いあっさり!?」
変身アイテムの出自とかドリームランドの方針とか、色々引っ掛かることがあるのだが、ひとまず一件落着扱いでいいだろう。
ほぼほぼ現状維持、特に問題なし。
残る不安を敢えて言うのなら、風華の人となり、彼女がどんな人物なのか、くらいだろうか。
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