風のシンパシー
「我の名はゾスの眷属がひとり、ソグサ。この世界を
月明かりを背に敵の少年――ソグサが現れる。その後ろには化粧品混じりのディープワン。「降臨、満を持して」と言いたげな仰々しいポーズで登場だ。
タイミングが良いのか悪いのか。
「面汚しのガターノに代わり、この†
ソグサは口角を吊り上げて自慢げに、砕けた言い方をすればドヤ顔で長々と語っている。要約すると今から戦うぞって話だ。もっと簡単に言えばいいものを、無駄に格好付けているせいでいまいち伝わらない。頭の悪そうなふたつ名にはダガーマークが付いていそうだし。
端的に表すのなら、ソグサは中二病患者の痛い子だ。オレにも似たような時期があったので、微笑ましさよりも見ていられなさの方が強い。もっとも、ゾスの眷属なのでオレより年上だろうけど。
「
ひゅんっ、ぐしゃ。
べらべらうるさいソグサの顔面に、ドレイクとアキュートの拳がめり込んだ。整った顔立ちは潰れたマシュマロに、来た道を逆走するように吹っ飛んでいった。上司が水平に飛んでいったせいで、ディープワンも呆然としている。
「いいパンチですわね」
「そっちこそ」
ふたりは互いの拳を褒め合っているのだが、今のは完全に不意打ちじゃないか。そこにいたお前が悪い状況ではあるが、正義の味方がやるにはギリギリアウトな気がする。
「ぐふっ……い、言い終わってないのに殴るとは卑怯千万!」
腫れ上がった顔が無残なソグサはよろりと起き上がる。散々格好付けたのにこの始末で恥ずかしさ有頂天、怒り心頭で爆発寸前といった具合か。
しかし批判はごもっともだ。オレも同じことを思った。台詞や技の邪魔はしない、これ鉄則ね。
「せっかく我の強さを誇示した演出をしたというのに、貴様らのせいで台なしだ!」
「と、おっしゃっていますが?」
「えー、知らなーい」
うーん、このハイパー無慈悲さ。
心優しいドレイクことほむらでも、全ての生命を滅ぼすのが目的の連中相手では、自慢の慈愛精神もどこへやらだ。許すか許さないかの判断はキッチリ線引きされているらしい。
「それならふたりがかりで、手早く終わらせませんこと?」
「あ、ソレさんせーい」
カフェでお茶しない? みたいなノリで話しているよこの子達。共通の敵が現れたおかげで気持ちもシンクロしているのだろうか。
しかし、体の方は追いつかないようで、
「うっ……」
ドレイクは顔を歪めて
ほんの数分前までアキュートと本気のバトルをしていたのだ。しかも背中に必殺技が直撃している。万全とは程遠いコンディション、変身が維持できないのも当然である。
「ククッ、どうやらひとりは地獄に片足踏み入れているらしいな。だが安心するといい。この場で我が
ソグサがまたもや格好付けてしゃべっている。とっくにメッキが
「残念ですわね。地獄行きはそちらですわ」
アキュートは杖の先端でソグサを指し示す。売り言葉に買い言葉だ。ぽっと出の相手には負けない、という誇りと自信に満ち溢れている。
「あ、あたしも戦う!」
「あなたはそこで見ていなさい。ケガ人が前線に出てきても迷惑なだけですわ」
「お前がケガさせたエルけどね」
「私、細かいことは気にしない主義でしてよ」
自分がやったくせにこの態度である。だが、ほむらの分まで戦ってくれるのは本気らしい。
少々勝ち気でトゲの多い子だが、
「ディー!」
無数の触手をぬるぬる
「エルルさんは龍崎ほむらさんと一緒に安全な場所で隠れていてほしいですわ」
負傷した戦士と貧弱な妖精を守りながらでは戦いづらい。そう判断しての願いだろう。普通であれば限りなく正解の選択だ。
でもその読みはハズレ。オレを普通の枠組みで測ってはいけない。
「その必要はないエル」
オレは迷わずに、アキュートの杖にそっと触れる。
あの時と同じだ、きっとうまくいく。根拠はないが確信はある。
「え……?」
杖から流れ込む風の力が、体の奥底に眠るエネルギーと溶け合っていく。
三頭身の細い体はみるみるうちに大きくなり、手足はすらりと伸びて四足歩行に。背中の薄い羽は手触りふわふわ
思った通りだ。
オレに備わる謎の力は、
発現する形態は通じ合う相手の属性によってそれぞれ違う。
ドレイクの場合は炎のドラゴン、そしてアキュートの場合は風の体躯で天をかける蒼き馬――ペガサスに。
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