イマージュの翼
「王女探しに手間取るかと思いましたが、案外近くにいて助かりましたわ。それに隠し事が下手だったのも幸運でしたわね」
「ですよねー、エル」
案の定だ。挙動不審なほむらの様子からオレの存在に感づいたのだろう。この間の猛ダッシュ逃げなんて、完全に隠し事しているムーブだったもの。鈍感さんでもピンとくる。
「それで王女の……ええと、お名前は?」
「エルルエル」
「では妖精の王女エルルエルさん、私と一緒に来ていただきますわ」
「エルが余計エル」
「え、じゃあ“ル”さん?」
「そうはならんやろ、エル」
「と、とにかく、王女は私が守りますわので」
こほんとひとつ咳払いで
「おっと」
「あ、こら、逃げないでくださいまし!」
ひょい、ひらり。
背中の羽を輝かせて、オレは捕縛の手を華麗にかわす。
不意打ちを二度も食らってたまるか。ほむらの前で格好悪い姿は見せたくない。
「エルルは渡さないよ!」
また、ほむらも黙っていない。
オレを庇うように前へ出た彼女は、宣戦布告のようにクロノミコンブックとマゼンタのトラペゾンボトルを構えた。
「そちらが争うつもりなのでしたら、正々堂々勝負といきませんこと?」
敵意を向けられても風華の余裕さは揺るがない。
悠然とブックを開くと、ボトルの蓋をくるりと回して半開きに。液晶画面上部のくぼみにカチリとはめた。
『-
ブックが色をアナウンス。続いてインクが注ぎ込まれ、画面に映るはペガサスの紋章。機械音声の通り、セルリアンブルーカラーで浮かび上がる。
流れ始める変身待機用BGMは、ほむらと違って小気味良いブラスバンド風。同じフレーズを繰り返し、変身を今か今かと待ち望んでいる。
『-
「ビビッドチェンジ!」
たおやかな指先ひとつで画面をタップ、風華の声に応えた光が彼女の体を包み込んだ。
紺色の髪は鮮やかなセルリアンブルー、ロングヘアーは更に増し、前髪は羽を模した一対の癖っ毛に仕上がっていく。
光はミニスカートのドレスを構築、その
『-
『-
ブラスバンド風の曲をバックに機械音声が告げる。
青き戦士がその姿を表したのだ、と。
「駆け巡る疾風のカラー! マジバトアキュート!」
天馬風華――マジバトアキュートが勇ましく名乗りを上げた。
色も変身者も違うが、
「あたしだって変身するんだから!」
同様のプロセスでほむらもマジバトドレイクに変身だ。
アイテムの扱いとか見た目の変化とか、細かい流れはしつこいので省略する。
『-
『-
「舞い踊る烈火のカラー! マジバトドレイク!」
光を割って現れたドレイクは名乗りを上げるとすぐに戦闘態勢に入る。
「お、おいおい。ちょっと落ち着こうエル……」
スパンコール
両者の視線がオレを挟み、バチバチと火花を散らしている。
これはマズイ。とてもマズイぞ。
少女漫画のテンプレート、ベタベタでありがちな展開。ヒロインを巡ってイケメンが切った張ったのド派手な
さてこの修羅場、どうするのが正解か。
オレの経験則からして、大抵の場合は優柔不断さが悲劇を引き起こす。浮気性の男がひとりを選べず、結果最悪の展開が舞い込んでくる。三角関係の行き着く先は、ナイスなボートで鮮血の結末だ。それは性別が逆だろうが異種族だろうが同じだろう。実体験はないし、ほとんど創作物由来の知識だけど。
要するに、こういう時は気持ちをはっきり示すのが一番なのだ。
オレはドレイク側のポジション。ほむらと一緒に暮らす派だと宣言しておかないと。
その結論から、オレはふわりとドレイクの元に向かおうとして、
「あなたはそこで見ていなさいですわ」
アキュートに
これはふたりの一騎打ち、妖精の介入は許さない。
あ、駄目だ。
逆らったら殺されるね、確実に。
命の危険を察したオレは、すごすごと後ろ向きで引き下がると、重機の上にちょこんと座った。
年端もいかない少女達の、
ああ、不甲斐ない。
いくら元一般男性でも、女の子同士の戦いを止められないなんて。妖精以前に男失格と言われそうだ。
と、自罰的な思考の一方で、これから巻き起こるバトルにワクワクしている自分もいる。
正義の味方が、互いの信念をかけてぶつかり合う。
本来同じ目標を掲げた者同士、手を取り合うのがセオリーだ。しかし、それは一時の
ヒーローものにはお約束ではないだろうか。
そんな熱く心震えるイベントに憧れていたし、当事者になれたのが嬉しくないと言ったら嘘になる。
もう、
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