導かれて
「生徒会長!? なにを――」
「あまり大きい声を出さないでほしいですわ。まるで私が悪者みたいじゃありませんの」
風華は
「ここでは都合が悪いですわね。場所を変えませんこと?」
風華はオレを握ったままスタスタと歩き出す。
「ま、待ってよ!」
「この子を返してほしければついて来なさいな」
「……くっ」
状況が飲み込めないまま、ほむらは苦々しい表情で後を追ってくる。
オレも戸惑いを隠せない。そして息が苦しい。窒息死しそう。
※
そんな人っ子ひとりいない場所で、ほむらと風華はじりじりと
「ここなら心配なさそうですわね」
「なんのですか」
「秘密のお話をするのに
妖精という名の
「エルルを解放して」
「どうしてですの?」
「あたしのパートナーだもん、生徒会長のじゃない」
「そうですわね、今のところは」
「……?」
意味深な言葉にほむらは首を傾げてしまう。
「まぁでも、一旦離してさしあげますわ」
風華がやっと手を開いてくれる。
これで自由だ。オレはすぐに飛んで指の束縛から逃れた。
寒い。ずっと握られていたせいで、白いワンピースは風華の手汗でじっとり濡れている。寒風のせいで湿った部分がどんどん冷えていく。早く着替えたい、こたつに入りたい。
「生徒会長は、一体何者なんですか」
ほむらは単刀直入に、一番の疑問を口にする。
「ゾスの眷属……と言ったら、どうするつもりですの?」
「気は進まないけど、倒します」
「あらあら、怖いですわね」
ピン、と空気が一層張り詰める。耳鳴りがしそうなほど静寂が鼓膜に染み渡る。
オレをピンポイントで狙ってきたことといい、ゾスの眷属という用語を知っていることといい、ただ者ではないのは明らかだ。
一秒たりとも気は抜けない。次の瞬間、どちらかの首が落ちても不思議じゃない状況だ。
「ふふ」
だが意外にも、先に緊迫を崩したのは風華だった。
口元に手を当てて、上品にくすくすとおかしそうにしている。
「冗談はここまでにしておいて、そろそろ答え合わせにしますわね」
風華はおもむろに、自身の鞄をごそごそと漁り始める。
なにか来る、と反射的に変身アイテムを構えるほむらだが、視界に映った物に驚愕して手が止まった。
「それって、まさか」
白い本と歪な形状をしたインクボトル。ほむらの変身アイテムと同一の物が、風華の手にも収まっている。違いがあるとすれば、向こうのボトルは青いことくらいだ。
「そう、私もあなたと同じ、
クロノミコンブック、そしてトラペゾンボトル。風華が
「そうか、どうりで……」
何故、彼女がニトクリスミラーの中に手を入れられたのか。
答えは単純、同じ
しかし、謎はまだ残る。
「どこでその力を手に入れたエル?」
それなら彼女はどこで力を入手したのか。それが最大の問題である。
「まぁまぁまぁまぁ、よくぞ聞いてくれましたわ。その質問を待っていましたの」
「そうですか、エル」
「私の
「普通に一番気になるエルからな」
「ええ、ええ。そうですとも、この私の
「はよ言えや」
え、なんだこいつ。
偉そうだし、自分に酔っているし。凄く面倒臭いぞ。
「フフン。それでは
ババーン!
という効果音が付きそうな、大仰なモーションで風華が見せつけてきたのはスマートフォンの画面。どうやら受信メールが表示されているようだ。
「メールだね」
「メールエル」
「はい、メールですわ」
オレとほむらの頭上に疑問符の嵐が巻き起こる。
ただのメールがどうした。
「目を皿のようにして隅々までキッチリ、よぉくご覧なさい。ついでに音読してくださいまし」
なんで声に出して読まないといけないんだ、とツッコミを返したい。しかし怒らせるのもよくない、絶対余計なことをする。
オレは画面上の文章に目を通して読み上げていく。
「えーっと、なになに……。
このメールは厳正な抽選で選ばれた方にお送りしています。
ご当選、おめでとうございます!
この度お客様は、ドリームランド主催
あなたはとても幸運です!
あなたは
景品の変身アイテムは後日郵送いたします。下記のリンク先にて住所年齢性別など必要事項を記入ください。
注意。日付が変わるとリンク先に繋がらなくなる、権利が失効する可能性があります。
……で、コレが?」
「そう、私は
「えぇ……」
誰がどう見ても詐欺メールです。本当にありがとうございました。
もし文章に“
「まさか、この指示に従ったエルか?」
「当然ですわ。せっかく当選したのですから、受け取るのが筋ではございませんこと?」
「身に覚えのないメールは大体詐欺エル」
普通なら見知らぬ相手に個人情報を提供しないだろう。大手サイトに偽装し巧妙に騙すタイプならまだしも、懐かしの日本語怪しい詐欺メールに釣られるとは。
この子、生徒会長で頭は良いかもしれないが、常識のなさは一級品かもしれない。世間知らず過ぎる。
「でも、こうして変身アイテムは届きましたわ。置き配で」
「左様エルか」
しかし、詐欺じゃないのは本当だ。彼女のブックとボトルがそれを証明している。
とすると、このメールはドリームランドが送っているということになる。あちらにもインターネットがあるのか、通信手段はなにか、どうやって宅配したのか。疑問点が温泉みたいにボコボコ湧き出てくるぞ。
「それで、風華は
「ええ。ゾスの眷属とかいう輩から妖精の王女を守ってほしい、という手紙も一緒に送られてきましたので」
それでオレを捕まえようとしていたのか。
要するに、ドリームランドは当選者の風華を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます