51.スカルデット
アルトたち三人は峡谷を最速で駆け抜け、ようやくその場所にたどり着いた。
――峡谷の奥地。
そこに、ワイロー大臣とその配下の兵士が二名。
そしてその前に王女シャーロットの姿があった。
「――王女様!!」
縛られ身動きが取れない状態ではあったが、生きているのは遠目にも確認できた。
「なんだ、アーサーではない方か」
アルトたちを見ると、ワイローは半笑いでそう言った。
「ワイロー大臣!?」
事件の首謀者がこの国のワイロー大臣だという事実に驚きを隠せないアルトとミア。
「アーサーが先にこちらにたどり着いてくれればよかったが、まぁよい。いずれどちらも倒すことになる。ひよっこのお前たちが“準備運動”にはちょうどよいだろう」
と、次の瞬間。
ズシン、と。
何かが地面を揺らす。
そして、すぐにその音の主が姿を現した。
「――あ、あれは!?」
――現れたのは巨大な竜だった。
皮膚がなく、筋肉の上に骨が浮き出た異様な体躯。
そして、その赤い眼で二人を捕らえると、大きな咆哮がとどろいた。
それだけでも大地が揺れる。
ドラゴンは数あるモンスターの中でも最強の種類だ。
以前アルトは朽ちかけたドラゴン・ゾンビと戦って勝ったことがある。
だが、今回の敵はそれとは比べ物にならないサイズだ。
「大竜スカルデッド! 我がしもべよ。やつらを殺せ」
ワイロー大臣は頭上にそう言い放つ。
すると、スカルデッドはもう一つ大きく咆哮して、アルトたちの方にとびかかってきた。
「“ファイヤー・ランス”!」
アルトは咄嗟に自身が持つ最上級の攻撃スキルを放つ。だが、それはスカルデッドの勢いを止めることはできなかった。そのまま突撃してくる。
アルトたちは咄嗟に左右に散会して、攻撃を避ける。
すんでのところで、巨体に触れることなく躱すことができた。
だが、このままでは、いつか避けられなくなる。
――アルトは攻撃よりもまず自分と仲間に身体強化のバフをかける。機動力を上げて攻撃を避ける魂胆だ。
「逃げ回っても無駄だぞ」
ワイローが笑いながらそう言った。
確かに、逃げていても勝てないのは事実だった。
「“ファイヤー・ランス”!」
アルトはレベルアップによって会得した32連撃で中級スキルを叩き込む。
「――グァァル!!」
だが、その攻撃は本当にわずかばかりにスカルデッドの装甲を削ることしかできなかった。
「“神聖剣”!」
リリィも得意の神聖魔法の上位攻撃を叩き込むが、これもやはりスカルデッドの圧倒的な防御力を前にはかすり傷も同然だった。
「これじゃぁ埒が明かない!」
アルトとリリィの最大火力をもってしても、スカルデッドにまともなダメージを与えることはできなかった。そうなると、突破口を見いだせなかった。
「グルゥゥゥ!!!」
次の瞬間、スカルデッドは大きく息を吸い込んだ。
そして次の瞬間、スカルデッドの口から黒炎が吐き出される。
巨竜から放たれる“ドラゴン・ブレス”。
その炎は地面さえ焼き尽くしながら、アルトたちに迫った。
アルトたちは必死に斜め後方に跳躍する。
なんとかど真ん中の直撃を免れそうだったが、攻撃はあまりに広範囲にわたり炎の端部がアルトたちに迫ってきた。
それぞれ迎撃の魔法を放つ。
「“ファイヤーウォール”!」
「“ディスペル・ショット”!」
だが、それでも攻撃を完璧に受け止めることはできず、アルトたちはそのまま後方に吹き飛ばされる。
「スカルデッドの攻撃をお前たちごときの技で防げると思ったか!」
ワイロー大臣はアルトたちの必死の抵抗を見て高笑いした。
アルトの火力でも大きなダメージを与えられない。
ミアの得意技“ディスペル・ショット”も、物理的に強大な相手に対してはさほど効果がない。
万事休すとはまさにこのことであった。
かといって、王女様が相手の手にいる以上、アルトたちに撤退の選択肢はない。
唯一の望みは――
「アーサー隊長が来るまで耐えるしかない」
アルトの導き出した答えは、そんな他力本願だった。
だが、
「アーサー隊長でもスカルデッドには勝てないぞ!」
ワイロー大臣は元々、目障りなアーサー隊長を葬るためにわざわざこうした大がかりな作戦を実行に移したのだ。
アーサー隊長の強さは織り込み済みである。
ウェルズリー公爵を利用し、最強の騎士にさえ勝てるような魔物としてスカルデッドを用意したのだ。
「――ッ!」
アルトたちは完全な八方ふさがりを自覚した。
アーサー隊長さえ来れば――だが、そんな一縷の望みを持つことさえ許されない。
「グァアァアアアアアアアア!」
大竜はひときわ大きな雄叫びを上げ、アルトたちにとびかかってくる。
その鋭い爪がアルトたちに襲い掛かってくる。
必死の跳躍でなんとか避けるアルトたち。
だが、次の瞬間、スカルデッドの口から再びドラゴンブレスが放たれる。
アルト目掛けて放たれる攻撃。避ける余裕はなかった。
「“ファイヤーウォール”!」
防御を試みるが、スカルデッドの攻撃力からすれば大した問題にはならない。
アルトの築いた炎の防壁は軽々突破される。
「“ディスペル・ショット”!」
「“神聖結界”!」
アルトを助けようと横からリリィとミアがそれぞれスキルを放つ。
だが、それも炎の勢いをいくらか緩める程度に過ぎなかった。
「“ファイヤーランス”!」
アルトは決死の覚悟、最後のあがきでファイヤーランスの16連発を、左右から2発同時に撃つ。それらは――アルトの目の前でぶつかり爆発を生み出す。
その爆風でアルトは吹き飛ばされる。
はたから見ればただの自滅。だが、それによってアルトはドラゴンブレスの直撃を免れたのだ。
「いよいよおしまいだな!」
辛くも必死の一撃を躱したアルトだったが、今ので結界は削られた。
もう彼の体を守るものはない。
次に攻撃が当たったらおしまいだ。
「――アルト! なにかないの!?」
と、突然リリィがそんな風に叫んだ。
「なにかってなにさ!」
「なにかったらなんかよ! もっとコスパ厨らしく、効率のいい方法!」
そんなものあるはずがない。
アルトはそう言い返そうと思った。
だが、
「――――いくらアイツが強いっていっても、どこかに弱点が一つくらいあるかも……そこを集中攻撃できれば!」
アルトは前にドラゴンゾンビを倒した時のことを思い出していた。
あの時は弱点になる「コア」を狙うことで勝利できた。
目の前の大竜にもそういう弱点があると思ったのだ。
(だけど、それがどこかわからない……!)
アルトは必死に頭を回転させる。
そして、ようやく考えても仕方がないのだと気が付いた。
弱点がわからないならば、探すしかない。
――オートマジックをフル活用する。
時間差でスカルデッドの体中にファイヤーボールを打ちまくって、それで相手に与えたダメージを記録する。それでダメージが大きいところを探し出す。
――いや、だがそれをやるためには難しいテキストをかかないといけない。
アルトのオートマジックは複数の構文を組み合わせて、難しいことを自動化できる。
けれどそれを実現するには、テキストウィンドウを開いて、内容を打ち込まないといけない。
そんなこと、とてもこの戦場では一からテキストを書く余裕はない――
――――いや、待て。
アルトの頭から今の今まですっかり抜け落ちていた事実。
(そうだ。新しいスキル! “瞬間記述(ノーコード)”だ!)
あのスキルが言葉の通りならば、スカルデッドの弱点を探すためのテキストをすぐに書けるはずだ。
「リリィ、ミア。逆転できるかもしれない! だから少しだけ時間を稼いでくれ!」
アルトが言うと、リリィとミアは何も聞かずスカルデッドに一斉に攻撃を浴びせた。
その後ろでアルトは“オートマジック”のテキストを起動した。
「――“瞬間記述(ノーコード)”起動!」
そして、アルトは導かれるように、テキストにしたいことを命じる。
「――ファイヤーボールを相手の体中に浴びせて、ダメージ量を集計。もっともダメージを与えられる場所を特定しろ」
アルトが言うと、テキストウィンドウが光りだす。
そしてあっという間に、アルトが思い描いた通りのテキストが記述されていく。
そして完成したテキストをすぐさま起動させる。
「(弱点探索)起動!」
次の瞬間、空中に一斉に36発の“ファイヤーボール”が現れ、スカルデッドに様々な放物線を描いて飛んで行った。
そして、続けざまにもう36発発射され――さらに続けて36発。
次々スカルデッドに命中し爆発する。もちろん大きなダメージを与えることはできない。
――だが。
アルトの視界にテキストウィンドウがポップする。
そこには、ファイヤーボールが各部位に与えたダメージが一覧になって現れる。
「――翼の付け根か……!!」
そこだけ明らかにダメージ量が10倍以上あった。
アルトは仮説を確かめるため、最高火力の攻撃を放つ。
「“ファイヤーランス”!!」
中級魔法の36連撃。
「グァァアッッッ!!!」
今までのそれとは明らかに違う悲鳴があがった。
アルトはやはりそこが弱点なのだと確信した。
「みんな、翼の付け根だ! 右の翼の付け根に集中攻撃を浴びせてくれ!!」
アルトが言うと、二人は一斉に攻撃を集中させる。
「“アイスランス”!」
「“神聖剣”!」
二人の攻撃も加わり、スカルデッドはさらに大きなうめき声をあげた。
見ると、翼の付け根に亀裂が入っていた。
「――いける!!」
だが、痛みを振り払うように、スカルデッドは黒炎を放ってくる。
それによって、ミアとリリィの結界が破れた。
これ以上の戦いは危険だ。
「――今しかない!!」
アルトは走っていき、危険は覚悟のうえで近距離でスカルデッドの翼の付け根に攻撃を叩き込んだ。
「“ファイヤーランス”!!!!!!!!!!!」
近距離、裂け目から叩き込まれた炎の槍は、スカルデッドの心臓を貫き、体内を燃やし尽くした。
「――――――グァアアアアアアッ!!!!!!!」
大竜は最後の悲鳴を上げる。
そして、それを最後にその身体は地面へと倒れこんだ。
「か……勝った!!」
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