46.初めての任務



 アルトたちは、王女とともに王都の東方にある都市ミントンへと向かっていた。


 王女は馬車に乗り、その周囲を第三、第七近衛隊が連携して護衛する。そしてさらにその前後に一般兵の隊が同行するという徹底した護衛体制であった。


 そのおかげもあり、一行は特にトラブルもなく、二日後には無事ミントンの街へとたどり着いていた。


「ようこそ、お越しくださいました、王女様」


 ミントン城の正門をくぐると、ミントン公爵の一行が王女たちを出迎えた。

 ミントン公爵は禿げ頭で小太りの中年男性であった。よく言えば貴族らしく恰幅が良いという印象である。


「お久しぶりです、ミントン公。この度はお時間を作っていただき、ありがとうございます」


 シャーロットはそう言って頭を下げた。


「とんでもございません。王女様が地方の老人の領地まで足を運んでくださるとは、これ以上の名誉はございませんぞ――まぁ、ひとまず城の中へお入りください」


 ミントン公はそう言ってから、王女たちを城の中へ誘(いざな)う。

 一行は城の中に通され、それぞれの部屋に案内された。


 そしてそれぞれ荷物をおいてから、広間へと通される。


 そこには豪華な食事が全員分、用意されていた。


「政治の話は明日以降ゆっくりしましょう。まずは皆様、旅の疲れを癒やしてください」


 王女様のミントン滞在は、五日間の日程で組まれていた。

 なので、焦る必要はないということだろう。


 アルトたちはミントン公爵がふるまってくれた料理に舌鼓を打った。


「最近の公爵領はいかがですか? 」


 王女は、雑談の一つとしてそんな話題を持ち出した。

 するとミントン公爵は笑みを浮かべて答える。


「おかげさまで栄えております。魔法石の採掘が順調で、税収も増えております」


「ミントンで取れる魔法石の質は一級品ですからね。王室にも収めていただいているものも最高級の品質で」


「ええ。ただ、そうですね。しいて言えば、最近はちょっとした困りごとが」


 と、ミントン公爵はそんなことを切り出した。


「魔法石を掘りつくして放置された坑道に、魔物が住み着いてしまいまして、民に被害がでているのです」


 ミントン公爵は、何気ない雑談の一つ、というような雰囲気でそれを話題にした。

 しかし、実際は明確な意図があった。


 シャーロットが、ミントン公爵の元を訪れたのは、端的に言って自分の仲間になってほしいという「交渉」のためだった。

 まさか何の得もないのに王女の味方をしてくれるほど、貴族たちはお人よしではない。だからこそ、王女からのギブがあるのかどうかが大事なのだ。


 つまり、自分の側につけば得がある。何か困っていることがあれば、それを解決してあげるから、その代わりに私の派閥に入ってください。

 こういうことだ。


「(当然、ミントン公爵もそれを理解しているんだ。だから王女が自分に利する人間かを確かめるため、まず手はじめに、この話題を切り出したんだろうな)」


 アルトは心の中でそう考えた。


「それは大変です。冒険者たちではどうにもならないのですか?」


「もちろん動いてくれているのですが、どうも敵が強くて、なかなか退治は進んでいません」


「なるほど。であれば、一つ提案なのですが、我が近衛騎士に魔物の退治を任せてみるというのはいかがですか?」


 王女はそう提案した。

 ――もちろん、こうして取引をするために、第七近衛隊を作ったのだ。


「なんと。近衛騎士が魔物を退治してくれるというなら、これ以上のことはありません。しかし、敵は強敵ですぞ……?」


「我が第七近衛隊を討伐に向かわせましょう。アーサー隊長率いる精鋭部隊です」


「それは心強い……ッ!」


 それで話は決まった。

 だが、アーサーには一つ心配事があった。


「王女様。第七近衛隊が王女様の元を離れるとなると、警備が手薄になります」


「心配ありません。第三近衛隊がいます。これまで私の警備は彼らに任せてきたので問題はないでしょう。それにミントン城の兵士たちもいますから」


「……承知しました。それでは急いで、魔物たちを倒してまいります」



 †


 そうして、第七近衛隊の一行は魔物たちが巣食う坑道のある山へと向かった。


「東の方と、それから南の方の坑道にも魔物がいるんだ」


 近くの町の人間に状況を尋ねると、そんな答えが返ってきた。


「では隊を二つに分ける。私、ミア、リリィで東を、フランキーとアルトで南を担当する」


 アーサーがそう決定した。

 

「ちょっと決闘は強いかもしれねぇが、実戦はそう簡単じゃねぇ。足を引っ張るんじゃないぞ」


 旅の間にフランキーはなぜか自信を取り戻したようで、アルトに対して先輩面をするようになっていた。


「……精一杯頑張ります」


 アルトは大人にそう答えたのだった。


 †

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