45.父との再会



 初めての任務の概要が説明された後、アルトたち、もとい第七近衛隊は王女のいる建物を後にした。


「今日はこのまま王宮を出たら解散とする。各自旅に備え、明日は朝七時に王宮の門の前で待ち合わせとする」


 一行にそう指示をを出すと、アーサー隊長はそのまま王宮の外へ向かって歩き始めた。


 ――だが、そんなところにアルトをぎょっとさせる男が現れた。


「これはこれは、アーサー隊長」


 と、アーサー隊長に話しかけてくる人間。

 

「お疲れさまでございます、ワイロー大臣」


 つい先程まで話題にのぼっていた「敵」の登場に一行は驚く。

 だが、アルトが息を呑んだのは、政敵が登場したからではなかった。

 それが霞むくらい、アルトにとって大きな出来事があった。


 ――ワイローの側に控えていた男。

 40代後半のその男は、アルトが誰よりも知っている人間だった。


「どうした、ウェルズリー公。彼がどうかしたのか?」


 ワイロー大臣は、ウェルズリー公の視線が釘付けになっていることに気が付いて、そう答えた。


 ――そう。

 ウェルズリー公と呼ばれる男は、この世にたった一人しかいない。


 ウェルズリー公爵。

 つまり、アルトの実の父親だ。


 アルトの中で、あの日の苦い思い出が蘇る。


 魔法適性がないとわかったあの日。

 ウェルズリー家の恥だと言われ、追放された。


 血のつながった父親のその所業。

 アルトの中では区切りはついていた、つもりだった。

 だが、実際に再会すると、アルトの心中にいろいろな感情が渦巻いてくる。


 しかも――


「いえ、大臣。赤の他人でございます」


 ウェルズリー公爵はゴミでも見るような、冷たい目でそう言い放った。


 その視線を見て、アルトは確信した。

 やはり父は本気で自分のことを見捨てたのだと。


「そうか。それはそうと、アーサー隊長。王女様の直属部隊の隊長になったそうだな。栄転、おめでとう」


 ワイロー大臣は白々しくそう言った。


「ありがとうございます、大臣」


 アーサー隊長は冷静にそう返す。


「君の活躍、楽しみにしているよ」


 そう言って、ワイロー大臣とウェルズリー公爵はその場を後にした。


 †



 ――大臣室。


 ワイロー大臣と、ウェルズリー公爵は向かい合って座っていた。


「ウェルズリー公、抜かりはないな」


「もちろんでございます。この日のために精鋭部隊を用意しました。もちろん“アレ”も」


「まったく頼りになるやつだ」


 ワイローは安堵の表情を浮かべる。


「ありがとうございます」


「まさかボーン伯爵があんなことで失脚するとは思いもしなかったが」


 ボーン伯爵はワイロー大臣の右腕であったが、息子のボン・ボーンの騎士試験で不正を働いた罪で投獄されていた。


「あやうく計画が白紙になるところだったが、お前のおかげで計画を遂行できる」


 ボーン伯爵が失脚した後、ウェルズリー公爵はいち早くワイロー大臣に取りいった。


 ウェルズリー公爵は今まで自身の領地で力を蓄えることに注力していたが、それもひと段落したところで、次は王室に取り入ろうと考えていた。先代の王とは懇意にしていたが、今の王になってからは交流が途絶えてしまっていた。だがより大きな権力を手に入れるためには、再び王室や宮廷の重鎮とつながる必要があった。


「これがうまくいけば、もはや宮廷に敵はいなくなり、私が宮廷の人事を完全に掌握できる。そうなれば、お前を次の財務長官につけてやるぞ、ウェルズリー公爵」


 ワイローは邪悪な笑みを浮かべて言う。


「ありがとうございます、大臣」


「三日後が、王女の命日になるのだ」


 ――――それがワイローたちの計画だった。

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