43.先輩騎士、アルトにマウントを取ろうとする
リリィと再会したアルトは、隊のメンバー二人がなじみの人間であることに安心感を覚えていた。
しかも、隊長も試験で顔を知っているアーサーとなれば、よりその感情は強くなる。
そうなると、問題は最後の一人だ。
「お前らが、アーサー隊の新人隊員か?」
アルトたちの前に、一人の男が現れた。
栗色の長髪をかきあげ、鼻の下には同じ色の口ひげが伸びている。
年頃は30代中頃といったところか。
長身の色男であった。
「はい、本日からアーサー隊に配属になりました、アルトと申します」
「リリィと申します」
「ミアと申します」
どうやら目の前の男が同じ隊に所属する先輩だということに気が付いたアルトたちは、すぐさま名乗って頭を下げる。
「オレはフランキー。ギルフォード伯爵だ」
貴族の家系に連なるものが多い騎士と言えども、伯爵家の現当主というのはかなり珍しかった。
貴族の称号が騎士の中での序列に影響を与えることはないが、年上なのも相まって、アルトたちは表情を引き締めた。
と、フランキーは突然アルトを指差して言った。
「隊に入ってくる新入りの男が、今年の合格者の首席だって聞いた。お前のことか?」
フランキーの問いかけにアルトはこくりとうなずく。
「憧れの騎士になれて浮かれてるだろうが、騎士団の仕事は甘くはない。いきなりだがお前がこの隊でやっていけるかどうか、確認させてもらおう」
突然そんなことを言うフランキー。
アルトは何が始まるんだとポカンとしていると、フランキーはくいっと顎でアルトの背後を示す。
背後に広がるのは訓練場。
つまり、
「模擬戦だ。お前に騎士の本当の力を見せてやるよ」
アルトはそれを聞いて、内心でめんどくさいことになったなとため息をついとり
リリィに視線をやると、フランキーにはわからない角度で苦笑いを浮かべていた。
「どうした新人、ビビっちまったか?」
フランキーはそう言いながら、大股で訓練場の中央に向けて歩いて行った。
アルトは後頭部を掻きながら、ついて行く。
そして、フランキーは振り返って、そして腰に差している剣を抜いた。
「ワンヒット勝負。体に攻撃が当たって結界が少しでも削られた方が負け。いいな」
「はい」
「さぁ。勝負だ」
フランキーの言葉に、アルトは一つ息を吐いてから身構えた。
「行くぜ!! “ドラゴンブレス”!!」
先攻したのはフランキーだった。
いきなり上級魔法を打ち放つ。
さすがは現役の騎士。上級魔法を一瞬で練り上げて放ってきた。
そのスピードは防御するすきを与えない――はずだった。
「(速い!)」
実際のところ、アルトがそう思った次の瞬間にはフランキーの魔法は迫っており、スキルを発動する時間はもう残されていなかった。
「もらった!!」
フランキーは反応できないでいたアルトを見て、そう確信した。
だが――次の瞬間、アルトの身体を突然現れた炎の幕が覆い隠した。
「なにいっ!?」
フランキーは自らの攻撃が防がれた事実に思わず声をあげた。
フランキーの目からは、アルトは攻撃に反応することさえできなかったように見えていた。
それなのに攻撃が弾かれた。
ありえない状況だった。
だが、さすがにフランキーも今まで騎士として戦ってきた男だ。
すぐさま次の攻撃をかける。
「――“ファイヤーランス・レイン”!」
今度は炎の槍を複数降らせる上級技。
それらは自然体で立つアルトに向かって一直線に飛んでいく。
やはりアルトは迎撃のスキルを唱える時間さえない。
だが、次の瞬間、同じように炎の幕によって攻撃が弾かれた。
「なんだとッ!?」
何も動いていないように見える敵に、まったく攻撃が当たらない事実に焦るフランキー。
実際は、アルトは“オートマジック”によって攻撃を自動で弾くテキストを設定していたのだが、フランキーがそんなことを知る由もない。
「それではこちらから行きます」
と、アルトはようやく反撃の狼煙を上げる。
「“ファイヤーランス”!」
“ファイヤーボール”の次に覚えるような基礎スキル。
フランキーが使った“ファイヤーランス・レイン”の下級スキルだ。
だからフランキーは完全に油断していた。
「“ファイヤー・ウォール”」
アルトが放ったのは下級スキル。
だから自分も下級スキルで、最低限の魔力で迎撃する。
そう判断した。
だが、それが完全に命取りだった。
「――なんだとッ」
自身に迫ってくるアルトの攻撃に、フランキーは驚愕していた。
その火力は、下級スキルの域をはるかに超えていた。
上級……いや、あるいはそれ以上の攻撃。
オートマジックの“同時起動”によって下級スキルファイヤーランスが同時に16回発動して、上級スキル以上の力を発揮していた。
当然、フランキーの下級防御スキルは木っ端みじんに粉砕され、そのまま身体に直撃し、身を守っていた結界ごと彼を吹き飛ばした。
背後の地面に飛ばされて、しばらくフランキーは動くことができなかった。
――ありえないことの連続に思考が停止してしまったのだ。
辺りを静寂が包み込む。
先輩の威厳を見せつけようとしたフランキーだったが、完全に裏目に出る形になった。
「――ば、バカな……」
そう小さな声でつぶやく先輩騎士を見て、アルトは後頭部をかく。
振り返ると、リリィとミアは驚きの表情でアルトのことを見ていた。
†
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