40.逆転
「や、やめてくれえええ!! ぱ、パパ!!!!! 助けてぇ~~!!!」
決闘場にボン・ボーンの情けない声が響き渡った。
その様子をアルトたちは白い目で見る。
毒を盛られたアルトだったが、それに対する怒りはなかった。むしろ、なぜボンがそんな愚かなことをしたのだろうという疑問のほうが強かった。
「アルト。すまなかったな。お前が妨害を受けていることは知っていたが、あえて放置していた」
と、試験官のアーサー隊長がアルトにそう謝罪した。
「陰謀に対してどう対応するのか、それも含めてお前の力を見るためであったが、まさかこうして真正面から跳ね返すとは」
普段刺すような表情のアーサー隊長も、今は感心した表情を浮かべていた。
アルトは内心で苦笑いする。毒を盛られると知っていたなら、さすがに教えてほしかった。
だが少し考えて、そもそも簡単に毒を盛られた自分が悪いのだという結論に至った。
「さて。既にアルトは第一の試験で<努力のエンブレム>を、第二の試験で<対応力のエンブレム>、を手に入れている。そして、今回のチーム戦でも、仲間を強化しチームを勝利に導いた。言うまでもなく、<チーム力のエンブレム>を授けるにふさわしい」
そう言ってアーサーはアルトに3つ目のエンブレムを手渡した。
アルトは頭を下げてからそれを受け取る。
――これで騎士になれる。
「魔法適性なし」の烙印を押され、実家を追放されたあの日。人生のどん底だったあの時から、遠回りはしたが、ここまで上り詰めた。
アルトは安堵の溜息をつく。
「――そして」
アーサーはミアのほうに向きなおった。
――そう。彼女もまた、試験の審判を受けるのだ。
「ミア。お前はここまで、一つもエンブレムを獲得していなかったな」
アーサーの問いかけに、ミアはこくりとうなずく。
騎士になるには、3つのエンブレムを集める必要があった。しかしミアは第一、第二の試験共に失敗していて、ただ一つも獲得できていなかった。
「お前のスキルが、まったく役に立たない“外れスキル”だったのは知っている」
ミアにだけ与えられたユニークスキルは、実践では使えない代物だった。
だが、それでもミアは決してあきらめなかった。ずっとその外れスキルを磨いてきた。そして今日その努力がようやく花開いたのだ。
「だが、自分の特別な力を信じてここまできた。だから<努力>のエンブレムを授与する」
アーサー隊長はそう言ってミアにエンブレムを与えた。
「……ありがとうございます!」
ミアは半分涙を流しそうになりながら、エンブレムを受け取った。
全国から優秀な人間が集まったこの騎士学校。
その卒業試験で、たった一つでもエンブレムを獲得できるというのは誇りに思ってよいことだった。
――だが、話はそれだけは終わらなかった。
「さらに。信頼する仲間が倒れたという難局を、自分の力を信じて見事に乗り切った。だから二つ目<対応力>エンブレムを与える」
あたりがにわかにざわつく。
これまでたった一つのエンブレムも手に入れていなかったミアが、一気に二つ目のエンブレムを手に入れたのだ。
一つの試験で2つのエンブレムを手に入れることはかなり珍しかった。少なくとも、今回の試験では初めてだ。
ミアは驚きながら、2つ目のエンブレムを受け取った。
けれど。
「そして、仲間に力を借りることで、自分が本来持っている何倍もの力を出した。貴族の出身でありながら、平民とアルトをバカにすることもなかった。修行のため、同世代の人間に頭を下げることを惜しまなかった」
アーサー隊長の言葉に周囲がざわつき始める。
誰もがまさかと思った。
だが、それは現実のものになった。
「だからこそ、最後のエンブレムを与える」
――三つ目のエンブレムが手渡される。
それが意味するのは、
「ありがとうございます――ッ!!」
ミアは涙を流しながら、エンブレムを受け取る。
3つのエンブレムを集めた。
それは、彼女が騎士になることを意味している。
「まだまだ力は足りない。だが期待している」
アーサー隊長はそう締めくくった。
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