35.忍び寄る魔の手
決闘場に来たアルトとミアはいつも通り一緒に修行をする。
「“ファイヤーボール”」
アルトがスキルを放つ。
それに対してミアが、“ディスペル・ショット”で対抗する。
ミアの光弾に撃ち抜かれたファイヤーボールはそのまま四散する。
「……よし!」
この一か月の修行の末、ミアのスキルの精度はかなり向上して、アルトが任意に放ったファイヤーボールにもかなりの確率で当てられるようになっていた。
「じゃぁ次は――“ファイヤーランス”!」
アルトは続いて中級スキルを放つ。
これに対してミアの“ディスペルショット”が再び放たれる。
しかしこれは外れる。
「……やっぱ中級魔法に対してはまだムリか……」
ミアのディスペル・ショットは相手のスキルの魔力の影響を受ける。
それゆえ、打ち消すスキルのレベルが上がると命中率が下がってしまうのだ。
「でも時々当たるようにはなってるし、いい感じだよ」
「うん。もっと頑張る……」
そうして二人は最終試験に向けて修行を続ける――
と。
「ミア」
突然、決闘場にそんな声が響き渡った。
現れたのは一目見て貴族とわかる衣装をまとっている中年の男だ。
胸につけたエンブレムは、宮廷の役人であることを示していた。
しかし体形は引き締まっており、視線は鋭かった。
「……お父様」
ミア・ナイトレイの父親。
即ち、ナイトレイ伯爵。
アルトはその空気に少し気圧されていた。
伯爵は、アルトのことには目もくれず、娘の方を鋭くにらむ。
「騎士試験、二回とも落ちたらしいな」
――ナイトレイ伯爵はミアに対してそう鋭く言う。
「……はい」
ミアはうつむいてそう答えた。
伯爵が、娘の挑戦を応援していないのは明らかだった。
だが、それを伯爵は冷徹な言葉で突きつける。
「まだ続ける気か?」
ミアは何も言えなかった。
「宮廷でも噂になってる。ナイトレイ伯爵の娘は全く騎士になる才能もないのに、醜態をさらしているとな」
「も、申し訳ありません……」
ミアにできるのはそう声を絞り出すことだけだった。
「ちょっと待ってくださいよ。そりゃ娘に対していくらなんでもひどすぎませんか」
思わずアルトはそう口を挟んだ。
しかし、ナイトレイ伯爵は、そんなアルトを一瞥すると、鼻で笑う。
「何だ、君は。これはナイトレイ伯爵家の問題だ」
それはまったくもって正論であった。
「とにかく、これ以上ナイトレイ伯爵家の名誉を貶めるな」
ミアにそう言い放つ伯爵。
ミアはもはやただうつむくことしかできなかった。
伯爵は、言うべきことは言ったとばかりに、その場を去っていった。
アルトは、なんと声をかけていいのかわからなかった。
アルト自身も、父親に力を認めてもらえなかった過去がある。
それゆえ、ミアの気持ちはよくわかった。
そして、よくわかったがゆえに、声をかけられなかったのだ。
「わたし、全然期待されてなかったんだよね」
ミアがそう独白する。
「魔法の才能に恵まれなくて。だからお父さんはそもそもわたしが騎士学校に入るのも反対で、それで実際試験にも落ち続けてて」
ミアは悲痛な表情でそう説明した。
「でもアルト。わたし、まだ頑張りたいんだ」
「ああ……そうだな」
アルトはそう相槌を打つ。
「騎士になんてなれっこないって言ったお父様を見返したい」
「ああ……わかってる」
結局、アルトにできるのは、ただ隣で頷いてあげることだけだった。
†
少しさかのぼり、2回目の試験が終わった日の夜の宮廷――。
「ボーン伯爵。もう後はありませんぞ」
ワイロー大臣がそう語りかけた。
「本当に申し訳ありません」
ボーン伯爵は深々と頭を下げる。
ボーン伯爵は、アルトの力を完全に見誤っていた。ボーン伯爵が用意した妨害などいとも簡単にくぐり抜けてしまったのだ。
「ワイロー大臣。次こそは必ずや成功させてみせます」
「具体的にはどうするのだ?」
「次はチーム戦です。ここで、アルトと一番弱い生徒を組ませるように仕向けます。あのナイトレイ伯爵の娘が適任でしょう」
「ああ、全く箸にも棒にもかからないと噂になっているあの子か」
「さらに、当日アルトには毒をもります。これでリタイア間違いなしです」
「なるほどな。では確実に実行せよ」
「もちろんでごさいます!!」
†
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