34.2回目の不合格



「それでは次の者。ミア・ナイトレイ」


「――はいッ!」


 名前を呼ばれて勢いよく前に出るミア。


 前回の試験の後から、アルトと練習を重ねたミアだったが、いまだ“マジック・リゾルバー”を使いこなすには至っていなかった。


「(……大丈夫かな)」


 アルトは心配しながら見守る。


 と言っても、ダンジョンの中を確認できるのは水晶の前にいる試験官のアーサー隊長だけだ。


 本来、自分の試験が終わったアルトはもう帰ってもよかったのだが、しかしアルトは心配でダンジョンの前で待つことにした。


 水晶を覗き見ることはできないので、アーサー隊長の表情を伺う。


 しかし彼の顔は微動だにしなかった。


 †


 しばらくするとダンジョンの出口からミアが出てきた。

 

「ミア!!」


 アルトは思わずそう声を上げた。


「(突破したのか!!)」


 アルトは内心でそう喜んでガッツポーズをする。


 ――だが。


 ダンジョンから出てきたというのに、ミアは浮かない顔をしていた。


 そして試験官のアーサーはミアに冷酷な事実を告げた。


「残念だが、実力不足だ」


 その言葉を突きつけられた瞬間、ミアは「はい」と小さく返事をした。

 唇を固くかみしめて、こぶしを握りこんで、必死に耐えているのが外から見てもわかった。


「(……え? ダンジョンをクリアしたのに?)」


 アルトは混乱して、思わず隊長に尋ねた。


「あ、あの。ダンジョンをクリアしたら合格じゃないんですか?」


「このダンジョンは訓練用だ。最後までたどり着けそうになくなった時点でモンスターが出てこなくなるんだ」


「(そ、そうなのか!?)」


 揺らがない不合格という事実。


 三つの試験のうち、二つ不合格となった。

 もはや状況は絶望的だ。


 †


 第二の試験が終わった翌日。

 受験者たちは再び集められた。

 第三の試験の概要を聞くためである。


 ――しかし。


「……数、だいぶ減ったな……」 


 アルトはポツリとつぶやく。

 会場にいるのは最初いた人数から半分以下になっていた。


「まぁ私も含めて、エンブレムを一つも獲得できていない人ばかりでしたから」


 隣でミアがそう教えてくれた。


 試験制度上、例え二回の試験に不合格になっても、三回目の試験でエンブレムを三つ一気に手に入れる可能性はある。

 だが、


「過去、最初の二回の試験でダメだったのに、そこから逆転した人はいないから」


 ミア自身も少し諦めはあるのだろう。


 可能性がある諦めるなと。アルトはそんな風には言えなかった。

 

 だが、それでもミアはここに立っている。

 本当は、そのことをきっと誇りに思っていい。

 アルトは心の中でそう思った。


「……これで全部か」


 受験者たちの前に現れたアーサー隊長は、集まった者たちを見渡してそうつぶやいた。

 だが、そこから物思いにふけるようなことはなく、粛々と説明を始める。


「最後の試験は、チーム戦だ。二人一組で模擬決闘をする。ここに来ている者は参加の意志ありとみなすが、もし来ていない者でも今日中に私のところに参加の意思表明にくれば、参加は可能だ。試験の組み分けは明日通知する。それでは解散」


 短い説明。

 本来なら第二の試験が終わった後でも説明できただろう。

 だがあえてそうしなかったのは敗者への試験をあきらめる人々への配慮なのだろう。


「……ミア。この後、一緒に修行しない?」


 アルトはミアにそう言った。


「い、いいの?」


 ミアが少し驚いたという風に聞いてくる。


「まだ試験まで時間あるし、マジック・リゾルバーをマスター出来たら、合格できるかもしれないし!」


 ミアとアルトが一緒に修行を初めて一か月。

 まだミアは自身のユニークスキルを習得するには至っていない。

 けれど、アルトはそこに最後の望みを託していた。


「……ありがとう、アルト」


 ミアはこぶしをきゅっと握ってそう言った。


 †



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る