33.第二の試験
「おい、話が違うではないか、ボーン伯爵」
ワイロー大臣は、部下のボーン伯爵に言う。
敵対する王女派閥に組するアルトを、ボーン伯爵の息子であるボン・ボーンが倒す手はずになっていた。
だが蓋を開けてみれば、直接対決でボンは瞬殺されてしまった。
「も、申し訳ありません!!」
ボーン伯爵は頭をおなかと直角に下げて謝る。
「し、しかし! 次の試験では必ずやアイツを組み伏せてみせます」
「王女の陣営が強くなるのは絶対に避けなければならない」
「もちろんでございます!!」
「くれぐれも任せたぞ」
「はい!!」
ボーン伯爵は、ワイロー大臣の部屋を後にすると、そのまま教育庁へと向かった。
そこで以前から目にかけていた役人に話しかける。
「お前に頼みごとがある」
「なんでしょう、ボーン伯爵」
「騎士選抜試験で、アルトという受験者の邪魔をしてほしい。デバフをかけてやるのだ」
「……承知しました。お安い御用です。我が仲間が誇る最強の“足引っ張り屋”が、そいつを見事に落第させてやりますよ!」
「心強いな。しかし、くれぐれも内密に頼んだぞ」
†
――第一の試験から一か月。
「それでは、第二の試験を始める」
選抜課程をまとめるアーサー隊長は、受験者たちを見渡して言う。
「今回の試験は、ダンジョンでの任務だ。我々が訓練用ダンジョンで、お前たちの実戦力を確認する。騎士は護衛や攻略など多彩な任務に従事することになる。その対応力を見るのが今回の任務の役割である」
受験者たちは緊張気味な面持ちで待つ。
「それでは、まずはアルト」
「はい」
名前を呼ばれたアルトは一歩前に歩み出る。
「頑張って!」
そうミアが声をかけてくる。
「ああ、頑張る」
と、さらにその横から、別の人間が声をかけてくる。
「せいぜい頑張れよ」
ボン・ボーンは意地の悪い表情でそうつぶやいた。
「ああ」
アルトは適当に相槌を打って、ダンジョンへと足を踏み入れた。
――ダンジョンは平凡な迷宮型。
「(でも騎士試験の選抜なんだ。強い敵が出てくるハズ。油断はできないな)」
――ダンジョンの扉が閉まり、アルトは暗がりの迷宮に閉じ込められる。
「<自動強化>、<自動探索>起動」
アルトは用意してあった迷宮探索用のテキストを起動する。
「(これでひとまず不意打ちで死ぬようなことはないはず)」
アルトは力強く歩き出す。
――と、しばらく歩いていくとモンスターに遭遇する。
エリート・ゴブリン。
いきなり上級モンスターの登場だ。
「<ファイヤーボール>起動」
業火をエリート・ゴブリンに叩きつける。
「ぐぁぁッ!!!」
アルト得意の基本技16発同時発動の前に、上級モンスターはあえなく撃沈した。
――だが。
「んー、なんか。調子悪い……気がする」
何か根拠があったわけではなかった。
しかし、どうにも身体が重いような気がしたのだ。
「もしかしてダンジョンにデバフがしかけられているのか……?」
少し考えてアルトはそういう結論にたどり着く。
「となると――ちょっと体力は心配だけど、ある程度のところまで行ったらさらにバフをかけよう」
アルトはそう判断する。
「うん、問題ない」
†
――ダンジョンの外。
ダンジョンの中の様子は、試験官のアーサー隊長が遠隔水晶で観察している。
その様子は受験者たちからは見えないので、ボン・ボーンはウキウキしながらアルトの「帰り」を待っていた。
「(ふふ。アイツめ。いつ脱落するかな)」
アルトがデバフをかけられ妨害されているのは知っていた。
だからアルトが自力で戻ってこれるなどとは思っていなかった。
諦めて引き返してくるか、力尽きて運ばれるか。おそらく後者だろう。
いずれにせよ、そうなれば試験官の顔つきが変わるはず。
そう思ってボンはずっとアーサーの方をちらちら見ていた。
――だが。
「……うむ。さすがだな」
と、アーサーが小さい声で、けれどハッキリとそうつぶやいた。
「へ?」
ボーンは思わずそんな間抜けな声を漏らす。
そして、少ししてから、
「……なんとかなったな」
ダンジョンの出口からアルトが出てきた。
「な、なに!?」
――ボンの予想に反して、アルトは攻略を成功させてしまったのだ。
「アルト、さすがだ」
水晶で戦いぶりを観察していたアーサーが、そう声をかけた。
「な、なんとかギリギリという感じです」
「いや、体力もかなり余裕があるみたいじゃないか」
アーサーは鑑定のスキルで、アルトが力を温存していることを見抜いた。
「文句なしの合格だ」
そう言ってアーサーは二つ目のエンブレムをアルトに授ける。
――だが、それに思わず異議を唱えたのがボン・ボーンだった。
「ちょちょ、待て! 絶対ズルしてるだろ!?」
ボンは思わずアーサーに向かってそう抗議した。
――デバフをかけられながら、この高難易度ダンジョンをクリアできるわけがない。
そう思ってたからだ。
だから自分たちがデバフをかけたように、アルトも外部の人間にバフをかけてもらったに違いない。そう思ったのである。
だが、アーサーは鋭い目で言う。
「なにがズルなのだ? 根拠はあるのか?」
アーサーのボンに対する視線があまりに厳しいものだったので、ボンはひるんでたちまち口を閉じた。
「そ、その……」
「なにかアルトが勝てるはずがないという根拠があるのか、と聞いている」
そこでボンは失言だったと気が付いた。
ボンはアルトにデバフがかけられているのを知っていたからこそ、信じられなかったのだ。
だが妨害を知らない人間からすれば、アルトのことを疑っている方がおかしい。
「そ、その……いえ、違うんです」
ボンはそう言ってから黙り込み、スッと後ろに下がるのであった。
アーサーはそれを厳しい目で一瞥する。
「(だ、大丈夫だよな? 不正のことはバレてないよな?)」
ボンはまるで全てを見透かされているような気になった。
そしてその疑心暗鬼は拭うことができなかった。
†
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