第二章 騎士試験編
27.コネ野郎と因縁をつけられるアルト
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申し訳ありませんが、昼の投稿で二重投稿してしまったため、
本話(27話を)投稿し直しました。
コメントで教えてくださった方、ありがとうございました。
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アルトは事前に書面で受けた説明に従って闘技場へ向かった。
そこで選抜試験の説明を受けることになっていた。
闘技場に着くと、王立騎士学校の生徒たちが集まっていた。その数は40人ほどだろうか。
王立騎士学校の生徒は一年半の訓練期間の後、騎士選抜試験を受けることになる。
そして王立騎士学校に行ったからといって、誰でも騎士に合格できるわけではない。
多くの人間は選抜試験に落ちるのである。
もちろん試験に落ちても、王立騎士学校卒業の肩書があれば、一生食いっぱぐれることはないだろう。
だが、ここに集まっている人間は騎士になるために集まったエリートたちだ。
騎士になれなければ、一生その負い目を背負って生きていくことになる。
「(……当然だけど知らない人しかいないなぁ)」
アルトは推薦によって選抜試験の受験を許された“外部受験”組である。
外部受験自体が相当珍しいので、知り合いが誰一人いないのはアルトだけだった。
既に仲よさそうにしている生徒たちの輪に自分から入っていくことができるほどアルトは社交的ではなかった。
なのでアルトは生徒たちから少し離れたところで手持無沙汰にする。
だが、やはり一年半一緒に授業を受けてきた生徒たちの中に、知らない奴が一人いると悪目立ちするようだった。
「おい、お前」
話しかけてきた少年は、いかにも貴族の子息といった風貌だった。
金髪のオールバックで、目つきが悪く、傲慢さが顔つきに現れている。
「ボクはボン・ボーン。あの名門ボーン伯爵家の跡取りだ」
「……俺はアルトだけど」
名乗られたので一応名乗り返すアルト。
「アルト、か。じゃぁ、お前が噂のコネ野郎か」
ボンはアルトに対して明らかに高圧的に話しかけてくる。
アルトはその態度に対して、怒りというより、呆れの感情を抱いた。
「お前みたいなパッとしないやつが、どんな汚い手を使って推薦を受けたのか気になるな」
「……は、はぁ」
アルトは悪意を持って接してくる人間に怒りの感情を持つことはなかった。
相手にする方が疲れるだけで、得るものはないのだから。
だがアルトの塩対応を無視して、ボンは話しかけてくる。
「実は僕は相手の実力を鑑定するのが得意でね。お前の魔法適性は――」
ボンは勝手にアルトに鑑定のスキルを使う。
「……魔法回路は……ぷっ!! おいおいおい、まさか、魔法回路1って!! うそだろ、雑魚すぎる!!!」
ボンは腹を抱えて笑い始めた。
「魔法回路一つじゃ、結界を張ったらそれで終わりじゃねぇか!! それでどうやって攻撃するんだよ!!」
するとボンの取り巻きの生徒たちも一緒に笑いはじめた。
「捨て身で結界張らずに戦うんじゃね? 平民らしく貴族様の盾になりますみたいな」
「はは、マジでウケるんだけど」
アルトは基本的には無視することに決めていた。この無駄なやり取りも、時間が来れば教師が来て強制的に終了するだろうと思ったのである。
だが、問題は肝心の教師がなかなか来ないことだった。
「魔法回路1つで騎士になろうなんて無理に決まってんだろ! いいか、騎士ってのはボクみたいな人間がなるんだよ」
すると、ボンは闘技場のある方向に向いた。
そこには魔法射撃練習用のカカシがずらっと二十体ほど並んでいた。
「“ファイヤーボール”!」
――すると、ボンの手から5つ同時に炎の玉が出た。
カカシにみごと命中し、その結界にダメージを与えたことで黄色い光が散った。
「さすがボン様!! 魔法回路5つを同時に使いこなされています!」
「精度もお見事! すべて的中です!!」
取り巻きがそう褒めたたえると、ボンはアルトに向き直って「見たか」とでもいいだけな表情を浮かべる。
「これが騎士になる人間の力だ。お前みたいにスキル一つ唱えるのが精一杯のやつが騎士になれるわけないだろ?」
アルトはボンに驚いていた。
ボンが5つ同時にスキルを発動したことに対してではない。
ボンが威張っていることに驚いたのだ。
「(5つファイヤーボールを出して、全て命中させる程度(・・)で自慢できるのか?)」
それがアルトの正直な感想だった。
確かに魔法回路を1つしかもっていないアルトからすれば、それを5つ持っていることはすごい。だが、ファイヤーボールを5つ出すくらいなら、アルトにだって簡単にできることだった。
「(……もしかして、俺の力でも結構やれるのか?)」
王女様に「アルトさんなら楽勝」と言われたが、アルトは信じていなかった。
きっとお世辞だろうと思っていたのだ。
だが、ボンいわくファイヤーボールを5つ出すような人間が騎士になれるらしいのだ。
「おいおい。お前がコネ野郎じゃねぇっていうんなら、それを証明してみろよ」
――と、アルトにボンがそう迫ってくる。
「……あのカカシをいくらか倒せばいいのか?」
「できるもんならな。魔法回路1つでどうやって戦うのか、見せてみろよ」
アルトは少し考えて、その誘いに乗ることにした。
先生はすぐには来ないようだし、無視を決め込んで取っ組み合いのけんかになるよりは、おとなしく従った方が楽だと思ったのだ。
アルトはカカシに向き直り、手をかざす。
アルトは“オートマジック”に登録したファイヤーボールのテキストを起動する。
「<ファイヤーボール>起動」
――と、次の瞬間。
その場にいた生徒たちから一斉に声が上がった。
「なな、なんだと!?」
アルトの前方に16個のファイヤーボールが全く同時に現れた。
「い、いくつあるんだ!?」
そしてファイヤーボールはカカシに向かってまったく同時に発射され、全てカカシの心臓に命中する。
「ば、バカな!? じゅじゅ、16個同時だと!?」
ボンは腰を抜かしそうになる。
騎士学校の生徒であれば、ファイヤーボールを16個連続(・・)で発動するくらいは誰でもできるだろう。
だがまったく同時に16個発動するなんてありえない。
魔法回路の数が、同時に発動できる魔法の数。
魔法回路が1つしかないアルトは、一度に一つしか魔法を発動できないはずだった。
オートマジックというユニークスキルの存在を知らない生徒たちにとって、それはまるで奇跡を見ているようだった。
「お、お前、どうなってんだ。どんなズルを使ったんだ?」
「いや、別にズルとかはしてないけど」
「バカ言え! ズルなしであんなことできるわけねぇだろ!?」
「(まぁ、しいて言えばユニークスキルがズルか?)」
アルトは内心で一人ごちる。
「!! てめぇ、魔法回路1の雑魚平民のくせに生意気なッ!!」
ボンは歯ぎしりしてそう悔しがるのだった。
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