24.街の英雄



 ――ドラゴンゾンビと向かい合うアルト。


「私たちが奴の肉を割く。露出したコアを君が狙ってくれ」


 騎士たちとの共同戦線。


 アルトに課された任務は、ドラゴンゾンビの中に埋まる7つのコアを同時に破壊すること。

 どれか一つでも生きているとドラゴンゾンビは復活してしまう。


「いくぞ――“ファイヤー・ランス”!」


 まずは騎士たちが、ドラゴンゾンビに総攻撃を浴びせる。

 それによってコアが一瞬露出する。


 それがアルトに与えられたわずかなチャンス。


「――起動、<ファイヤーボール・セブン>!!」


 アルトがそう唱えると、オートマジックに先ほど書いたテキストが発動。


 空中に、少し距離開けて、まったく同時に七つの火球が出現した。


「――七発同時だと?!」


 周りの人々が驚きの声を上げた。

 普通、七発同時にスキルを発動するには魔法回路を7つもっていないといけない。

 だが、騎士でも魔法回路7つ持っている人はまれだ。

 本当に魔法適性が高い人にしかできない芸当なのである。


 ――そしてアルトの放った7つのファイヤーボールは勢いよくアンデットのコア目掛けて飛んでいく。

 そしてコアを見事に打ち抜いた。


「グァァア!!!!!!!!!!」


 魔力源を失ったドラゴンゾンビは、肉体を保つことができなくなり、そのまま倒れこむ。


「……やった!」


 アルトはそれを見て思わずそうつぶやいた。


 だが、そんなアルトを見て、騎士は唖然とした。


「ま、まさか、本当にやるとは!?」


 国を代表する戦士である騎士や、Aランク冒険者たちにできなかったことを、アルトがたった一人で、しかもたった一度の挑戦で成功させてしまったのである。

 これはもう奇跡に近かった。


「すごすぎる……」


「スキルを七発同時発動なんて初めて見たぞ」


「正確性もヤバいぞ。全部的中だ」


 周りの冒険者たちも次々に声を上げる。


 アルトは、なにやら周囲の視線が自分に向けられていることにたじろぐ。


「――私たちだけではどうにもならなかった。あなたのご協力に感謝します」


「あ、いえ……そんな」


「今さらながらお名前はなんと?」


「あ、アルトと申します」


「アルト……! 王室の推薦を得て騎士選抜に行くというあのアルトか」


 騎士はアルトの存在を認識していた。騎士選抜への推薦は珍しいことなので、近隣の騎士たちの噂になっていたのだ。


「あの神業は、確かに騎士にふさわしい。圧倒的集中力による制御力もすごいが、なにより七発同時発動は騎士でもできないことだ」


 アルトは内心、本当は16発同時に放てるんだけどと思うが、もちろん面に出すことはなかった。


「彼は街の英雄だ! 彼を囲んで乾杯しよう!」


 どこかで冒険者がそう言うと、周りの者たちは自然とそれに同意した。

 そして街でお祭りが始まるのだった。


 †


 上機嫌で、鼻歌を歌いながら自席でふんぞり返っていたエラソー隊長。


「あのバカアルトめ、今頃ボスに食われてんだろうなぁ……」


 そう思うと、エラソーは笑いが止まらなかった。


「エラソー。滞りなく完了したか?」


 ギルマスがやってきて、エラソー隊長にそう聞く。


「はい、ギルマス。これであいつも終わりですよ」


「そうか。素晴らしい!」


 笑いあう二人。


 ――だが、そんな“幸せ”が長くは続くはずもなかった。

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