25.エラソー、捕まる


 ――アルトがSランクのボスを倒した翌日。


 王宮の一室。


「アルトに与えた任務はどうなりました?」


 王女シャーロットは、部下の騎士にそう尋ねた。


「それが王女様…」


「まさか、失敗したのですか?」


「いえ。その逆で――見事に成功させたばかりか、なんと封印されていたSランクボスを倒してしまったそうなのです」


「……なんと!」


「やはり逸材中の逸材です」


「さすがです。アルトさんには絶対に騎士になってもらわねば」


「ええ、その通りです」


「……王宮内に不穏な空気が漂う今、少しでも味方は多いほうがいい。まして彼のような優秀な人材であればなおのことです」


「心得ております、王女様」


「頼みましたよ」


「はい。……それから、不穏な動きといえば、実はアルトが倒したボスなのですが」


「なにかあるのですか」


「元々封印されていたのですが、これを解いたのはアルトさんではないんです」


「というと、誰かが封印を解いたと」


「はい。それで街を襲っていたところをアルトさんが倒したのです」


「封印から時間がたち既に風化していた存在が、アルトさんがダンジョンに挑戦するとなったそのタイミングで突然解放された。まず間違いなくアルトさんを妨害する意図があってのことですね」


「私もそう思います。現在調べているところですが、すぐに犯人は見つかるかと」


「お願いします」


 †


 ――エラソー隊長は部下たちとともに酒に酔いしれていた。


 アルトの妨害に成功したと思っているエラソーは、安心しきっていた。


「アイツが失敗したら、今度こそ俺が騎士になるんだ!」


 部下たちにそう豪語する。


 だが、そんな幸せな時間が長く続くわけもなかった。


「おい、エラソーはどこだ!?」


 突然、エラソーの前に現れたのは王宮の憲兵だった。


「な、なんですか!?」


 エラソーは突然の出来事に目を見開く。


 憲兵たちはエラソーの両脇から腕をつかんで無理やり立たせる。


「Sランクボスを解放し、街を危険にさらした罪で逮捕する」

 

 逮捕という言葉を聞いて、顔面蒼白になるエラソー。


「ままま、待ってください!! お、俺は関係ないです!!」


「調べはついている。ギルドでお前の剣を鑑定したところ鉱山で結界を破った証拠が見つかったのだ。お前の部下からの証言もある、もう言い逃れはできないぞ」


「そ、そんな!! お、俺は無実です!!」


「ええい、黙れ! とにかく連れていけ!!」


 憲兵に引きずられていくエラソー隊長。


 一緒に飲んでいた部下たちは、クソ上司がなにやらいなくなるらしいと内心でほっとしていた。

  

 †


「エラソーは、20年の鉱山労働に処す」


「そ、そんな!!」


 エラソーはギルドマスター諸共逮捕された。今回の件だけでなく、王宮への賄賂や、部下への常軌を逸したパワハラなど、いくつもの罪に問われた結果、二人とも鉱山送りが決定する。


「お、おのれ!! 覚えていろよ!!」


 エラソーと同じく、鉱山送りが決まったギルマスは、裁判官にそう吐き捨てた。

 しかし、もはや彼にはかつてのような力はなかった。


「こいつらを鉱山に連れていけ!」


 裁判長が憲兵に命じる。


「ま、待ってくれ~!!」


 エラソーはそう泣きわめきながら無理やり連れていかれる。

 一方ギルマスは終始怒りをあらわにしていた。


「お、お前! 許さないぞ!!」


 ――事件の関係者として裁判を傍聴していたアルトをにらみつけて、そういいながら連れていかれる。


 そんな元上司たちを見て、アルトはひとりごちるのであった。


「……やっぱり悪いことすると、つけが回ってくるってことだな。コスパ悪い」



 †

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る