8.自動魔法、レベルアップ!(その2)
――一年半後。
相変わらずアルトは冒険者ギルドでポーターをしながら、毎日スキルの修行に励んでいた。
いつの間にか、所属しているパーティがどんどんランクを上げていき、気が付けばギルドのエースパーティに成長していた。
だからと言って、雑用係であるアルトの待遇はこれっぽちもあがらなかったが、しかしパーティのランクが上がったことで、強いダンジョンに行く機会も増えて、経験値的には多少の恩恵を受けていた。
「んじゃ、ちゃんと明日までに仕分けしといてくれよ、ノースキル」
いつものように冒険が終わった後、隊長に倉庫の仕分けを命じられる。
アルトは機械的にそれに応じる。
誰もいなくなった倉庫で、自動魔法を発動する。
「(倉庫整理)起動」
かなり経験値が溜まってきたことでアルトのスキルの威力も、並とはいかないまでも、駆け出し冒険者くらいにはなっていた。
それゆえ、倉庫整理もかなりスムーズに進む。
それに伴い、通常ならポーターが10人は必要な作業も、アルト一人でこなせるようになっていた。
あっという間にその日の仕分け業務を完了させる。
そして、その時。
【オートマジックがレベルアップしました】
「お、これは!?」
待ちに待った瞬間だった。
とうとう、オートマジックがレベル20に達したのだ。
前回レベル10になったときは、“条件分岐”という強力な力が使えるようになった。
今回もそれに匹敵する、あるいはそれ以上の何かがあるはず――
アルトはわくわくしながら、オートマジックのウィンドウを開く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
※レベル20に達したので、同時発動が可能になりました。
構文は以下の通りです。
once(回数)
スキル名
end once
※回数は16まで
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――同時発動!?」
その文字にアルトは胸を躍らせる。
もちろん今までのオートマジックも便利ではあった。
しかしアルトにとっては致命的な欠点があった。
それは、複数のスキルを「まったく同時」には発動することはできない、ということだった。
すなわち鑑定スキルなどを連打する時も、実はスキルとスキルを発動する間にはラグが生じていたのである。
鑑定スキルのように処理に時間がかかるものを並行して処理することができるし、強化スキルのように効果が持続するものも、発動さえすれば別のスキルを続けて発動することは可能だった。
しかし、まったく同時に複数のスキルと発動することはできなかった。
おそらくこの【同時発動】がそれを可能にしてくれる。
これはアルトにとっておそらく最も待ち望んでいた力だった。
「これで……攻撃魔法を重ねうちできるんじゃないか!?」
鑑定や強化などは同時発動できてもあまり意味がない。
しかし攻撃魔法は違う。
平凡な魔法でも、16個同時に発動すれば威力は当然16倍になる。
そうすれば、並の冒険者なんて目じゃないくらいの力を発揮できるようになる。
「……さっそく試してみよう……!」
アルトはさっそくテストを開始する。
ギルドの裏庭の修行場に向かう。好都合なことに、アルトのギルドには定時後に修行をするような真面目な冒険者は誰もいなかったので無人だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
<同時発動>
once(16)
ファイヤーボール
end once
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とりあえず使える最大の回数を重ねてみる。
「よし……<同時発動>起動!」
手をかざして、テキストを発動する。
すると――
グォォォォッ!!
「おおおお!!!」
出てきたのは、ボールなんて大きさじゃない特大級の炎だった。
人間を包み込むには十分な火力だ。
「す、すげぇ!!!」
思わずアルトは叫んでしまう。
今までは、攻撃魔法を使っても、駆け出し冒険者程度の力しか出せなかった。
それが同時発動することで威力を16倍にしたら、並の冒険者も目じゃないくらいの力が出せたのだ。
「強化魔法なしでこれだったら、強化魔法かけたらもっと行くんじゃ……!?」
アルトは、さっそく強化魔法を自分にかけまくる。
二年間の修行の成果でそれなりの強化魔法が使えるようになっていた。
しかも24時間スキルを使い続けた結果、魔力量は人並以上になったので、強化魔法の連打が可能になっておりそうとうなステータスアップができるようになっていた。
さっそく自身に強化魔法をかけてから、もう一度“同時発動”を試す。
「……よし、<同時発動>起動!」
アルトが再びファイヤーボールを出すと――
ゴォォォォォォォッ!!!!!!!!!!!!
今度は象を飲み込めるほどの炎が噴き出した。
もはやボールとは似ても似つかない。
まるで上位スキル“ドラゴンブレス”のような威力だった。
「や、やばい!! すごすぎる!!」
アルトは“同時発動”の力に歓喜する。
「これでなら冒険者をやれるぞ!」
それどころか騎士学校にだって入れるかもしれない。
「やったぁ!!」
アルトは修行の末に、その力を手に入れたことに歓喜するのだった。
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