2.オートマジック覚醒
――実家を追い出されたアルトは、街でギルドの雑用係として働くことになった。
「……一日働いてこれか」
一日の仕事を終えて受け取った数枚の銅貨を握りしめるアルト。
魔法適性がない<ノースキル>ではまともな仕事にはつけない。
誰でもできる単純労働の稼ぎはたかが知れていた。その日暮らしが精一杯だ。
アルトはなけなしの賃金でボロ宿を取る。
今にも抜けそうな床に、茶色く汚れたベッドの宿。
これがアルトに突き付けられた現実だった。
「魔法……本当にダメなのかな」
アルトは自分のステータスウィンドウを確認する。
鑑定の儀を経たことで、アルトは魔法の力に目覚めている「はず」で、その力はステータス画面で確認できる。
魔法回路 1
結界魔法 Lv1(0/10,000)
火炎魔法 Lv1(0/10,000)
水氷魔法 Lv1(0/10,000)
神聖魔法 Lv1(0/10,000)
暗黒魔法 Lv1(0/10,000)
物理魔法 Lv1(0/10,000)
強化魔法 Lv1(0/10,000)
鑑定魔法 Lv1(0/10,000)
すべてのステータスがLv1なのはまぁ当然だ。
まだ魔法に目覚めたばかりなのだから。
しかし問題はその横に書かれた数字だ。
(0/10,000)
これはそのスキルがレベルアップするのに必要な経験値を示している。
一度使用すると、経験値が1溜まる。
アルトの場合は一万回使ってようやくLv2になるということだ。
もちろんレベルが上がるにつれてレベルアップに必要な数値は増えていく。
そして、このLvで1万というのは、他人に比べて圧倒的に多い。
他の人は平凡な人で100とからしい。
すなわち、アルトは他人の100倍成長しないということだ。
それだけでも気が重いのに。
「魔法回路1だもんな……」
すなわち、アルトは魔法を練習しようにも、一度に一つずつしか魔法を使えない。
平凡な人でも2つ同時に練習できるのだから、単純にこれだけでも他人の倍時間がかかるということになる。アルトがいかに経験値をためるのが難しいかという話である。
「……“ファイヤーボール”」
アルトはそうつぶやく。
すると、指先に蚊ほどの炎が灯り、進んでいった。その小さな火の粉は、何かにぶつかる前に空中でそのまま消えた。
これがレベル1の“火炎魔法”だ。
火炎魔法 Lv1(1/10,000)
確かに経験値は増えた。
しかしこのペースではまともにモンスターと戦えるのはいつになるのやら。
しかもアルトの場合は、毎日衣食住のために仕事をしなければいけない。
その合間を縫っての修行となると、本当に絶望的だ。
さすがにアルトも大きな溜息をついた。
――だが。
その時だ。
【――魔法を使用したため、“オート・マジック”が覚醒しました】
アルトの頭の中でそんな声が響く。
「……え?」
アルトは突然のお告げに驚く。
そしてステータスリストを見ると、
魔法回路 1
自動魔法 Lv1(0/10,000) ← New!!
結界魔法 Lv1(0/10,000)
火炎魔法 Lv1(1/10,000)
水氷魔法 Lv1(0/10,000)
神聖魔法 Lv1(0/10,000)
暗黒魔法 Lv1(0/10,000)
物理魔法 Lv1(0/10,000)
強化魔法 Lv1(0/10,000)
鑑定魔法 Lv1(0/10,000)
見慣れない文字が追加されていた。
「オートマジック(自動魔法)……?」
聞いたこともない魔法系統だ。
しかしこうしてステータスウィンドウに出てくるということは、アルトはその力を使えるということだ。
「いったいどうやって使うんだ……?」
アルトがそうつぶやいた次の瞬間。
アルトの目の前に、別のウィンドウが開く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
<テキスト1>
ここに自動発動したい魔法を記述してください。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな文字が書かれていた。
「――自動発動って……例えば“ファイヤーボール”とか?」
アルトはそうつぶやく。
すると。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
<テキスト1>
ファイヤーボール
※発動するには、タイトルか先頭の数字を頭の中で思い浮かべてください。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな風に文字が自然と置き換わった。
「思い浮かべる……どういう意味だろ。とりあえずやってみるか」
アルトはタイトルをそのまま心の中でつぶやく。
「(テキスト1)」
と、次の瞬間。
【処理を開始します。ファイヤーボールを起動します】
脳内でそんな声が響く。
――先ほどと同じように火の粉が現れたのだ。
「え!? 詠唱なしで魔法が発動した!?」
魔法の発動には通常スキル名の詠唱が必要だ。
だが、今アルトはそれをしなかった。
それなのにスキルが発動した。
そんなこと聞いたこともない。
スキル発動に詠唱は不可欠。それは一流の冒険者でも同じ。
しかし目の前で起きたのはその当たり前の法則に反することだった。
――と、アルトが驚いているとがウィンドウの画面が勝手に置き換わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
<テキスト1>
ファイヤーボール
※複数のスキルを登録して、連続して使用することができます。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「複数スキルを登録……? 例えばファイヤーボールを繰り返したり、バフとかも?」
そうアルトが思い浮かべると、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
<テキスト1>
ファイヤーボール
ファイヤーボール
マジックバフ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
と、文字が自動で置き換わる。
「これって、もしかして……」
アルトは再び、心の中で唱える。
「(<テキスト1>)」
すると――
【処理を開始します。ファイヤーボールを起動します】
再び脳裏に響く女性の声。
アルトはまったく意識していないにも関わらず、指先から再び火の粉が出た。
そして、
【続いて、ファイヤーボールを起動します】
もう一度、火の粉が出てくる。
さらに、
【続いて、マジック・バフを起動します】
今度はアルトの体が光に包まれた。ステータスを確認すると、魔力が1だけだが上がっていた。
「す、すごい!!」
このウィンドウ内に書いたスキルが、まったくもって自動で次々に発動された。
アルトはまったく意識する必要がない。
これなら、魔法を打ちっぱなしにできる。
「もしかして、これって経験値稼ぎたい放題なんじゃないか?」
そう思ってステータスを確認してみる。
魔法回路 1
自動魔法 Lv1(4/10,000) ←up
結界魔法 Lv1(0/10,000)
火炎魔法 Lv1(3/10,000) ←up
水氷魔法 Lv1(0/10,000)
神聖魔法 Lv1(0/10,000)
暗黒魔法 Lv1(0/10,000)
物理魔法 Lv1(0/10,000)
強化魔法 Lv1(1/10,000) ←up
鑑定魔法 Lv1(0/10,000)
やっぱり、ステータスがちゃんと上がってる!
アルトはとんでもないことに気が付く。
オートマジックは、魔法を使うのに意識が必要ない。
記録したものを起動すれば、あとは自動で発動してくれるのだから。
つまり、おそらく仕事中も寝ている間も魔法を発動しっぱなしにできる。
ならば他人より魔法の成長速度が遅くても、上達することができるんじゃないか。
にわかにアルトに希望の光が差した瞬間だった。
「とりあえず、スキルを使いまくってみよう……!!」
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