【短編】パワーローダーを身に纏った少女たち

MrR

そうだ、お祭りしよう


 戦争は終わった。

 

 しかし戦争は終わっても戦いはなくならない。


「サメが来たぞ!!」


「群れで来た!! 大群だ!!」


 居住区に迫る恐竜のような手足を持つサメが群れを成して全力疾走して迫りくる。

 時には二足歩行のワニだの巨大なカニだのエビだの、武装したイルカだのがやってくる。


 これを迎撃するのに大人も子供も、男も女も関係ない。

 

 防衛部隊は居住区と外界とを隔てる巨大ゲートの壁の上に陣取り、迫りくるサメたち相手に必死に抵抗する。


 サメは防衛システムで次々と射殺されていくがそれでも屍を踏み越えてサメたちは数十メートルある巨大ゲートの上に空高く跳躍して果敢に白兵戦を挑んでくる。


『落ち着いて迎撃してください! Bチームは Cチームは―』


 少女――桜木 トモカも軍用パワードスーツ、全高2m程度のパワーローダー(TYPE-03:見た目は炊飯器に手足くっ付けてランドセル背負わせた感じ)を身に纏って必死に指示を飛ばす。

 まだ十代半ばながら少女たちで構成された小隊をまとめあげている。

 

『もうやだこのサメの群れたち!?』


『このサメ、チェーンソー持ってる!?』


 同じくパワーローダー身に纏った少女たちはとにかく重機関銃だのチェーンソーだのレーザーガンでサメを殺しまくる。

 なかには何故かチェーンソーを持ったサメとチェーンソーをぶつけ合ってチェーンソーデスマッチする少女もいた。(もちろんパワーローダーを身に纏って)


(状況はこちらが優勢――このまま終わればいいんだけど)


 桜木 トモカはパワーローダー内でそんな事を想っていると――


『空中から飛行型のサメです!!』


 凶報が舞い込む。

 空から飛行型のサメ、ゲームに出てくるワイバーンとサメが融合したようなサメが群れを成して攻めてきたのだ。

 群れの中に大型の奴がいるからそいつが群れのリーダーだろう。


『防衛部隊は対空迎撃開始! 引き付けてから翼を狙って撃ち落としてください!』


 トモカはすぐに指示を飛ばす。

 手に持った重機関銃、レールガン、プラズマランチャー、ビームガトリングなど、えげつない武装が次々と火を噴く。


 これがこの世界の日常。


 この世界は地獄だった。





 桜井 トモカは女子高生である。


 同時に町の防衛部隊の隊長である。


 軍隊は戦争の影響で戦力が激減し、世界がこんなサメだのワニだのが繁殖して増えて襲い掛かってくるような悪夢のような状況だから軍人たちも自分の身と生活を守るので手一杯なのだ。

   

 さらに戦争の終盤、大人や男性が死に過ぎたのを良いことに女子まで徴兵して学徒動員したのをいいことに桜井 トモカたちは未だに軍属。


 そのまま桜木 トモカは防衛隊長をやっているのだ。


 幸いにして桜木 トモカとその仲間たちは優秀であり、この地獄の世界で生き残れたのである。





 =学園内 パワーローダー格納庫に繋がる廊下=


「いやー最初は死ぬかと思ったけどなんだかんだで生きて来られたね」


 などと小柄でセーラー服を身に纏った明るいブラウンカラーのツインテールの少女の生徒会長の安条 ヨツバが言う。

 ベンチに座り、ヨツバの傍には茶色いボブカットのヘア―スタイルが特徴な桜井 トモカが全身ピッチりと肌に吸い付くように張り付いているような白いSFスーツ姿(パワーローダーを動かすための専用スーツ)のまま座っていた。


「そうですね。皆さんに助けられてばかりです」


「トモっちらしいね。まあ、そう言うことにしておこうか」  


 実際はトモカの実力もあるのだがそのトモカ本人の言う事も一理あるのでヨツバはそう言うことにしておいた。


「トモっちの性格なら整備班に交じってパワーローダーの修理とかしてると思ったんだけど――」


 そう言ってヨツバは格納庫の方に聞く耳をたてる。

 騒がしい喧騒に包まれている。


「皆から隊長は働きすぎだから休める時に休んだ方がいいって言われた」


 苦笑しながらトモカが言う。


「それは私も同感かな。この状況いつまで続くんだか」


「他校の状況は?」


 他校とはこの土地みたいに学生が警備している場所のことを指す。


「頑張ってるみたい。皮肉だよね、こうして私達が生きてるのも人が死に過ぎたせいなんだから」


「ええ――」


 武器弾薬、生活必需品などの物資が潤沢にあって先程みたいにサメの群れなどを相手にパワーローダーなどのハイテク兵器で戦えているのはそれを使う人間が先の戦争で大幅に減ったからである。

 

 ヨツバの言う通り皮肉でしかない。


 いっそ前の戦争の置き土産、生物兵器の類など――サメの化け物なども消えてくれればよかったのだがと、トモカは思う。


「それはそうとトモっち彼氏できた?」


「どうしてそこで彼氏なんですか!?」


 ニヤニヤして唐突にそんな話題を切り出すヨツバ。

 真っ赤にしてトモカは口にする。


「いや、どうしてもなにもトモっちのことだから、なんか色々と考え込んでるんだろうなーとか思ったり」


「そ、それは考えちゃいますよ」


「まあ戦争で男子が死にまくったから中々出会いがないしね」


「まだその話題続けるんですか!?」


 男の話題を出されてまた顔を真っ赤にするトモカ。


「まあ私から言えるのは、トモっちはもっと周りを頼ってもいいんじゃないかって話さ」


「はあ……」


 むりやり話にオチをつけた感があるが言わんとしている事は分かる。

 

(武装はともかく今のパワーローダーじゃ厳しい……)


 今使ってるパワーローダー「TYPE-03」は核動力式ではあるが、旧型である。

 纏まった数の高性能のパワーローダー、せめて「TYPEー05」ぐらいは欲しいと思った。


(考えても仕方ない――今ある手段で考えないと――)


 そう思い直してあれこれと思考を巡らすのであった。



☆  



 気が付けば桜木 トモカは自室の学生寮でも考え事をしていた。


 自室には同居人で友人で同じ部隊の隊員の園崎 アンナがいる。


 園崎 アンナは女の子でありながらパワーローダーの事が好きな変わった子だった。

 当然だが軍事兵器が好きだからと言って戦争の参加は賛成と言うわけではない。


 周囲に明るく振舞っていたが、


 ――産まれた時代が悪かったんでしょうかね? ああ、恋愛とかもしてみたかったなぁ。


 と涙混じりに言っていたのは覚えている。


 だが化け物相手との生き死にをかけた生存競争の参加には逃避はないらしく、積極的に参加している。


「桜木隊長は今日も地図を広げて戦略会議ですか」


「うん」


 園崎 アンナは桜木 トモカを何時頃か桜木隊長と呼ぶようになった。

 トモカは「普通にトモカでいいよ?」って何度も言うのだがそれでもやめる気配はないので放置している。


「町は周囲をグルっと数十メートルの壁で覆われてる。防備も十分。問題があるとすれば」


「士気と兵站ですかね?」


「うん」


 園崎 アンナは桜木 トモカの言いたい事をズバリと言い当てた。


 トモカもそうだがアンナも即席コースだが学徒動員として、軍人として鍛えられている。

 アンナの場合は元々の知識もあったのだろうが今では立派にトモカの補佐を務めている。


「戦争が終わって、なのに今は生物兵器と戦って――今はどうにか持ち応えてるけどこのままの状況が続くと――」


「いっそ、パッーとお祭りでもやります?」

   

 アンナの発案にトモカは


「それいいかもしれませんね」


 と言い、


「え?」


 発案したユカリは「えっ?」と目を丸くした。



 


 翌日。


 園崎 アンナのお祭りの案が安条 ヨツバの耳に届き、「アーちゃんの発案なの!? いいじゃんそれ!」と軽いノリで採用。


 そして生徒会長の安条 ヨツバが放送を使って学校内外に発表する。


 反応は様々だが、みな出し物とかを考え始める。


 なんだかんだで化け物との戦いの日々に疲れていたようだ。


 町の住民たちも「ぜひぜひ俺達も参加させてくれ!」、「私達も参加させて!」 と規模が大きくなる。





 格納庫内は早速お祭りや自分達の出し物の事で話題になっている。

 中には戦争で少なくなった男性陣へのアタックが出来るのではなどと女性徒たちが言っていた。


 それでもキチンと仕事をこなすあたりは流石である。


 さらに嬉しい報告があった。


「祭りのための物資の件は上に掛け合って確保できたよ」


「そうですか――」


 ミツバの言葉を聞いてトモカは気兼ねなく祭りに参加できるとホッとした。


「あと武器弾薬とか新型のパワーローダーとかね」


「本当ですか!?」


 それを聞いてトモカは今度は驚いた。

 

 ヨツバはどんな手品を使ったのだろうか。


「なんてことはないよトモっち。ただお願いしただけ」


 とは言うがトモカは不思議でならなかった。


「こんな状況だからね。最終決戦のための備えが無駄になったから上の方はその貯蓄を崩していってるんだって。それにあの世に物資は持ってけないからね」


「どこからそんな情報を?」


 トモカはヨツバを魔法使いのように思いながら尋ねた。


「これでも色々とコネがあるんだよーん。まあ先生とかが頑張ってくれてるんだけどさ」


「先生が……」


 との事だった。

 先生と言うのは学徒動員として徴兵されて、自分たちの担当の女教官についたあだ名だった。

 悪い意味ではなく、いい意味でだ。 


「先生からの任務は――まだ終わったないんだよね」


 ヨツバの言葉を引き継ぐように


「平和な世界を確かめて欲しい――でしたね」


 トモカは言った。


「そだよトモっち。そのためには平和になるように頑張らないとね」


「うん」


 トモカとヨツバも二人はうなずきあった。 


☆ 


『も~祭りが近いのに間が悪い!』


 パワーローダーを身に纏った園崎 アンナはTYPE-03、パワーローダーを身に纏ってビームガトリングガンを振り回して一掃する。


 今回の敵もサメだった。

 

 しかもただのサメではない。


 サメと戦車が細胞レベルで融合したサメタンクである。

 ちゃんとキャタピラで動き、口から砲弾を吐き出す。

 それが群れをなして攻めて来たのだ。


 控えめに言って地獄である。


 この世界はどうなっちまったのだろう。


 トモカたちは何度目かになる絶望感を感じたがともかく攻めてくるのであれば対処しなければならない。


 ゲートの上に陣取って迎撃するとサメタンクの砲弾でゲートが破壊されて大変になうので仕方なく迎撃する。


 部隊を防衛チームと遊撃チームに分け、遊撃チームは側面から仕掛ける形だ。


 防衛チームは遠距離武器――大口径狙撃砲、レールガン、ロケット砲などで援護する。


 その傍ら、進路上に地雷などのトラップを仕掛けたりするあたり手慣れたもんである。


『桜木隊長!! 見掛けゆるキャラみたいですけどこいつら皮膚が堅いです!!』


 園崎 アンナのビームガトリングがまるで通用していない。

  

『落ち着いて口の中と側面のエラの部分を狙ってください』


 トモカは冷静に支持を飛ばし、的確にビームライフルで撃破していく。

 この狂った世界で長いこと隊長を続けているだけあって冷静である。


『サメタンクの散開を阻止してください。戦車戦に持ち込まれたらこちらの被害が拡大します。倒すよりもキャタピラを破壊して散開を防いでください』


 そう言ってサメタンクを倒すよりも、キャタピラを破壊して動きを封じて群れの内側にいる他のサメタンクの動きを封じる作戦に出た。

 この作戦は上手いこと嵌まり、サメの群れは外側の行動不能になった味方が邪魔で身動きが取れなくなっていた。

 

 あとは強力なプラズマ爆弾で群れの内側から吹き飛ばしていった。



 格納庫に戻った桜木 トモカを待ち構えていたのは学校を挙げての祝勝会。


 祭りの前座を兼ねたお祝いイベントだった。


 祭りの前座と言うのはただ祝うためのこじつけだろうがトモカたちは盛大に祝福された。


「いや~今回も桜木隊長のおかげですね」


 園崎 アンナにそう言わるがトモカは「相手が群れで固まって行動してくれていたおかげですよ」と照れながら返した。


「隊長はいつもそうなんですから。まあ隊長らしいと言えば隊長らしいんですが」


「ははは――」


 そう言われても慣れないものは慣れないトモカであった

 

「お祭りイベントですけど誘う相手は誰かいるんですか?」


「それが――」


「いないのなら自分がお供しましょうか?」


「あ、いいんですか?」


「喜んでお供しますよ」


 すると他の生徒から「アンナだけズルい」、「私も隊長と一緒にお祭り見て回りたかったのに~」とか「私は男を捕まえてみせる!」などなど口が開かれる。


 それを見たトモカは「ははは……みんな元気だね~」と苦笑する他なかった。


 そして――



 =お祭り当日=

  

 桜木 トモカは様々な生徒や町の住民達と交流するように出し物を見て回った。


 古き良き縁日的な物があったり、テントで作られた即席映画館で昔の映画が上映されていた。


 食べ物屋さんや射的場とかも定番だった。


 アイドルみたいな衣装に身を包んで歌と踊りを披露している生徒達もいた。


 みんな好き放題にして、いきいきとしている。


 桜木 トモカはそれがなにより嬉しかった。


(また見てみたいな。こんな光景――)


 心の中でそう思いつつ、桜木 トモカも祭りを精いっぱい楽しむことにした。


 ――どうかこんな日々が長く続きますように。


 END     



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】パワーローダーを身に纏った少女たち MrR @mrr

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ