第11話 K カタカムナのオーパーツ
オーパーツって知ってる?河合は唐突に切り出してきた。
out-of-place artifactsを縮めて、OOPARTS。発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる出土品や加工品。咄嗟に検索した最初のページには、ウィキペディアのそんな説明が表示されている。
…、なるほど。俺には理解できないと理解した。
木下はスマホに落としていた視線を上げて、首を横に振った。
河合は大学で日本古代文明を専攻している。ゴッドハンドの事件で日本古代史は壊滅的な打撃を受けているのだが、彼女は意に介さず研究に没頭しているようだ。
木下が沈黙していると、河合は話を促されていると思ったらしい。研究者とはえてして寡黙か多弁に分かれるのが常だが、河合は後者だ。いつもどおり、否、いつも以上の熱量でマシンガントークを始めた。
木下は熱心に相槌を打ちながら話を右から左に聞き流していた。器用なスキルだと思うが、一年も交際していればこの程度身についてしまう。
で、これがその鍵となるオーパーツ。言いながら河合は手のひら大の何かを鞄から取り出した。何だ、コレ。何かが彫ってある塊が、串のように刺さっている。一つ一つの塊は串を軸にして回転させられるらしい。
おいおい、研究員とはいえそんなに簡単に持ち出せて大丈夫なのか?どう考えても貴重なものだろうに。そう心の中で突っ込みながら、好奇心に駆られて木下は身を乗り出す。話に食いついてきた。いたずらっぽい笑みを浮かべながら河合はさらにヒートアップした。
表面に文字みたいなのが彫刻してあるでしょ。これがなんと、カタカムナ文字なんだ。知ってる?カタカムナ文字。古代日本で使われてたって言われてる伝説の文字。偽物だってのが通説だけど、まさか自分の関わる遺跡から出土するとは思わなかったよ。驚いたけど、こんなものに出会えるんだから発掘者冥利に尽きるってもんだ。
木下が胡散臭いとも興味深いともつかない視線を向けるのを見て、河合は続ける。でも、これをなんに使うのかはわからないんだよね。彫られているのはカタカムナ文字の数字みたいなんだけど。そう言って、木下のほうにその出土品を向けた。木下は何の気なしに手を伸ばす。そして手が触れた瞬間に…。
木下がフッと消えた。え?河合は悲鳴を上げることも忘れ、目を見開いている。きょろきょろと周囲を見渡す。他の客で気がついたものはいない。どうしよう…。と思案する間に、木下が戻ってきた。戻ってきたのはいいが、ほんの数秒の間だけだったのに疲労困憊している様子だ。
何が…と聞きかけて河合は口をつぐむ。木下が目で、今は話すなと訴えていたからだ。その迫力にいささか威圧されながら、二人で喫茶店を出た。
どこで話すのが良いだろうか?少し考えて河合は大学の研究室に向かった。木下も黙ってついてくる。視線を左右に動かし、周囲を気にしているようだ。
研究室の扉を開け、ソファに座る。コーヒーを用意して、それに口をつけた木下はようやく落ち着きを取り戻した。
何があったの?その問いに答える前に、また木下は周囲に目を配る。先程とは打って変わった雰囲気に河合も心配そうだ。
木下がさも疲れた、という様子で口を開く。さっきのアレな。触った瞬間に、辺りの景色が変わったんだ。どこなのか、見当もつかない。地球上なのかどうかすら怪しいくらいだ。そこで俺は、目玉のついた植物みたいな奴らに、一瞬で囲まれたんだ。恐怖に駆られて逃げ場所を探すと、次元の裂け目としか言えないような割れ目が自分の後ろで閉じようとしているのが見えた。無我夢中で飛び込んだら、帰ってこれたんだ。
そこまで一息で話して、ふう、とため息をついた。さっきから辺りを見ていたが、付いてきた奴はいないみたいだ。ほっとしたよ。
思うに、アレは次元を超えるとか、なんかそんな能力を持ってるんじゃないかな。なんで俺が触ったときに動いたかはわからないけど。
そう言って、木下は話を切り上げた。
結局その出土品は「なかったこと」にされた。もともとオーパーツ扱いの、発掘研究を続けるには不都合な代物だったのだ。
そしてそのオーパーツは、今でも河合の机に飾られている。木下と一緒に触れば動くのかもしれないが、そんな危険を犯す必要性も感じないので放置してある。
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