第8話 H 本物そっくり

すごい特技を持った友人がいる。名前は保奈美。本物そっくりの彫刻ができるのだ。どうも美術系の有名な大学を出ているらしい。


私もいくつか作ってもらったこともある。今のマンションはペットが飼えない。動物好きな私には寂しい限りだ。そこで彼女にお願いをした。もちろん、いつもお礼はしている。


おかげで部屋は動物園と化した。手のひらサイズの犬、猫、鳥など。特に私のお気に入りは世界のカエルシリーズだ。大きな目玉が愛嬌いっぱいで可愛くてたまらない。


そんな保奈美だが、絶対に作らないものがある。それが「人」だ。


頼まれることは多いらしい。有名人に似せて欲しいとか、結婚式のドレス姿を作って欲しいとか、キャラクターものとか。それをいつも丁重にお断りしているそうだ。


理由を聞いてもいつも言葉を濁す。だからまあそんなものかなって思ってた。


ある日、別の友人の子供が亡くなった。産まれた時から長くは生きられないといわれていたらしい。奇跡は起こらなかった。覚悟はしていたものの、ショックは大きい。


そして、せめてもの慰めにと保奈美に彫刻を頼んだのだ。かなり渋っていたのだが、もともと優しい性格でもあるので断り切れなかった。生前の写真をもとに、まるで生きているかのような彫刻を作り上げた。


渡すときは私も立ち会ったのだが、「これはただの人形なんだから、絶対に想いを込めすぎないで」と言っていたのが印象的だった。

帰り際、二人で喫茶店に寄った。さっきの言葉の意味を聞きたかったからだ。彼女は目を伏せて考えていたようだが、意を決してという感じで話してくれた。


「小さい頃、私は友達がいなかったの。だから、自分で友達を作ったのね。イマジナリーフレンドってやつ。ただ、私の場合それを形にすることができたから。こうして、日がな一日自分で作った人形と遊んでたの。毎日毎日。そうしたらね、だんだんその人形が話しかけてくるようになった。もちろん、私だけに聞こえていたんだと思う。ただ、両親がね。こんな人形があるから本物の友達ができないんだって言って、取り上げて燃やしてしまったの。それだけなら良かったんだけど…。」


そこで一度、彼女は言葉を止めた。これから先を話そうか、また迷ってしまったようだ。だから私は、それで?と先を促した。


「その人形が、今でも夢に出るのよ。しかも、私が大きくなるにつれてその人形も夢の中で成長しているの。そして、いつも私に恨み言をいうのよ。というか呪いね。どうして僕を燃やしたんだ、と私を責めるのよ。だから私は人型のものは作らなくなった。」

「だから今回も怖いのよ。作った人形とお母さんがどういう関係になっていくのか…。」


心霊現象なんか信じない私は、そんなこともあるんだね、と軽く流していた。子供の人形だから、夢に出てきたらむしろ嬉しいくらいじゃない?なんて思っていた。


1ヶ月が経った頃、子供を亡くした友人から連絡があった。人形が成長している、まるであの子が生きているみたいだ。そんな内容だった。


保奈美の心配は当たったのかもしれない。人形の成長が夢の中だけならばまだいいが、どうも友人は本当に成長していると思っているようだ。


気になった私は保奈美を誘って友人の家に行った。そこには…。


明らかに一回り大きくなった人形がいた。


友人はまるで本物の子どものように人形を扱っていた。


「やっぱり、人は作っちゃいけなかったんだ…。」帰り際にぽつりと保奈美はつぶやいた。この後、人形はどうなっていくんだろう。


友人とはその日以来会っていない。

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