第7話 G ガマの油
ガマの油って知ってるかい。最近の子は知らないかな。まあ、俺も実物は見たことないんだけど。ただ、ちょっと変な目にあったっていうことなんだ。
俺の趣味は山登りだ。学生時代は山岳部にいたくらいだから、本格的な山にも登る。
ただ、最近は体力も落ちてきてな。この間はハイキング以上登山未満、みたいなレベルを登ったのさ。
天候には恵まれたんだが、俺の見込みが甘くてな。山頂に着く前に夜になっちまった。仕方ないから、適当なところで野宿しようと考えた。
で、寝袋に入ってウトウトとしていたんだ。やたらとカエルの声がしたな。今思うとそんな水辺の近くでもないし、異常だったかもしれない。
変な夢を見たんだ。いや、夢だと思ってるだけなのかもしれない。
気がついたら俺はカエルになっていた。いわゆるガマガエルだ。なんで分かったかって?それはな、目の前、いや四方を鏡で囲まれていたんだよ。嫌でもカエル顔が映るんだ。
慌てて体を確認した。手は4本指、足は6本指になっていた。夢だよなと思いつつ、どこを向いてもカエルになった自分が映るというのは気持ちいいもんじゃない。だんだん脂汗をかいてきた。ふと足元を見ると、何か液体を集めるような仕掛けがしてある。それで思い出したのさ、ガマの油って薬をね。
時計も何もないからどれくらい経ったかはわからない。べったり脂汗まみれになっていると、不意に上から声がした。
「随分溜まった、もういいだろう」。歳をとってるのか若いのか、男なのか女なのかもわからない変な声だった。
その声が聞こえた直後に俺の意識は暗転した。気がついたらもう夜明けだった。はっとなって確認したが、体はちゃんと人間だったよ。ただ、ひどく汗をかいていた。
後になってガマの油のことを思い出し、調べてみた。今は伝統芸能みたいになっているらしい。その口上の中で「四六のガマ」ってのが目についた。前足4本指後足6本指ってことらしい。カエルの指なんて考えたこともないからさ、そっちも調べた。そうしたら、カエルの足は前足4本、後ろ足5本。つまり、四六のガマなんていないんだよ。だからこそ、夢だったんだとも言えるんだけどさ。
俺の体験は、ほんとに夢だったのかな。それとも、何者かににカエルにされて、ガマの油の原料にされていたのか?
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