第6話 F Friend
ああ、あいつどうしてるかな。独りで会社に残っていると、そんなことを考える日もある。今日はまさにそんな日だった。
まだ仕事中なのだがこっそりスマホを取り出し、インスタグラムを開く。旧友たちの顔が並ぶ。
俺の周りでは結婚して、子供もいるやつがほとんどだ。旦那や妻を自慢するやつはいないが、そんな人間も子供自慢はいつもしている。
産まれましたの報告から、首がすわった、寝返りをうった、などなど。独り身の自分としては妬ましいとも思いつつ、友人が幸せそうにしているのは嬉しい。
スーッ。画面をスクロールしていく。皆の笑顔が眩しくすらある。と、そんな中でひとつの投稿が目にとまった。大学時代の女友達の投稿だった。
「私もママの仲間入り♡」と書いてある。しかし満面の笑顔の写真のどこにも、赤ちゃんの姿はなかった。皆のコメントも困惑気味だ。「良かったね♡」という書き込みと「赤ちゃんはどこ?」という書き込みと半々。とりあえず俺もおめでとうとだけコメントして仕事に戻った。
そんな事があってから2週間。今日もまた独り残業をしている。そういえば赤ちゃんどうなったかな?気になってまたスマホを手に取る。例の友人の投稿を確認する。そして違和感を感じる。「カワイイでしょー」と幸せそうな笑顔の彼女。しかし、またしても肝心の赤ちゃんが写っていない。どういうことだ?他の友人も混乱し始めている。「赤ちゃんどこ?」ストレートに尋ねているやつもいた。俺も「早く赤ちゃん見せてよ」とコメントを打とうとして…。手がとまった。写真をよく見る。なにかおかしい。彼女の顔。右の頬に歪みができている。そう、まるでなにかに頬ずりしているように。俺は何もコメントせず画面を消した。
その後も何度か彼女の投稿に遭遇したが、相変わらず赤ちゃんはいない。しかし、赤ちゃんサイズに盛り上がった布団など、明らかに何かがいる気配があった。気味悪がって、もう誰もコメントをしなくなっているようだった。
3ヶ月ほど経った。仕事に追われてくだんの女友達のこどものことも忘れていたそんな頃、大学時代の友人から電話が来た。「なあ、あの子のことなんだけど…。」言いにくそうにしている友人を急かしながら話をさせる。どうやら例の赤ちゃんの投稿をしていた女友達が入院したそうだ。しかも、精神病棟に。
「おまえもインスタの投稿見てただろ?実はな、そもそも赤ん坊はいなかったみたいなんだよ。俺は旦那さんとも知り合いだったから知ってるんだが、死産だったんだ。」そのことを受け入れられなかったらしい。彼女の奇行は徐々にエスカレートし、とうとう入院の運びとなったそうだ。
「そうか、なんとか治ってほしいな。」そういって俺は電話を切った。
治るといいな、口ではそう言ったが、俺は治らないだろうと確信していた。彼女の投稿。何かがいる気配、から明らかに黒い影が映るようになっていたからだ。赤ちゃんサイズの黒い影は、彼女の産まれてこれなかったこどものものなのか、それとも彼女を得物とした何者かなのか。そんなことはわからない。
わかるのは、精神科では説明できない何かが彼女の身に起きていることだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます