第5話 E 映画館

高校からの帰り道、ミニシアター系映画館に寄った。お目当ては戦争モノの映画だ。今どき、珍しいジャンルかもしれない。特に女子高生には。


私の場合、ひいおじいちゃんが将校だったことから子供の頃から戦争について家族から聞かされていた。と言ってもエリートだったんだよという自慢話ではない。戦犯として扱われ、どれだけ辛い思いをしたかという話だった。


館内には誰もいない。相当高齢だと思われるおじいさんが一人、スクリーンの前に座っている。シルバーカーがすぐ横に置いてあるところを見ると、歩くのも大変なのだろう。


映画が始まる。いわゆる巣鴨プリズンの話だ。当時の貴重な資料をもとに、丁寧に作り込んである。


と、不思議なことに気付いた。館内のあちこちで声が聞こえる。声と、それからすすり泣く音と。おかしい。この劇場には私とおじいさんしかいなかったはず。10人、いや20人はいる気配がする。


ふっとおじいさんの方に目をやると、思わず叫びそうになった。


いる。おじいさんを中心に、10人くらいの人影。それは人影としか形容できないモノだった。男か女かすら分からない。ただ、人なんだろうとは確信できた。なぜかは分からないけど。


上映が終わると、声も人影も消えた。照明がつく。やはり観客は私とおじいさんだけだ。おじいさんの頬には涙の跡があった。


さっきの影たちはこの映画を観に来たのだろう。もしかしたら当時の資料の本人なのかもしれない。その中には、おじいさんの知り合いもいたのかな。


私はそんなことを思いながら映画館を後にした。

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