6
何事もなく1日が始まって、いつものように吸われて揉まれて味わわれていると、私は机の中に覚えのないメモ書きを発見した。
「放課後、校舎裏に来てください。大事な話があります」
私は不思議に思いながら、そのメモを制服のポケットに入れた。
そして退屈な授業は過ぎ去っていき、放課後になった。今日も教室には部活の準備を済ませる数人の生徒が残っているだけ。私は友達に挨拶して、ひとり校舎裏に向かった。
そこには既に一人の女子生徒が立っていた。
彼女は私の姿を確認するなり、駆け寄ってくる。だが、その前に私は、彼女が誰なのか理解した。
「……あー、えっと、……水谷、さん」
「うん……これからは、あぐり、って呼んで。まずは……」
そう言うと、彼女は驚くべき行動に出た。
スカートをたくし上げ、パンツを見せつけてきたのだ。
私が唖然としている間に、彼女は残った一枚の布さえ剥ぎ取ろうとしたため、さすがに慌てて止めた。
「ちょっ!ちょっと待った!!︎なにしてるの!?︎」
「……見てほしくて。私の、……1番、恥ずかしいところ」
「いやいや、なんでいきなりそんなことするのよ……」
「……実は、前から茉奈ちゃんのこと好きだったんだ。でも、茉奈ちゃんは私のことなんて蚊帳の外。3人と付き合ってたもんね?だから、せめて私の身体だけでも好きになってほしいなって思って」
私は呆れ返ってしまった。どう考えても、これは異常だ。普通じゃない。
しかし、彼女の瞳からは強いなんらかの意志が感じられた。……仕方ない。とりあえず話だけは聞いてみよう。
「あの、……一応聞くけど、それってどういう意味?」
「見て欲しいの、私のこと、私の身体」
「……うぅん」
私は困惑しながらも、なんとか会話を続けようと試みた。
「どうして私に見せたいの?」
「茉奈ちゃんのこと、ほんとにほんとに、大好きなんだ。だから、茉奈ちゃんになら、全部見られても平気だし、いつかは2人で、お互いの身体見せ合いっこしたいなぁ、とか、思ったりして……あとは、……好きなの、外で見せつけるの。気持ちいいからさ」
眼鏡の奥の眼は熱っぽく潤んでいた。彼女の言葉を聞いているうちに、私は段々と興奮してきた。……この子は、可愛いかもしれない。
「私、昨日までは話しかけるのさえ億劫で、なかなか声をかけられなかった。少しでも関わりを持とうとして時間割を聞いても、茉奈ちゃんじゃなくて愛生ちゃんとか希乃ちゃんが答えちゃうし……でも、昨日、やっと勇気が出せた。あの想いをそのままにできないなって思ったの。それで、茉奈ちゃんを呼んだんだよ」
崩れ落ちそうな理性をやっとのことで引き留め、声を出す。
「ごめん、明日考えさせて」
「分かった。待ってるね」
私は逃げるようにその場を去った。
***
次の日の朝。
「放課後、……クンクンさせてくださいねッ♡♡」
いつものように愛生にセクハラ紛いの発言を受ける。
「ではまた♡次は社会科でしたわね♡」
チャイムが鳴る。まだ先生は来ていない。授業が始まるまで、まだ少しあるかな。私は急いで教科書をロッカーから取り出した。
「1900年代に突入するとアメリカが……」
歴史科教員の口上を聞き流しながら、私は昨日の水谷さんのことを考えていた。
結局、あれは何だったのか。分からないままだ。……隣では張本人が真面目に授業を……。ふと目線を横にやる。すると、彼女と目が合った。ニコッと笑ってまた教壇に目をやる。……可愛いかもしれない、そう思う気持ちと、突然彼女が私に迫ってきた理由がわからない不安定さに漠然とした違和感を覚えていた。
「あっ」
消しゴムを落としてしまい、慌てて机から脇に身を乗り出す。拾おうとしていると、脇の方に衝撃的なものを見つけてしまった。
「茉奈、ちゃん」
お尻の方のスカートが捲れて、パンツが見えてしまっていた。パンツも少しずれてしまっていて、割れ目に食い込んでいる。
「見て……♡」
囁くような声で言われた気がしたが、周りの生徒には聞こえていないようだ。彼女は私にしか見えない角度で、スカートを摘んでパンツとはみ出した肌を見せびらかしてくる。
「っ!」
私は顔を赤く染めながら、視線を逸らす。彼女は満足げに微笑むと、何事もなかったかのように前を向いてしまった。
「あー、えっと、……今日はここまでにします」
今日の授業は終わり。私は机の中に手を入れる。なんだか、ぼーっとしていたらいつの間にか教室には誰もいなくなっていた。私は仕方なく鞄を持って立ち上がる。そして、ゆっくりと歩き始めた。
「茉奈」
背後から声がする。智絵里だ。
「どうしたの……?」
「なんか、元気なくない?」
「ううん、別に」
「ん、そっか。なんかあったら私に話してよ」
こういう時だけはなんか頼りになるなぁ、なんて思いつつ、私は別れを告げた。
「落ち込んでるとおっぱいのハリも落ちちゃうよ〜」
無駄な声も聞こえたけど無視無視。
そして翌日、事件は起こった。
***
「じゃあペアでパス練してください」
退屈な体育の授業。あまりバスケットボールは得意ではないので憂鬱だった。ペアは隣の席の水谷さん。彼女も同じなのか、困った表情をしている。
「茉奈ちゃん、一緒にやろ」
「うん」
彼女は私に向かってボールを軽く投げてくる。それをキャッチする。しかし、その瞬間、彼女の手が私の胸に触れた。柔らかな感触。思わず顔を見合わせる。彼女は頬を赤らめ、俯いた。
「ごめん……」
「いや、平気だよ。寧ろ嬉しい。私に触ってくれて」
彼女の「いつも通り」になってしまった発言に多少たじろぐ。彼女はとんでもないことを言い出した。
「この前はごめんね」
まさか謝られるとは。
「引いたでしょ、あんな風に見せつけて」
「まぁ、ちょっとびっくりはしたけど」
「誤解を解きたいんだ。私は本当に、好きなの。茉奈ちゃんが」
好き。誰に言われてもやっぱり少し照れくさい。目の前のポニーテールのメガネの少女がこちらに微笑みかけてくる。
「ねえ、授業抜け出しちゃおうよ。次昼休みだから最終的に戻ってくればいいんだし。お互い話してみたい」
「そうだね、そうしよう」
私たちはお互い目を合わせ、一目散に走り出した。誰もこちらに気づいてない。ボン、ボンとボールが跳ねる音と、会話する声がどんどん小さくなる。汗をかいてしまった。
2人きりになれる場所を探し、静かな廊下を歩く。
「どこにいこっか」
「屋上とか、体育館の裏、中庭……色々あるよね」
「とりあえず、2人でゆっくりできるところ」
「それなら……」
私はある部屋を思い出した。鍵のかかる空き教室。そこの鍵を持っていることを思い出したのだ。前に入っていた部活の関係で持っているのだが、今はもう退部してしまって入ることはない。放課後にならないと滅多に人の出入りもない。うってつけだった。
「そこに行こっか」
「うん」
私は足早に目的地に向かう。水谷さんも後ろからついてきているようだった。
ふと変な音に気づく。小さく、高い水音。どこから聞こえるのか分からず、辺りを見回す。後ろを振り向くと、水谷さんが。
股間に手を当てて、細かく動かしては息を荒くしている。
「茉奈ちゃん、トイレ行きたいの」
「え、さっき行ってきたんじゃ……」
「違うの、おしっこじゃないの」
「じゃあ何?」
私が尋ねると、彼女はスカートに手を入れて、パンツを脱ぎ捨てた。
「ごめんね、ごめんね……茉奈ちゃん、好きなの、本当に話したいの、でも、……カラダが泣いてるの、早く、早く見てほしいって」
彼女がスカートをたくし上げる。マジでダメなところが見えている。会話さえできんのか。
厄介な奴が増えたな……。
いよいよ学校生活に覚悟がいるようになってきた、と呆れた心持ちがした。
***
「……ねえ、話してきたよ」
「そうなんだ。どうだった?」
「自分を全部見せたら、なんだか少しスッキリしたよ。まあまだまだ距離はありそうだけど、頑張ってみるね。だから、これからもよろしく」
「そう。……よかったね、……じゃあ、早く続きしてよ」
「……うん。……最初はさ、こんなの意味あるのかなって思ってた。でもやっぱり……ちょっと、好きかも」
「それ、どういう意味?」
「……茉奈ちゃんと話してみて、やっとちーちゃんの言ってること分かったんだよ」
「ふふ、そうなんだ」
「……ふふふ」
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