5
私は今放課後、教室に忘れ物をしてしまったことに気づき、慌てて戻ってきたところである、そのはずだ。だが私はまだ教室に入ることすら叶っていない。なぜか。
「ふふ、ふふ……」
怖すぎる。教室に、謎の笑い声が響いているのだ。入れるわけがない。
「ふふ、ふふふ……はぁーっ……」
しかし、この笑い声は聞き覚えがある。このシチュエーションは初めてだが、この声は誰のものかわかる。ため息をついてくれたおかげで確信が持てた。
あえて何事もなかったみたいに入ろうっと。
ガラガラガラ。扉を開ける。ガタン、と椅子が跳ねる音がした。紙か何かを机の中に入れたようである。
「……あ」
やっぱり。希乃だ。私の席に座って、目をパチパチさせている。
「ぁ、えと、……茉奈?」
こういう時の希乃は限りなく臆病に見える。目は泳いでいるし顔は赤い。
「……もしかして、みてたの……?」
「笑い声は聞いてた」
希乃は、
「なんだぁ……脅かさないでよ」
と胸を撫で下ろしていたが、
「実は忘れ物しちゃったんだよね」
「え、どこに……」
再び焦りの色が溢れてくる。それはそうだろう。机の中には、なんだか知らないが「見られたくないであろう紙」が入っているのだ。希乃も本当は私がそれに気づいていることをわかっているはずだ。
「机の中」
目の前で動揺する希乃に少しの快さを抱いて答える。
「あ、わかった、……じゃあ私がとってあげる、どれ?」
そうきたか。私は少し考えるふりをする。
「いや、自分で探すからいいよ、机の中見せて?」
と答えてみる。
すると希乃は顔を真っ赤にして、
「……わ、わかった」
大人しく立ち上がる希乃。だが私は、その手が素早く私の机の中をまさぐるや否やその紙を掴み取っていく全ての挙動を見届けていた。敢えてスルーして、目的を果たす。
「あ、あったあった、ありがとう」
「えへ、よかったね」
どこか空々しい返事。
「うん」
私は答えつつ、希乃に背を向ける。
そして、
「うわぁっ!」
大袈裟に転んでみた。脚を広げて、希乃に見せつけるように。もちろん演技だ。
「あ、だいじょう、ぶ……」
声が小さくなっていく。太もも大好き希乃にとって、急なナマ脚のご開帳は大ダメージのはずだ。或いは魅了か。どちらにせよ効果は抜群だったようで、
「……」
希乃は無言でその場に突っ立って小刻みに震えている。どうしたら良いのかわからないようだ。……そろそろいいか? 私はゆっくり立ち上がり、
「……いたたたた、ちょっと転んじゃった」
「……茉奈ッ!!!」
「うわぁっ!!!???」
思いっきり脚に抱きつかれた。痛いくらいの力でぎゅぅ〜っと締め付けられる。私は思わず悲鳴を上げた。
「こら!希乃!」
「えへへ、えへへぇ〜」
ダメだ、完全に正気を失っている。
「こんな急に恥ずかしいところ見せつけて恥ずかしくないの〜?茉奈〜えっちだね〜♡♡」
すりすりと頬擦りされる。
「ちょ、ほんとに離れなさいよ……っ!!」
なんとか振り解いてそこに落ちている紙をひったくった。
「ようやく手を離してくれたね」
と言って、掴み取ったものをひらりと振ってみせる。
希乃の目の色が変わった。
「あっ!」
「……これはなにかな?」
「……」
希乃は黙秘権を行使している。先ほどの発情からの落差が激しすぎる。
「なになに、『茉奈の脚日記』……?」
「読まないでぇ」
希乃は観念したらしく、懇願の言葉をあげた。だがもう遅い。私はすでに中身を読んでしまっている。
『○月○日 今日は授業中ずっと茉奈の生足を見てました。いつも見てるけどやっぱり綺麗です。白くてすべすべして、すらっと伸びているけど、太ももは肉感がすごくて抱きつきたくなる。ぺろんぺろんしたい。授業中は堪えるしかないのが本当に辛い……。5時間目の終わりがけになって我慢できなくなって茉奈が寝てる隙に机の下でこっそり撫で回しちゃいました。やばい、めっちゃ興奮する。あの感触を忘れられない。家に帰ったらいっぱいしようっと。○月△日……』
「まったく……変態にも程があるでしょ」
私は呆れながら言った。
「だって茉奈の脚が綺麗過ぎるんだもん……」
「全く、私の脚の何がそんなに良いの?」
「良すぎるくらいだよ!!茉奈の脚は私を狂わせる悪魔なんだよぉ……!!」
もはや開き直って大ボケをかます希乃。
「はいはい」
この会話をしている間にも、私は希乃に脚を撫で回されている。
「……ねぇ、お願い、もう一回だけ……もう一回だけでいいから……」
「……」
「……だめ?」
上目遣いで見られると弱い。
「しょうがないか、ほら」
私はため息混じりに応じた。
「やったー!!」
希乃は心底嬉しそうに飛び跳ねて、私の両脚を揉むようにまさぐり始めた。
「んっ、ふぅ……はぁ、あぁ……♡」
気持ちいい。マッサージや整体のような快感だ。希乃の手付きは巧みだった。
「ぎゅう♡指と指との間からはみ出るおにくがかわいい〜♡」
「は、恥ずかしいからいちいち実況しないでよお……」
やっと絞り出した声が届いたのか、希乃はその動きを止める。
「……ずっとやってみたかったことがあるんだけどさ、……やってみても、いい?」
「え……?」
希乃の顔には淫蕩な笑みがあった。嫌な予感がして身を引こうとすると、
「逃がさないよ」
ぎゅ、と抱き寄せられる。そのまま脚に跨れてしまった。ミニスカートの中の、隠されていた部分が押しつけられている。希乃の股間の、熱い感触。
「ちょっ、やめて……っ」
「……こうやって、跨ると……茉奈の太もも全部感じられて、すごい……」
「うぅ……っ」
確かに、希乃のお尻に圧迫されて、太ももの前面全体が何かに包まれているような感覚だ。しかもそれは徐々に熱を帯びてきていて、
「……これだけで、すごくきもちいいよ」
「ばっ、馬鹿じゃないの!?」
「えへ……♡」
腰を前後する動きが加わった。ぐちゅ、と水音が聞こえる。下着のクロッチが濡れてきているのだ。
……これ、ヤバい。
「茉奈ぁ……♡」
希乃の呼吸も荒くなってきた。
「ちょっと、ストップ……!」
「え〜?……どうして?」
「それ以上は、……まずいよ、私たち学生じゃん……っ!?」
「……べ、つにぃ……スキだから、いんじゃん……?♡♡♡」
好き……?
直接そう言われるのは初めてだが、いざ言われるとすごく照れ臭いし、胸が高鳴る何かがある。
「……そういうの、ダメ」
「ダメって何?♡私は茉奈のこと、大好き♡♡」
ああもう!なんなんだよこいつは!!可愛い!!!ムカつくけど!!!!!
「ちょっと、ずるいって……っ」
「じゃあいいでしょ?茉奈の脚、貸してね……♡」
希乃は私の返事を待たず、さらに激しく動かしてきた。
「ああっ、やめ……っ」
ぬるぬるしてる。もうびしょ濡れじゃないか。なんでこんなことになってるんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……♡茉奈、私、もうイキそ……♡」
「ちょ、待って、ほんとにやめ……」
「ごめん、無理……イクッ……♡♡♡」
どくん、と脈打つのが分かった。私の太ももの間で、彼女が。
「ああっ……はぁ、すっごく出た……」
余韻に浸るように、しばらく動かないでいた希乃だったが、やがてゆっくりと起き上がった。私の上から退く。
「茉奈、ティッシュ取ってくれる?」
「……」
私は無言で、リュックサックの小さいポケットに突っ込んであったティッシュを希乃に投げつけた。彼女は顔でそれを受け止めた。
「ぶふぇ!!」
とんだ変態だ。だが、そんな彼女の相手を最後までしてしまった自分も相当である。
私はどうしてもぼーっとしてしまって、机の上で頬杖をつきながら、窓の外を眺めていた。外では運動部の掛け声が響いている。放課後の練習が始まったようだ。
「……ねぇ、茉奈」
「んー?」
振り向くと、希乃が自分の脚を拭いていた。
「……今日のことは、2人だけの秘密だよ?」
他の2人から抜け駆けしようとしている……。
「当たり前じゃん、言うわけないでしょ、他の2人に」
「えへ」
希乃は嬉しそうだ。その笑顔を見て、まぁいいか、と思ってしまう自分がいた。
***
「ぢゅ、ぢゅ、ぢゅ♡」
「ぁ、もぅ、憧子、歯、立てないで、っん♡」
「ちゅ、っぷは、ぁ……お姉ちゃん、今日はおそかったね……寂しかったよ」
潤んだ瞳に映る自分の顔。なぜか、ゆらゆらと大きく揺らめいて見えた。髪の毛の乱れを知る。慌ててそれを整えると、目の前に憧子が見えた。
***
『茉奈ちゃん、……服を脱がしてあげるね』
今日は筆が進む。頭の中にいる茉奈ちゃんは、顔を赤くして頷き、ブレザーの裾を差し出している。
『万歳して』
手を上げる茉奈ちゃん。
あまり話したこともないクラスメイトだけど、心の中ではこんなに仲睦まじく肌を見せ合っている。だって、すごく肌が綺麗なんだもの。
『可愛いブラジャーだね、私もそれ欲しい』
話しかけると、ほんのり笑みを浮かべる。
『私のブラのホックを外して、茉奈ちゃん。茉奈ちゃんにだけ、私の恥ずかしいふくらみ、見せてあげるね』
そこまで書いたところでハッとなる。ようやく自分の人差し指と中指の所在を把握した。
「びしょびしょ……」
叶うことのない妄想はノートに浮かぶ。
「……いつか、茉奈ちゃんとシてみたいな……いつも周りに3人がいるからなかなか話しかけられないんだけど」
勝手に洩れた独り言に、ただ虚しくなる。今日はもう寝よう。明日また、彼女に会えれば、それで。
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