第14話 ソヌ
「うぇーん!」
私がまだ幼い頃、私は親戚のお姉さんたちに仲間はずれにされて泣いていたの。その日は街の貴族が集まるちょっとしたパーティーだった。
誰もいない部屋の片隅で1人で泣いてるときだった、
「好きな動物は何?」
顔を上げると、くりくりの大きな目、さらさらとした黒髪、優しい笑顔で私に話し掛けてきた男の子がいた。
「…好きな動物?」
「うん!何が好き?」
彼は、キャンパスと筆を持っていたの。
「とり、だよ」
「鳥か!かわいいよね。好きな色は?」
「桃色」
彼は、白いキャンパスを私の隣に広げて何やら書き始めた。
「ほら、できたよ!」
「わあ!鳥さんだ」
そこには、桃色で描かれた鳥が描かれていた。彼は彼なりに私を慰めようとしてくれたの。
「僕、キム・ソヌ。君は?」
「ボナ」
「よろしくね、ボナ。どうして泣いていたの?悲しいことでもあった?」
「お姉様たちが、仲間に入れてくれないの」
「そっか…よかったら一緒に遊ぼうよ、僕たちと」
「…いいの?」
「もちろん!おいで」
手を差し伸べた彼の手を握ると、優しく握り返してくれた。
彼に連れられて、広場に戻ると、
「あ!どこ行ってたんだよ、ソヌ」
「ごめん、ごめん!テヒョン、こちらはボナだよ」
その男の子は、茶色い髪に小麦色の肌を持った子だった。
「よろしくな、ボナ」
テヒョンは見ず知らずの私をすぐに受け入れてくれた。その日から、頻繁に2人は私を遊びに誘ってくれるようになった。
「その絵、どうするの?」
成長した私は、アクティブな遊びよりも、ソヌが好きな芸術に興味を持ち始めた。
「出品するんだ」
「いつもしてるの?」
「もちろん」
いつも街を眺めながら絵を描くソヌの隣に座り聞いたことがあった。彼の絵を取ると、作品のどこにも名前が見当たらなかった。
「名前は?」
「匿名で出品するんだ」
「どうして?才能があるのにもったいない」
「名前が分かると、家柄や顔がわかってしまうだろ?僕は自分の描いた絵に集中してみてもらいたいんだ。匿名だと、誰が描いたんだろう、この人はどんなストーリーがあってこの絵を描いたんだろうって。想像が膨らむだろ?」
「そうね。画家を目指さないの?」
「趣味で描いてるだけさ。それに僕は、会社を引き継がないとならないからね」
「そうだよね。私、好きだよ」
「…え?」
「ソヌの絵」
「あ、あぁ。ありがとう。ボナがそう言ってくれるだけで満足だよ」
「今度、私に絵を教えてくれる?」
「もちろん」
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「それから、ソヌに何度か絵を教わったわ。彼ほど繊細に美しく描けなかったけど」
「ソヌは、絵に描いた好青年ってかんじだな」
俺の嫌いなジフの顔を思い出しながら、彼女の話を聞いた。きっと、絵本から飛び出した王子様のような人だったんだろうに。
「チャ・ジフも絵を描くのが好きだそうよ」
「本当かな」
「なぜ疑うの?」
「男は女を口説くために、平気で嘘をつく生き物なの」
「それはあなただけよ」
「…なんでいつもあいつの味方なんだよ」
「でも、あなたを見てるとテヒョンを思い出す」
「当たり前だろ。俺なんだから」
「テヒョンとソヌも、勝負事になるといつもお互いに喧嘩していたわ。特にテヒョンはね。でも結局、お互いに認め合っていたわ」
「そこは違うな。俺たちは認め合ってないから」
「認め合ってるじゃない」
「ないよ!」
「性格のことは…確かにいがみ合ってるけど、互いに顔は認め合ってるじゃない」
彼女は心が読めるから、俺がジフの顔は確かにイケメンだと認めていることを知っていた。
「互いにってことは、あいつも俺のこと?」
「イケメンだって思ってるわ。性格は嫌いらしいけど」
「あいつもかわいいとこあるんだな」
そう言われると、あのチャ・ジフでさえかわいく思えてしまう。
冬だというのに太陽が照りつけて、外で過ごせるような今日の天気。美術館を後にした俺たちは、ちょっとした広場のベンチに腰掛けていた。
広場の中心にある噴水では、子どもたちが多く集まり、賑わっていた。
「そろそろご飯でも食べに行くか?」
「いや。私はいい」
「俺一人で行けってことか?」
「私は食事をしない」
「だとしても、付き合ってくれても良いだろ」
「ひとりで食べれるでしょ」
「外で?嫌だね」
「…なぜ?」
ボナは男一人がランチを食べる恥ずかしさを理解できないようだった。まあ、人間特有のものなのかもしれないが。
「私は仕事をしないと」
「仕事?」
彼女はコートのポケットに手を入れ、紙を取り出した。赤い正方形の封筒だ。
「何それ」
「今から迎えに行く人間」
「そこに名前が?」
「ええ、あなたの名前も書かれてあったから、私は迎えに行ったのよ」
「そうやって死者を迎えに行くのか」
「赤い封筒は、ただ死を導くだけ。黒い封筒だと罪を犯し、悔い改めなかった人間の名前が書いてある」
「そこに名前が書かれてあると、地獄に送られるってわけだ」
「そうよ。もう行かないと」
彼女はベンチから立ち上がった。
「あ、ちょっと」
呼び止めようとしたが、一瞬のうちに姿は消えていた。彼女はいつもそうやってさよならも言わず、すぐに姿を消してしまう。
その瞬間だけ、彼女を遠い存在に感じる。
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