第13話 死神とデート?
「無口で無愛想な奴同士の会話なんて地獄だぞ」
彼が去った後で、彼女にそう言った。
「彼は無口なの?」
空いた隣の席に座る。
「それに無愛想で、意地悪で女をたぶらかしてるって噂だよ」
「そんなはずないわ」
彼女は知ったように笑いながら、俺を見た。本当かどうか知らないけど、男の中の噂では、クールなふりして女を取っ替え引っ替えしてるって噂だ。
「あいつの何を知ってるんだよ」
「前世を知っているもの」
「前世は良い奴だったかも知れないけど、現世はくそ男だよ」
「前世の性格やその人間の性質は受け継がれるのよ。あなたは、テヒョンの性格があまり受け継がれなかったみたいだけど」
「そうなのか?どっちが良い?前世と今」
「前世ね」
「なんでだよ!!」
そうだろうなとは分かっていたけど、いざ直接言われるとちょっとは悲しい。
「テヒョンは、無茶はするけど根は優しくて、人思いよ」
「俺もな。ていうか300年も生きてて、目移りしなかったのか?他の男に」
「しない」
即答だった。
「じゃあ、今までずっと恋愛なし?なんで」
「テヒョンを超える男がいなかったから。それだけ」
「さては…」
彼女の顔をじっと見つめた。
「この顔に惚れたんだろ~」
自分の顔を指さし、ニコッと笑った。これで落ちない女はいない。はずだった。
「だから私はあなたに惚れないの。同じ顔でも」
いつも通り、鼻で笑われた。
「だからって、何だよ」
彼女の方を見ると、俺の顔をじっと見つめては、ゆっくりと顔を近づけた。
これまで以上に心臓はバクバクした。近くで見ると、彼女の綺麗な白い肌、長く伸びたまつ毛、吸い込まれそうな瞳はとても魅力的だ。
「私は、あなたじゃなくて、テヒョンに惚れてるの」
そう言うと、顔をパッと離し、
「勘違いしないで」
あざ笑った。
「…う゛ん、別に勘違いしてねーし」
咳払いをして、気にしてないふりをする。こんなの初めてだから、反応に困る。無意識に顔に熱があった。
「顔が赤いけど、大丈夫?」
「赤くねーし」
ばれてるのめっちゃ恥…
「そんなに言うなら、あいつは?」
話題を変えた。恥ずかしさを忘れるために。
「あいつって?」
「ジフだよ。前世のあいつと友達だったんだろ」
「彼は人を好きになることがなかったわ」
「あの顔で?」
「そうね、彼は高嶺の花だった。誰にでも平等に優しい。けれど、どんな女でも彼の心を奪うことは不可能だった」
「
「彼はソヌの性格をそのまま引き継いだのね」
「そんなことないな」
明らかにあいつは、ボナのことを狙っているから。それに、彼女が生きていた時代は分からないけれど、現代であの顔の純粋な奴は、絶滅危惧種だろう。
「あ、そういえば」
「…」
「週末暇?」
あることを思いついた俺は、彼女にそう尋ねると、
「私、予定というものはない」
そっか俺、死神に予定聞いてるのか。なんだか笑えるな。
「記憶、思い出して欲しいんでしょ?だったらさ」
「…?」
「前世の俺たちがやってたことを、今やってみるって言うのは?」
「例えば?」
「乗馬とか、あとは…何して遊んでたんだ?」
「それをして、何の意味が?」
「ったく、人間のドラマ見たんだろ?だったら、記憶を思い出すために、2人の思い出の地を巡ったり、遊びをやるのは鉄板だろ」
よく映画の世界で記憶を無くした主人公は、恋人と思い出の場所や思い出に残っていることをすると記憶を思い出している。現実世界でそれが通用するのか分からないけど、やってみないと分からないし。
「そんなことで思い出せるほど簡単じゃない」
「はぁ、これだから人間じゃない奴は…」
「…思い出すのは私じゃなく手あなたよ。そんなに言うならば、いいわ」
「決まり!…俺はもう仕事に戻らないと。もしジフがまた話し掛けてきたら、俺に助けを求めるんだぞ」
彼女は呆れた顔で俺を見た。いつものことだ。
週末、彼女と訪れたのは街から少し離れた、農家。
「乗馬体験のお客様ですね」
「はい」
つなぎを着た農場のスタッフの人だろう、俺たちを案内した。周りは、親子連れが多く、乗馬体験をするのは、ほとんどが子どもだった。
「お姉さんはこの白い馬を、お兄さんはこの馬に乗ってください」
初めての乗馬だけど、大人は特別コースに案内された。確かに、子どもと紛れてやるのは、プライドが許さない。
スタッフに教えてもらいながらゆっくりとやっていると、
「お姉さんすごいですね」
隣をみると、数秒で大きな馬に乗馬していた。馬に乗るのでさえ難しくて、時間がかかっている俺に、彼女は冷たい目線を送った。
「乗馬って難しいですね」
「ええ、そうですね」
スタッフの人は苦笑いで、俺を見た。
やっとで、馬に乗ることに成功。
「それじゃあ、歩きますね」
スタッフが支えてくれてるにもかかわらず、体勢を保つのは、軍人の俺でも結構な体力が必要だ。
「お姉さん、乗馬経験者ですか?素晴らしいですね」
「ええ、乗馬は貴族の中では、できて当然だから」
「貴族…?」
首をかしげるスタッフの人、
「その…この子の家、お金持ちで」
何とかフォローしてその場は何とかやり過ごした。
「以上で体験は終了です」
そう言われてスタッフから渡されたのは、『乗馬できたねカード』。絶対に大人がもらうようなものではなかったが、スタッフの人も気まずそうに渡すし。
彼女は、不思議そうにカードを見た。
「これは何?人間は乗馬ができるとカードをもらうのか?」
「そういうサービスなんだよ」
「サービス…これで喜ぶのか?人間は」
「人間というより、子どもがだな。要らないなら捨てるよ」
彼女が眺めているカードを取ろうとすると、
「いや、持っとく」
彼女は即座にカードをポケットに入れた。ポッケに目線がいったついでに、俺は気になったことを聞いた。
「そういえば、服はそれだけ?」
いつも黒のコートを着ていた。確かに死神っぽいけど、人間に紛れて生きるなら、全身黒のコーデはいかがなものか、それも毎日同じ。
「別に変えられる。指を鳴らせばなんでも」
彼女は指をパチンとならすと、魔法のように服装が替わった。今度は茶色の今時流行のコート。
「うん、それのがいいよ」
「そう」
次に向かったのは、美術館。彼女
静かな館内には、大人たちが作品を一つ一つじっくりと見ていた。本当に意味が分かっているのかは知らないけれど。
ボナも一つずつ、作品を見ていた。
「これは世界大戦のときのね」
彼女は、第二次世界大戦時に描かれた、恐怖で怯える人々の絵を見て言った。
「君もこの戦争を見ていたんだろう」
「ええ、リアルは本当に悲惨だった。毎日、何万という人を死に導いたの」
「そう思うと、君はすごいね。歴史を間近で見ていたんだろ」
「そうね」
「偉人の死を導いたとか、そういう体験ないのか?」
「偉人と呼んで良いのか分からないけど…ヒトラーは私が地獄に送ったわ」
「ヒトラーって、あのナチスの?なぜ君が」
「その頃、たまたまドイツにいたの私。戦争が激化して、ドイツが敗戦するって時、彼は自殺したの。私は何十万という人の死を見てきたわ。だから、その人たちの苦痛や後悔の声を与えてやったの。彼は今も、あの世で安らぎが得られずに、もがき苦しんでいるわ」
「わぁ、君って本当にすごいんだな」
すると彼女はクスッと笑った。それが嬉しくなった。今まではあざ笑った笑いだったけど、今のはこれまでとは少し違う笑顔だった。
その後も、俺が作品の時代のことを聞くと、彼女は興味を引かれるような面白い当時の話しをたくさんしてくれた。
しばらく歩いていると、ある作品の前で彼女は足を止めた。それは、古い町並みを描いたような作品だった。
「これにはどんな物語があるんだ?」
顔を除くと、嬉しそうな悲しそうな、そんな表情だった。
「この作者を知ってる」
作品名を見ると『1700年代のウェストタウンの街並み』と書かれていた。作者は不明だ。
「これ、ソヌの作品」
彼女の儚い表情の訳がわかった。ソヌは確か、ジフの顔を持った、前世の親友か。
「本当に?」
「彼の絵はよく覚えてる。一つ一つがとても丁寧でしょ」
確かに、言われてみればこの作品は、小さな家や人まで丁寧に描かれている。
「よく覚えているね」
「私、彼が描く絵がとても好きだった。それに彼に影響されて、絵を習ったこともあったのよ」
「そうなんだ」
「彼は自分の住む街をモデルにしてた。風景や人をね」
彼女の言葉から、『ソヌ』と言う人が彼女にとってどれだけ大事な人だったのか理解できる。
「なぜ、作者が不明になってるんだ?」
「絵を出品する時、自分の名前を使わなかったの彼」
「有名になるチャンスなのに」
「そこが彼の良いところなの」
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