第10話 17歳の少女

「私が人間だったのは、もう何百年と前の話、


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 私は、このウェストタウンの街で生まれ育った。家柄は、街で知らない人がいないほどの名家。幼い頃から自由というものが与えられず、人生は親に決められているようなものだった。


 そんな私でも、日々の楽しみがあった。それは、唯一心を開くことが出来た友人よ。名前はテヒョンとソヌ。私よりも2つ歳が上だった。


 2人とは物心つく前から、面識があって、大きくなっても一緒に街へ出掛けたり、乗馬をして遊んでくれたわ。

 彼らと過ごす中で私は、テヒョンのことが男の人として気になるようになった。彼は本当に魅力的な人よ。頭も良く、写真や芸術がすごく好きなの。乗馬も上手くて、街の娘は、彼との結婚を夢見ていた。


 彼は特別だった。泣き虫だった私をいつも側で支えてくれた。悲しいことがあると、よく屋敷の中で誰にも見つからないようなところで隠れて泣いていたの、私。でも、テヒョンは絶対に最初に見つけてくれて、優しく抱きしめてくれる。


 私が16歳の誕生日の日、彼は気持ちを打ち明けてくれた。


 「愛してる」


気持ちが同じだと知って、すごく嬉しかった。その日のことは鮮明に覚えてる。テヒョンの家も貴族と呼ばれる部類だった。だか私と彼の両親は、私たちの結婚の話を前向きに進めた。私たちは一緒になれると、心から幸せを感じていた。


 しかし、テヒョンの家の会社が倒産することになった。そのニュースを聞いた途端、私の両親は目の色を変えて、結婚の話を白紙にしたの。


 でも私たちは何も変わらなかった。母親の目を盗んで、彼に何度も会いに行った。すぐにそのことがばれて、私は屋敷に幽閉ゆうへいされることも。それでも、私は家を捨てる覚悟で、テヒョンとの駆け落ちを何度もくわだてた。それもばれてしまったけど。


 私は何ヶ月も屋敷から出ることを禁止された。彼にも、ソヌでさえ会わせてくれなかった。


 そんなある日の朝、母は私の部屋に突然入って来て、こう言った。


 「テヒョンに会いに行きなさい」


不思議に思いながらも、恋に焦がれていた私は、何も考えず彼の元へ向かった。


 「テヒョン!!」

 

 そこにいたテヒョンは、よろいを着ていたわ。

 彼は、国の為に戦うと。当時は国の中でも頻繁に争いが起きていたの。彼は、しばらくこの街を去るつもりだった。


そして彼はこう言ったの、

 「無事に帰ってきたら、一緒になれると」

そう彼に両親が言ったの。

 

 「必ず帰る」


 私にそう約束したきり彼は、帰ってこなかった。戦争は終わったのに、戦士は続々と帰ってくるのに、彼だけは帰ってこなかった。


 彼が去ったちょうど1年後、悲しみにける私を、隣で支えてくれていたソヌも突然、姿を消したの。街の噂では、親友のテヒョンを探しに街を出たきっり行方不明になったって。

 

 私は2人の大事な人を失った。


 そして、ソヌが消えてすぐのこと。男が私の元にやって来た。


彼は、

 「ある人間の願いで、お前の願いを叶えることにした。代償は払われた、お前の望みを叶えよう。いつか望みは叶うだろう」


そう言って、私に不老不死の身体を与えた。そして、私は『死を導く者』となった。


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「じゃあ、君はそのテヒョンとまた再会すると、人生を終わるってこと?」


 彼女の話に、正直驚いた。それに、16歳という若さでそんな壮絶な過去を持っていることに、なんと言葉をかければいいのか。


 「私は彼を待っているの。いつかまた会えるって。でも何百年待っても彼は現れなかった。正直、諦めていたわ、あなたが現れるまでは」


 「同じ顔だし、名前も同じ…でも、記憶はないし」

 「その通り。前世の記憶を思い出すことなんてできない。それに、あなたが彼の生まれ変わりならば、私の不老不死の効果は消えると思ったけど、消えてない」


 「効果が消えたかどうかなんて、どうやってわかるの?」

 「ああ、」

 すると彼女は、医務室の机の上に無造作に転がるボールペンを握った。


ブスッ

 「な、何やってるんだよ!!!!!」


ボールペンを握ったまま振り上げて、左手のひらにめがけて刺した。


 「見て、血は出てるけど、」

今度はボールペンを軽々と抜いた。しかし、しばらく見ていると傷口はすぐに治った。

 「すぐに治る」

 「…だとしても、いきなりやめてくれよ。びっくりしたな」


 「終わりの見えないこの人生は苦痛よ。毎日、死んだ人を導いて、自分自身も生きてるのか死んでるのか分からないような生活。私は、早く死にたいの」

 

 俺には正直分からなかった。歳もとらず、不死身で何年も生き続けられるって男にとっては、叶いもしないロマンだと思う。

 

 「そうね、物語の不死身は良く見えるし、ロマンかも知れないけど」

 「はぁ、心読むのやめろよ」

 「聞きたくなくても、聞こえてくるの」

 

 「人間のあなたには分からないようだけど、愛する人を何百年も待ち続けることは、地獄のように辛いのよ、」


 そう言った彼女は、すごく哀れだった。どんな人間よりも、生き物よりも、彼女は哀れでしょうがない。


 「希望と言っても、俺が無理がその希望になれなかったら?また生まれ変わりを探すことになるのか?」

 「おそらく。ただ、そうなった場合、ほぼ不可能に近い」

 「どうして?」


 「同じ顔で転生することは珍しいことなの。それに、1度同じ顔で転生したら、もう同じ顔は誕生しないと言われてる。私は、あなたがテヒョンと同じ顔だったから気づいたけれど、違う顔ならば、彼の転生だと気がつくのは不可能ね」


 「なるほど、だから俺が希望ってわけね。でも、どうやったら前世の記憶なんて…」

 「それも不可能に近いわ。でも神は言った、望みは叶うと。それって、記憶を呼び覚ませるってことなのかも」

 「その神もどきの男に聞けば良いじゃない?」

 「神は全能だけど、それを私たちには教えない。それに、彼らは私たちのような存在を簡単には手放さない」

 「君以外にその、死神はいるの?」

 「ええ、世界中にいるわ。その国にはその国の、その地域の死神がね。ただ、死んでないのは私だけ」

 「なぜ君は、死んでないのに死神に?」


 今までのように、質問に答えてくれると思った。この質問をしたのは間違いだったかも知れない。


 「…この世で、一番の重罪を犯したから」


 そう言うと、彼女は場が悪いのか、何も言わなくなり。また突如として、目の前から消えてしまった。


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