第17話 つるぎ温泉2

 私はビンちゃんの手を取り、浴場の扉の方へ。

と、ガラッと扉が開き、中から小母おば様が出て来たところへ鉢合わせ。

慌ててビンちゃんの手を離します。


 小母様、私の容姿に驚いた様子でしたがニッコリ笑って、脱衣棚の方へと通り過ぎて行きました。

 そのすれ違い様に小母さまの手がビンちゃんに当たる。

でも、すっと、そのままビンちゃんの体を通り抜ける……。


 私にはシッカリ見えて触れるのに、やっぱり他の人には見えていないし、触れない。

 なんて、不可思議なこと……。


 浴場へ入り、取り敢えず掛け湯をします。

当然、私の方は、問題ない。

 でも、ビンちゃんは…。

私が掛けた湯は、ビンちゃんの体を通過してしまう。


 ありゃりゃ、なんでよ……。


 ビンちゃんは仕方がないなと言う表情。

これはいつも通りのことなのでしょう。

 じゃあ、私がビンちゃんに触れていれば…。

ビンちゃんの肩に左手を添えて、その上で御湯をかけて見ると……。


「おう! 温かい!」


 ビンちゃん、体をビクッとさせてビックリ!

お湯がビンちゃんの肌の上を流れました。


 つまりです。私が触っていれば、ビンちゃんは液体も触れるということです。

じゃあ、手を繋いで一緒にお湯に入れば良いわけです。

 そうと分かれば!


 まずは掛け湯をしながら自分の体を洗い流します。

 そして、今度はビンちゃんの番。

ビンちゃんの体を左手でこすりながらお湯をかけて洗ってあげます。

 ビンちゃん、お湯を掛けるたびにビクッと体を強張らせ、目を剥いています。

可愛い……。

 そして、ビンちゃんの肌、ハリが有って柔らかで、とっても感触良い……。


 あ、待てよ。

私、今、ビンちゃん洗っているけど、実体がないから必要ないのか…。

 まあ、いいや。気分の問題です。


 では、では、お手々繋いで湯船へゴー。

黒っぽい色の御湯にザブッと肩までつかります。


 あ~、温かい~。温まる~。


 ビンちゃんはと言うと、湯船の中で立ったまま硬直している…。

背が低いから坐れませんよね。

ずっと手を繋いでいないといけないというのも、不便…。


 ならば!


 ひょいッとビンちゃんを抱き上げ、膝の上へ坐らせます。

体を密着させていれば、手も離せる。

 ビンちゃんは相変わらず、硬直したまま……。


「どうですか?温泉に入った、ご感想は?」


「は、ハルカ…。す、凄い。凄いぞ。

これは気持ち良い! 凄く、気持ち良いぞ!」


 ビンちゃん、かなり興奮してる?

 お気に召したようで良かったです。


 しばらく、二人で、ゆったりまったりコーラの様な褐色湯を堪能……。


 そうこうしていると脱衣所の扉が開き、若い女子二人組が。

あら羨ましい。二人とも、バストおっきいし、ウエストもキュッと引き締まって…。

 私、表面は外人のような見てくれですけど、胸は少し控え目。

背も高くなく、脚も長くはない…。

もっと、外人さんのようなボンキュッボンってグラマラスな体型になりたかったな。

形状だけは典型的な日本人なんですもん。

アンバランス極まりない……。


 二人は楽しそうに話しながら、こっちの方に歩いてきます。

そして、湯船につかっている私の方を見て、ピタッと脚を止めました。

 驚愕の表情でこっちを見てる……。


 なんですか。

そこまで驚かなくても良いじゃないですか。

 金髪女が湯に浸かっていてはダメですか?


「ねえ。私の見間違いかな…。あそこだけ、お湯が凹んでない?」


 右側の女子が視線を私に向けたまま、呟きます。


「い、いや…。目の悪い私にも、そう見えるんですけど……」


 そうです。私と一緒なら、ビンちゃんはお湯にも入れる。

だけれども、他の人にはビンちゃんは見えない。

 つまり、今、ビンちゃんが居るところは、お湯がボコンと凹んだ形になっているわけです。

 これでは、完全心霊現象です……。


 私は大慌てでビンちゃんを抱っこしたままお湯から出ました。

 二人組は、立ち尽くしたまま私の方をガン見……。

 目を合わせないようにして、そのまま二人の横を通過。

扉を開けて外の露天風呂の方へ移動。

 露天風呂には幸い誰も居ません。

 しかし、中では二人が騒いでいる…。

あちゃ~マズったな。

 私の体で隠すようにしてビンちゃんと露天風呂に入りますが、あの女子二人が窓から覗き込もうとしているのが分かる。

 こりゃ、ダメだ。夜中の誰もいない時間にゆっくり入ろう。

と、まあ、私たちはお湯から上がったのでした。


 もうちょっと、ゆっくり温泉に入っていたかったところですが、それなりに温まりました。

 ビンちゃんも上機嫌。ニコニコニコニコしています。

 うん、この笑顔、イイ! とっても、カワユイ!


 ……貧乏神様なんですけどね。


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