第18話 食事1

 さあ、お湯の後はお楽しみの夕食です!


 この宿は、食事は一階の会場でするのがスタンダード。

でも、今回私は、追加料金を払って個室で用意してもらっていました。

 元々、そういう予約を入れていて、ビンちゃんがいるからということでは無かったのですが、これは非常に都合よい。

料理を運んできてくれる人にだけ注意すればよいのです。


 座布団とお皿と箸を追加で頼み、今回は向かい側ではなく、私の隣へ。


「ビンちゃん。今日も有難うございました。

でね。ビンちゃんもお料理、ちょっと食べてみない?」


 勧めた席にチョコンと座ったビンちゃん。怪訝な表情をします。


「食べる? そんなこと出来ないと言うとろうが。……あ!」


 そうです。私が触れたものは、ビンちゃんは三十秒の間は持つことできるのです。


「た、食べられるかのな…。そうであれば、嬉しいがな……」


「試してみましょうよ!」


 ビンちゃん、目をキラキラさせて、うんうん頷きます。

 やっぱり、可愛い!


 食べ物に私が直接触れれば、確実に大丈夫。

しかし、それは衛生的にどうかというよりも、神様に対して無作法過ぎる気がします。

だから、私の触った箸をビンちゃんに渡します。


 箸はビンちゃんも受け取れます。

で、ビンちゃん、器用に箸でお刺身をつまんで醤油をつけ、口に…。

 でも、刺身はそのままボタッと下へ墜落。

ついでに、三十秒時間切れで、箸までコロンコロンと下へ……。


 あちゃ~。これは、やっぱ、ダメよね。

 ビンちゃんも悲しい顔。


 じゃあ、私が食べさせてあげましょう。

 ビンちゃんの箸を私が持ち、新しい刺身をア~ンしたビンちゃんの口へ。

でも、またボタッと下へ墜落。

ビンちゃん、再度の悲しいお顔……。

 箸には直接触れていますが、お料理には間接になります。

やはり、無作法でも手づかみしかないかな……。


「ハルカよ。この箸ではなく、ハルカの箸で食べさせてみてくれんか?

それも、ハルカが使ってからだ。

箸には使用者の霊力が宿るという。もしかすると……」


 箸に使用者の霊力が宿る…。

そういえば、なんか聞いたことあります。

使用後の割り箸を折るっていうのも、そういう理由だとか。

箸作法に色々タブーがあるのも、そういうことだとか…。


 よし、じゃあ、まずは先に失敬してお刺身頂いて…。

これはブリかな? 寒ブリの時期は過ぎてしまったけれども…。

でも新鮮で、油が甘い!

キトキトの、富山湾の味!


 で、この箸でもって、ア~ンしてもらって…。

ビンちゃんの可愛らしいお口に、お刺身を入れると…。


 入った! 落ちない!

 ビンちゃん、もぐもぐと咀嚼して、ゴクッと飲み込んだ……。

 みるみる、ビンちゃんの両の目から涙が溢れてきます。


「ハルカ!ハルカ! 私、食べることが出来た!食べられたぞ!

う、美味い~!! 凄く、美味い~!!

う、う、ウエエエエ~ン!!」


 え、ええ~と…。

 何も、そんな大泣きしなくても……。


 今までずっと見ているだけで、本当は食べたかったのでしょう。

なんだか、こっちまで涙ぐんできてしまいます。


 でも……。

問題は三十秒後にどうなるかです。

 ビンちゃんも、私の懸念に気付いた模様。

ぼちぼち三十秒。

ビンちゃん、恐る恐る座布団から立ち上がりました。


 刺身は……。

 無い!


 あれ? じゃあ、どこへ消えた?


「ハルカ。凄いぞ。腹の底から力がみなぎってくるようだ」


 おお~!! どうやら、ビンちゃんの力へ変換されてしまったようです。

 神様は、多分、ウンチなんかしないよね。

肉体は持っていないんだから…。

 つまり、一切の廃棄物無しで完全変換!

 なんと効率のオヨロシイことか……。


「ハルカ! もっと! もっと食べたいぞ。食べさせてくれ!」


「は、はい。お待ちを…」


 ビンちゃん、大喜びで次を要求。

 次は、富山名物ホタルイカ。

これもビンちゃん、美味い美味いと大絶賛。

 ではでは、次は富山湾の宝石、白エビ。

ビンちゃん、エビの甘さに悶絶。

 ハルカも食べよとの仰せですので、私もビンちゃんと交互に頂きます。


 そう。神様と共に食事を楽しむ。戸隠の神主さんのお言葉です。

 これが、どこかで聞いた「神人和合」ということでしょうか…。

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