第11話 ビンちゃん2
だ、ダメだ!!
と思ったその時、私の目の前を、赤いモノが突然遮った…。
こ、これはビンちゃんの着物!
黒い影はビンちゃんによって、いとも容易くねじ伏せられてしまいました。
「ひい~ん。怖かったよ~!!」
「どうじゃ。狙われるということがどういうことか、分かったか?」
「わ、分かりました~!というか、ビンちゃん!
さっき、こうなるのが分かってて、出て行ったでしょう!酷い!イケズ!」
「何を言うか! お前が私を邪魔者扱いするからだ!
しかし、こやつ、お前の名を知っているようだが…。どうも、お前の能力に気付いて襲ってきたわけでは無いようだな…。知り合いか?死んで間もない霊体だな」
「へ? 死んで間もない……」
私は、旅先では常用しているサングラスを外して、黒い影を覗き込みます。
よく見ると、薄っすら透けていますが、人…。顔がある。
「うん? あ、あれ、見たことある……って、社長?!」
「社長だと?」
私が入るはずだった会社を、私の初出社日に倒産させた「二代目バカ社長」!
「あ、そういえば、私にも見覚えがあるぞ。たしか、門前の蕎麦屋前で妾を何人か連れてバカ騒ぎしておった阿呆……。
人前にもかかわらず妾の乳を揉み、股間に手を突っ込んでアッハンウッフンさせておったので頭に来てな。財運を吹き飛ばしてやった。
その直後にジジイたちに捕まってしまって、結果どうなったか分からなかったが…。ふん、倒産して自殺でもしたか」
・・・・・。
え~と……。
ど、どういうことでしょうか……。
・・・。
な、なになに、なになに、なんですか!?
つまるところ、私が入るはずだった会社を倒産させたのは、ビンちゃんってことですか?!
私をこんな状況に追い込んだ元凶は、目の前に居る貧乏神のエース様、ビンちゃん!!
「ひ、酷いよ~!! 私、その会社で働くはずだったのに!
希望に満ちた初出社日に倒産で、そこからここへ来て、で、頭に枝当たってって!
全部、ビンちゃんの
しかし、ビンちゃんは、微塵も悪びれる様子は有りません。
「何を言うか。だったら尚更、私を崇めよ。お前に執着して居るこいつの淫気に満ちた目。これは、お前の
もし、そのまま入社して居ったら、どうなっていたやら…。お前も、あの時の妾どもの様になっていたに違いないぞ」
「へ?」
め、妾? 社長の?
わ、私が?!
そ、そう言えば…。
面接に来ていた子、みんな女の子だったな。
それも、結構美人さん多かった……。
なに? あれ、社員と言うより、社長の愛人候補の面接?
で、その中で、私が選ばれた……。
あ、そうだ。会社は主にヨーロッパからの輸入食品を扱ってた。
もしかして、社長は金髪が好みだった?
で、私が選ばれた……。
入っていたら、セクハラ三昧。
社長室にでも閉じ込められて、無理矢理アッハンウッフン。
んで、そのまま社長の愛人……。
「ひいいい~ん! ビンちゃん有難うございます。
ビンちゃんは、私の大恩人です!神様です!」
「何を今更。私は最初から神だと言うとろうに」
で、社長の霊は、というと、ビンちゃんにお尻をボコンと蹴られて、壁を突き抜けてビューンと飛んで行ってしまいました。
死後間もないから形を保ってるけど、もう少し立てば消えてしまうだろうとのこと。
特に何の力も無く、最後にモノに出来なかった私に未練があっただけの様です。
いや~でも、考えると、ホント怖い。
あの社長の毒牙に掛かろうとしていたなんて。
それを、ビンちゃんのお陰で助かっていただなんて。
まさに危機一髪。ビンちゃん様々!
その上、更に今も……。
分かりました!
これは、間違いなく運命です。
貧乏神様であろうと、私はビンちゃんのお世話、させて頂きます!
でも、ホントにお世話って、どうすれば良いのでしょう…。
そうだ、後で神主さんに訊いてみよう。
あ、その前に取り敢えずは、中断している食事ですよ。
私は女将さんに、茶碗と箸と皿と座布団をそれぞれ一つずつ、追加依頼しました。
女将さんは
茶碗に御飯をよそいます。
おかずの手を付けていないモノを半分にし、お皿に盛り付けます。
そして私の向かい側に座布団を敷き、おかずの乗ったお皿と御飯と箸を置き……。
「ビンちゃん、どうぞ、こちらへ。
さっきは、あ、いえ、私の入るはずだった会社の件も、ホントに有難うございました」
ビンちゃんに向かいの席を勧め、坐って丁寧に頭を下げます。
今度はビンちゃん、それを断らずニッコリ嬉しそうに笑って、席に着きました。
さあ、改めまして、朝食再開。やっぱり美味しい!
ビンちゃんはというと、食事には手を付けません。
いや、まあ、当り前。触れられませんからね。
でも、ニコニコと私の食べるのを見ていました。
ずっと無表情だったのに、こんな笑顔を見せてくれて、ちょっと、びっくり。
それに…。か、可愛い!
私が自分の分を食べ終えますと
「おい、こっちも食べよ。
ビンちゃんは自分の分を勧めます。
いや、それは、ビンちゃんの分ですよ。ん?でも食べられないのか……。
そうですよね、このまま残すのは勿体無い。
元々一人分を分けたモノだから、入らなくは有りませんが、御礼の気持ちとしてビンちゃんに上げたモノ…。
私が食べちゃったら、意味なくないかな?
う~ん。まあ、ビンちゃんが勧めてくれるのです。
有難く頂戴することにしましょう。
神様に逆らっちゃダメ。
朝食後は、女将さんにお世話になったお礼を言い、旅館を出ます。
御主人=神主さんからの、神社に寄って欲しいとの伝言。
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