第12話 再度の戸隠神社

 戸隠神社中社。

石段を上って、まずは神様に…。


 お賽銭どうしよう。昨日は千円。

これから貧乏神様と暮らさなければならないから、お金は貴重……。

でも、まあ、いいや!

 ビンちゃんは私を守ってくれる神様。

その出会いをくれた思兼様なんだ。今日も千円!


「思兼の神様、有難うございました! 頂いたお仕事、頑張ります」


 すると、いきなり目の前の空中に、思兼様がポンと現れました。

浮いてる…。

 あ、いや、今更驚くことないですよね……。


「うむうむ。千円返せと言いに来たかと思ったが、これは、これは。またまた千円とは豪気じゃな。

其方そなたの気持ち、確かに受け取ったぞ。エースよ。其方も嬉しそうじゃの」


 ありゃまあ、ビンちゃん。ホントに「エース」って呼ばれていたのね……。


「うむ。小娘だが、こいつはナカナカ見どころがある。自分を放っておいて他人を助けようとする。気に入った。しっかり取り憑いてやる」


 え? ……あ、今朝の女将おかみさんのことか。

神様に褒められるのは嬉しい。


 しか~し!


 あ~ら、まあ、どうしたモノでござりましょう。

貧乏神様に、大層気に入られてしまったようでござりますよ!

これは、なんだか複雑であります。

 あ、いや、私にとっては一応、守り神様。

これはこれで良いんだね……。



 そうそう、出て来てくれたのなら、もう一度、思兼様に訊いておきたい。

ビンちゃんの世話の具体的なことを聞いていないのです。


「あ、あの、精一杯するつもりではありますが、お世話するってどうすれば良いのか、イマイチ分からなくて……」


「何を言うとる。其方はもう、しっかりやっとる。大丈夫じゃ。その調子でな」


 それだけ言うと、思兼様はポンと消えてしまいました。


 え~! 私、まだナンにもしてないよ。意味分かんない……。




 拝殿の隣にあるのが、お守りとかが並べてある授与所。

浅葱あさぎ色のはかまの神主さんと巫女さんが坐っています。

 二人とも、私を見て変な顔してる……。


 なに? 金髪白肌美女に見とれてました~? って、んなわけあるか…。

もっと、不審気というか……。


 あ、そうかあ。私、今、思兼様と話してた!

でも、普通のヒトには神様は見えないし、声も聞こえない。

 つまり、私は一人でブツブツ言って頭下げたり頷いたりしていた怪しい人……。


 きっと、昨日の頭の打ちどころが悪かったんだろうって思ってますよね。

あ~、いや~、その通りです。

打ちどころが悪くて、結果、貧乏神様憑きとなりました。

毎度の「かわいそうに」とでも言ってやってください。

 しか~し、私はラッキーガール!



 その浅葱袴の若い神主さんから、社務所の方へ行くように言われます。

 巫女さんに案内されて中の部屋へ。

泊めてくれたあの神主さん。結構、上の方の人みたいって、当然ですよね。

紫色の袴でしたから…。


 あ、神主さんの位は、袴の色で分かります。

よく見る水色っぽい「浅葱色」は、下の位。その上が紫色。

更に上になると、紫地に文様が入ってきます。

 トップは白地に白の文様入り。……これは滅多にお目にかかれません。


 なお、浅葱色の下に、「出仕しゅっし」という見習いさんで無地の白袴の人が居たりします。

 この白袴は、どの身分の人も使う共通の袴の色。

ですので、浅葱袴もまだ穿くことが出来ない人は白です。

 ただ、そういう理由ですので、白を穿いているからと言って身分が下の人とは限りません。要注意です。


 まあ、こんな話は、どうでも良い……。



 巫女さんにお茶を出され、恐縮しながら待っていますと、紫袴神主さん登場。

即座に、お世話になったお礼を述べます。

 神主さんからは、白い封筒を渡されました。

宿泊予定をしていた旅館のキャンセル料の足しにと…。

 あんな良い待遇してもらって、その上に、これは……。

やっぱ、遠慮すべきでしょう。

 ですが、少しの押し問答の末、結局、頂戴しました。

だって……。私、これから貧乏神様と暮らさなければならないのです。

どうなってしまうか、分からない。

頂ける物は貰っておいた方が良い。

そうしよう。…ということです。


 その貧乏神様のビンちゃんは、しっかり私の隣に坐っています。

当然、神主さんには見えていませんが……。


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