第2話 就職…

 さてと、私には、あまり友達がいません。

なにしろ、金髪白肌の上に赤い目という、この異様な容姿ですから…。

 いつも、仲間外れでポツンとしてる。

これも「かわいそう」と言われる。


 でもですね、別に集団でたむろしなくたって、私、平気なんですけど…。

それに、全く友達がない訳じゃないですからね!

 普通に人に話しかけることも出来ますし!


 いや、強がりじゃないってば!

一人でいる方が、気を使わなくて良くて、楽なだけです。

 いろいろ、面倒くさいじゃないですか。


 それに……。


 私が入れば、その集団ごと変な目で見られかねない…。

嫌な思いをするのは、私だけで良いんです。

 ですから、放っておいてください。

 無理して私に絡もうとしないでください……。


 ま、まあ、こんな話は、どうでもいいんですがね。




 私の趣味は旅行です。


 お城や史跡や博物館に行くのが好き。

歴女ってほどでもないけど、そういう系が好きなんですね…。


 神社参拝も、大、大、大、大、大好き。

癒されるんですもん!

……この容姿に全然合わないっていわれますけど。


 温泉も好き。

美味しいモノも、もちろん!


 ということで、「趣味の合う友達」は居ないから、いつも一人旅。

一人だと、どこへ行くのも自由。気楽で良いですよ!


 あ。よくそんな資金があるなって思うでしょ?

 その辺りは、亡くなった父と祖母が残してくれた財産があるんですね。

貯金も、土地も、家も!


 これも、ラッキー!


 ただ、それを食いつぶしてしまう訳にはゆきません。

一生遊び暮らすには、きっと足りないし…。

 まあ、働かざる者、食うべからず!

働きましょうよ。


 で、先日大学を卒業した私は、今日からピッカピカの新入社員として働くことになっていました。


 就職先は、愛知県名古屋市の輸入食品を扱う会社。

大企業ではありません。中規模かっていうと、…どうなのかな?

でもまあ…、それなりだと思います。


 今年の入社希望者で、採用されたのは私だけだったと聞いています。

最終選考候補十一人の内で、私一人だけが採用になったと…。

 やっぱり、私、ラッキーガール!


 そして、今日は希望に満ちた、社員としての初出社日!!


 ……が。

 只今、私は呆然としております。


 会社に来ると、その入り口前に張り紙で、人だかり。

 え? 業務終了?

 従業員は全員解雇って、どういうこと??


 入ろうとしても鍵がかかっていて入れない…。


 直ぐに見覚えがある女性が走ってきました。

事前研修でお世話になり、私の直接の上司になるはずだった林さんです。

 私に駆け寄るなり、「ごめんなさい」と謝られる…。

 そして、例の「かわいそうに」が襲ってきてしまったのです。

「初日から、こんなことになって」だって……。


 会社は倒産したんだそうです。

三年前に代替わりした「二代目バカ社長」の放漫経営によって…。


 経理関係は社長の愛人が全て取り仕切り、ここまでの状態とはみんな知らなかったとのこと。

で、いきなり、こんなことに…。

 ヤバそうとは感じていても、新入社員が入ってくるという日に倒産だなんて、普通、思ってもみませんよね!

林さんなんか、二ヶ月分の給料が未払いだとかって…。今日、まとめて払ってもらえるはずだったのにって……。


 ええ~! 確か林さん、旦那さんも、この会社で働いていたはず。

二人合わせて四ヶ月分ただ働き? 

 それって、可哀そうなのは林さんの方だよ!

私は、まだ働いていないのだから、そんな被害は一切無い。ラッキーだった方だ。


 やっぱり…、私は…、ラッキーガール……?




 ということで、私は新しく借りて引っ越してきたばかりのアパートの部屋にトボトボ帰ってきました。

 部屋の中央にチョコンと正座し、暫し、呆然……。


 林さんの不幸は、私の所為せいではない。

だって、先月のお給料も出てなかったって言うんだから……。

 どんなふうに説明されていたのか知りませんが、お給料が遅れるってそれ、大問題でしょうに。その時点でダメだと気付けよなって話です。

 そう、たまたま、私の初出社日と倒産が重なっただけだ!


 ……もしかして、私、潰れ掛けているのを隠す役割を演じさせられたの?

否、そんなはずない…。

 そんなことの為に社員募集して、面接して、研修してなんて、余計な費用と手間を掛けたりしない。

そんな金と暇が有ったら、別の方に使うよね!


 じゃあ、私が入社することになったから、急速に業績悪化してしまってなんて…。

いや、いくらなんでも、そんなこと、あるはず無い。

 偶然!

断じて、私の所為じゃない!


 それよりも、自分の心配をしなくちゃ……。

 勤めるはずだった会社が名古屋だったので、便利な市内のこの部屋を借りたんだけど、どうしよう…。

 こんな時期に、新たな就職先を探さなければならなくなってしまった…。

みつかるかな…。

 正社員は、難しいだろう…。

当分、アルバイト生活かな…。

 だとすると、ここの家賃、勿体無い。

自家用車があるから、駐車場付きで結構お高いところを選んじゃった…。


 実は、私には持ち家が二つあります。

父が残してくれた家と、母方祖母の家です。

 どちらも、場所は隣の岐阜県。

そしてどっちも、超豪邸な~のです!


 凄いぞ、驚くな!

 祖母の家なんか、築250年の文化財モノ。

茅葺のでっかい母屋には囲炉裏も有り、離れも二つ付属。蔵まである。

馬いないけど馬小屋も有って、更にオマケに、裏と左右の三つの山まるごと付き!

 どうだ、ビックリしたか!


 ・・・但し、超々山奥で、超々不便で、住む気サラサラないですがね。



 住むのなら、やっぱり父の家の方かなあ。


 こちらも郡部の田舎ではありますが、羽島市と大垣市の中間という、平地で便利な場所。

 でも、八年近くホッタラカシで、多分、かなり手入れしないといけない…。

それに、この家も純日本建築で、古い…。築100年は経っていないそうですが、それ近いとのこと。

 更に多喜家は庄屋の家柄で、敷地もだだっ広い…。


 この地は周りを川で囲まれた輪中の町。

昔の地主の家は、高屋敷たかやしきといって敷地全体を土盛りして高くしてあります。

これは、洪水対策の為です。


 元庄屋の家ということは当然高屋敷で、その規模は最大級。

石垣があり、立派な門があり、デカイ母屋の他にも三棟の建物。

その内の一つは水屋みずやという緊急避難施設であって、石垣を更に積んだ場所にそびえて天守閣のよう。

 もう、小さな城みたいな感じなのです。


 私は、どちらかというと、こういった建物、嫌いではありません。

いや、逆に好きな方。

 でも実際に住むとなると…。一人にはバカデカ過ぎる!

掃除が大変。手入れも大変。

 アパートなら気にしなくて良い厄介な近所付き合いも出てくる…。


 あと……。

ここに住むと、亡くなった父のことを思い出してしまうから…、ちょっと敬遠。


 中学生まで、男手一つで私を育ててくれた父。

大好きだった、優しく頼もしい父。

 その笑顔が浮かんできてしまいます……。


 いや、やっぱり、ダメですよね。ホッタラカシなんてのは!


 父の、いや、先祖の残してくれたもの!

私しかいないんだから、私が守らなくちゃ!

 これはきっと、戻ってこいという御先祖様のお呼びなんだ!


 私は、父との思い出の家に帰る決心をしました。


 幸い、まだ引っ越し荷物のほとんどが梱包状態のまま。

だから、このまま引っ越しできる。

 これもラッキー!

 やっぱり、私はラッキーガール……。


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