セーブタイム

シヨゥ

第1話

 たまたま時間が出来たので久しぶりに友達と待ち合わせて喫茶店へ。

「なにもしないをしたい」

 注文したコーヒーとケーキがテーブルに並ぶなり友達はそう呟く。

「そんなに仕事が忙しいの?」

「毎日が納期。毎日別の担当から電話かSNSで最速の嵐だよ」

「出歩いていいの?」

「休憩をさせてほしいの」

 そう言って取り出したスマホは電源を切られていた。

「君の連絡でスマホが鳴って、『またか』と思ってしまうほどにはやられているよ」

「それは、ごめん」

「いいよ。こうやって口実がないと今も画面とにらめっこだ」

「担当さんがかわいそうだね」

「私の方がかわいそうだよ。嘘でもそう思ってくれよ」

「うん、そうだね。きみはよく頑張っているし、頑張りすぎてかわいそうだ。こっちのケーキも食べると良い」

「ありがとう」

 ケーキの食べ方もなんだかやさぐれているように見えた。

「じゃあ次からは仕事をセーブするの?」

「そうしたい気持ちはあるんだけど、フリーランスは仕事があるうちが華だからね。難しい」

「それでも今の状態は限界を超えているってことでしょう?」

「超えるか超えないかのギリギリかな」

「余裕を持たないと」

「耳が痛いお言葉で」

「次につながりそうな大きな仕事が来たときに請けられません、じゃ困るでしょ?」

「はひかに」

 ケーキで膨らんだ頬がリスのようだ。

「それに限界ギリギリの仕事量をこなしていたら体壊しちゃうよ。そっちの方が心配」

「年々衰えていくからね」

「分かっているなら少しだけでも仕事を抑えようよ」

「ちょっと考えてみようかな」

「その考える時間は?」

「……ない」

「今考えよう」

「もっと楽しい話がしたいよ」

「それはもっと余裕が出来たときに。今はなにもしないをするための時間づくりを考えないと」

「なにもしないをする時間か。それは魅力的だな」

 友達が前のめりになる。

「じゃあ頑張って考えようか」

「その前にケーキ追加してもいい?」

「ご自由に」

 頭を使うのだから糖分も必要だろう。だから私も便乗して追加を頼むことにした。

 この糖分で未来が変わると思う。友達はお仕事的に。私は質量的に。帰りは一駅分歩こうかな。そんなことも考えつつ、友達との楽しい時間は過ぎていくのだった、

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セーブタイム シヨゥ @Shiyoxu

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