➆目の前の空席

 ところが、問題は週明けに起こった。

 月曜日、斉藤が休んだのだ。

 小田やんが言うには、欠席理由は「風邪」だった。

 が、火曜も水曜も・・・「風邪」という理由で斉藤は欠席した。

 

 水曜日の五時間目が終わった時、例の金魚がまたしてもふんを二つ連れておれの席にやってきた。

「池本、やっぱ楜ちゃんの事、好きなんでしょ!」

「勝手に決め付けんなっ!」

 おれは金魚を睨みながら吐き捨てた。

「だってぇ~楜ちゃんが休んでる間の池本、全然元気ないじゃ~ん」

 金魚はしつこく食い下がる。

「前の席のヤツがいないと、小田やんに見え易いからだよ」

「はぁ?」「はー?」「は?」

 三つの声が重なる。

「斉藤が休んでるせいで小田やんから見え易くなったから、おとなしくしてんの!」

「ふぅ~ん」

 不敵な笑みを浮かべると、金魚はふんを連れて自分の席に戻って行った。

(てか、斉藤が誘拐されてるってのに、みんな心配じゃないのかよ!)

 そこまで思って、初めて気が付いた。

(そうだった・・・お姉さんが誘拐した事、おれしか知らないんだった!)

(てか、「風邪」とか言ってるけど、先生はどこまで知ってるんだろう・・・?)

(斉藤の父さんや母さんはどういう気持ちでいるんだろう・・・?)

(つーか、そもそも『誘拐事件』ってもっとこう・・・警察とかも巻き込んで大騒ぎになるもんなんじゃないの?!)

(いや、待てよ。そもそも、斉藤は本当に優しいお姉さんに誘拐されてるのか?!)

(ってゆーか・・・『みどりのおっさん』なんて、本当にいるの?!)

 おれは眩暈がしてきた。

 月曜から連続で休んでいるから勝手に「誘拐」って思ってるけど・・・斉藤は本当に「風邪」で休んでるだけかも知れない。だが、それを確かめる方法がおれにはない。

「あ゛~~~っ!!」

 今のおれは、自分の髪の毛を掻きむしるのが精一杯だった。


 だけど、木曜日になっても斉藤は登校して来なかった。

 もし斉藤が優しいお姉さんに誘拐されてるのならば、明日は登校して来る筈だった。みどりのおっさんははっきりと「金曜日には解決する」と言った。とりあえず、明日迄待つしか、今のおれには方法がなかった。


 木曜日は四時間で帰れるというのに、先週に引き続きおれは憂鬱だった。

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