⑥バカヤロウ!

 コーケコッコーー!

 気が付いたら、朝だった。


「いってきまぁ~す・・・ふぁぁ」

 おれは寝ぼけ眼で家を出た。フラフラする。結局おれは二時くらい迄起きていた。こんな事は初めてだった。

 学校に着いても、まだ眠かった。おれは席から動けないでいた。

「イケ、おはよっ!」

「おはよ~ふぁぁ~」

「どうしたんだよ~目、開いてないじゃん」

 ノセはおれの顔を見て笑った。

(ノセは暢気だなぁ~)

「色々考えてて、眠れなかったんだよ!」

 細かいところは『色々』で誤魔化して、おれは目が開かない理由を説明した。

「色々って?・・・何か悩み事でもあるの?」

「え?」

「え?」

「いや・・・何でもない」

 おれはびっくりした。ノセもてっきり『虐待』されてる斉藤の事を悩んでるとばかり思っていたから、そう訊き返されて驚いた。

(ノセは、斉藤の事、心配じゃないのか?!)

「それよかさぁ~、昨日ゲームしてたらさぁ~・・・」

 その時、ギー、と前の席の椅子が引かれる音がして、斉藤の姿が視界に入った。

「え?」

 おれは思わず声を漏らしてしまった・・・(斉藤、学校に来てるじゃん!)

「え?」

 おれの「え?」に反応したノセが、またオウム返しをしてきた。

「何でもない・・・で?昨日のゲームが、何?」

 おれは目の前の斉藤が気になりながら、ノセとの会話を続けた。


(なんだよ!斉藤、普通に学校来てるじゃん!みどりのおっさん、嘘つきかよっ!)

 朝の会の時のおれはおこっていた。かなり、いかっていた。

 おれの目の前には、何事もなかったかのように斉藤が座っている。

 おれは眠れなくなるくらい心配してやったのに!

 なんなんだよっ!

 ノセも、斉藤も、みどりのおっさんも!

「バカヤロウ!」

悠吾ゆうご、どうした?・・・大丈夫かぁー?」

 小田やんの声が飛んできて、我に返る。

「あはははははははははは!!」

 おれの「バカヤロウ!」と小田やんの台詞に反応して、教室中がドッと爆笑で渦巻いた。おれは恥ずかしさで頭をポリポリと掻いた。瞬間、振り返っておれを見る斉藤と目が合ってしまった。普段は無表情の斉藤が、微かに笑っているように見えた。

(斉藤が笑ってくれたなら・・・ま、いっか)

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