②兄ちゃんがいない夜
おれには、中学1年の兄ちゃんがいる。
兄ちゃんはいつもおれをこき使うし暴言を吐くしでかなりウザいんだけど、だけど、兄ちゃんがいてくれて本当によかった、と夜になる度にそう思う。
実は、おれは極度の怖がりで、夜中に目が覚めるのがめちゃくちゃ怖い。薄暗い部屋で目を開けていると、幽霊的なのが部屋の隅に立っていそうでめっちゃ怖い。かと言って、目をつむったとしても幽霊的なのがおれの顔を覗き込んでいるような気がしてむっちゃ怖い。
だけど、ベッドの下に兄ちゃんが寝てると思うと、それだけで安心できた。
だから、どんなにウザくても兄ちゃんがいてくれてる事に感謝していた。
その兄ちゃんが、今日はいない。
サッカーの試合の遠征とかで、おれは今日ヒトリで寝ないといけなくなった。
「一緒に寝て欲しい」、と母さんに頼もうと思ったが止めておいた。おれの母さんはノセの母さんと仲良しだから、それが巡り巡ってノセに伝わるんじゃないかと思ったから、止めておく事にした。
(どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・)
そんな事ばかり考えていたら、とうとう眠くなる時間がきてしまった。
リビングから子ども部屋に移動したおれは、カーペットの上に座って考えた。考えて考えて考えて・・・無い知恵を絞って考えていたら、不意に名案が浮かんだ。
(あっ、そうだ!電気を点けっぱにして寝りゃいいんだ!)
何でこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう・・・と思ったら、なんだか笑えてきた。
電気を点けたままだと、漫画も読める。本当にナイスアイデアだと思った。おれは、本棚からテキトーな漫画を一冊選ぶと、二段ベッドの上に放り投げた。その後自分も備え付けのはしごを使って上に上がった。
(めっちゃ最高じゃん!)
今夜はめんどくせぇ兄ちゃんもいない。おれはめちゃくちゃワクワクした。遠足の前日の夜のようなウキウキした気持ちで、布団に潜り込んだ。
それなのに。
漫画を数ページ
(あれ?・・・兄ちゃん?・・・今日、試合でいないんじゃなかったっけ?・・・って・・・えっ?・・・兄ちゃんのジャージ、緑だったっけか?・・・んー・・・ん?!にっ、にっ、兄ちゃんがちっちゃくなってるっ!?)
瞬間、おれの目と身体は覚醒し、反射的に上半身を起こしてしまった。
おれは両目を擦った。
両目を擦って、もう一度、机の上のランドセルを凝視した。
するとそこには・・・兄ちゃんではなく、上下緑色のジャージを着たちっちゃなおっさんが座っていた。
「ひぃぃぃぃぃいいいいっ」
おれは思わず変な声を上げてしまった。
するとそのちっちゃなおっさんは、「こんばんは」と言ってニヤリと笑った。背の高さが30㎝のものさしくらいなのと耳の先が
「たったっ・・・助けてぇぇぇええええ」
と言いたいのに、声が出ない。おれは酸欠の魚のように口をパクパクさせた。
「わしの事は『みどりのおっさん』と呼んでくれ。世間のみんなからそう呼ばれてるから、一応名前もあるにはあるが・・・そう呼んでくれ」
自分の事を『みどりのおっさん』と名乗ったみどりのおっさんはそう言うと、おれに向かって親指を立ててもう一度ニヤリとした。
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