第4話 子供の影響からブラスバンドが好きになりました。

「ブラバン」    津原泰水(つはら やすみ)著

家に帰るとこの本が置いてあった。

その頃、娘が吹奏楽をやっていたものだから、それをテーマにした小説だと思った。娘かカミさんが買ったものに違いないということで早速手に取った。


まだ誰も読んだ形跡が無かったのだ。


すると、これがことのほか面白くて一気に読んでしまった。結構厚い本で、表紙には女子高生がトランペットを吹く姿が描かれている。


娘が入っていた吹奏楽部であるが、運動部なみの練習は有名であったが、格段に女子部員が多かった。


昔の僕の知っている吹奏楽部は結構男子も居たように思う。大きなチューバやユーフォニューム、トランペットやサックス等の金管楽器も肺活量の大きい男子が吹いていた。


ところが娘らの吹奏楽部では、40名位いるうち、男子はほんの4、5名と言ったところ。チューバやユーフォも女子だし、トランペットやサックスも女子である。あまり記憶にないが、男子はパーカションに1名、ホルン1名、トランペット1名位のもの。




吹奏楽部は、女子の運動部になっていた。

けっこう驚いた。吹奏楽部は、いつのまにか女子の運動部のようになっていた。部長も女子だし、男子生徒はこの女子に面倒を見られる存在になっていた。


話は本に戻るが、この物語のスタートはそんな吹奏楽部の連中が40才を越えて、またみんなで一緒に集まって演奏しようよと言うことになったお話である。作者自身も広島の観音高校の吹奏楽部員だったようである。


僕も4年ほど広島市に住んでいて、当時娘も吹奏楽部で有名な中学に通っていたのでとても親近感を覚えた。彼女の部は吹奏楽コンクールで広島県大会で金賞になり中国大会へも行った。残念ながら全国大会には行けなかった。マーチングにも出ていたがこちらも中国大会止まりである。


僕はこのマーチングを初めて見たのだが、あまりの素晴らしさに圧倒されてしまった。演奏も見事であるが、全体が一糸乱れず更新し、そして拡がりクロスをして、行きかう姿は圧巻である。大いに堪能させられた。優勝をねらうチームは本当に見事であった。


ただレベルが高度なだけに、参加する学校は限られており、吹奏楽コンクールに比べて参加チームは半分にも満たなかった。



その後の吹奏楽部を書いた小説だった。

この小説は吹奏部員たちのその後であるが、主人公は広島市内でジャズ喫茶を開いていて当時はコントラバスを演奏している。その後、皆は散り散りになり大学へ行きあるものは就職し、東京や大阪、四国で暮らすものや中には海外で暮らすものもいる。会社員や商社マンや先生、あるいは公務員や老舗の女将や主婦となったものもいる。


当時彼らを教えていた女性の先生は、不倫の末に薬物中毒となり、手首を切ったと書いてある。ヤバい。とても中学の娘に読ませるような代物では無いことに驚いた。


なぜ40才でもう一度演奏しようとなったかと言うと、わがままでずっと独身で東京で国家公務員となった女性が今度結婚をするから、みんなで集まって披露宴で演奏をしてくれないかと喫茶店主の主人公に持ちかけたからである。



20数年後の吹奏楽演奏会。

そこで主人公は、みんなと連絡を取り会い20数名の参加を取付け、開催をすることになるのだが、その過程で、みんなの人生を垣間見ることになる。40才を越えると言えば、それなりに人生を歩んでおり、浮き沈みもあるし、結婚もあれば離婚もあり、皆がそれぞれの苦労を抱えている。


そうこうするうちに、かの女性から結婚は中止になったとの知らせが入り驚かされる。聞いてみると、旦那になる人と一緒にドライブをしている時に、車の助手席から彼の顔を見ていて、我慢が出来ないとかをそのまま彼に言ったらしい。


何のことかはよくわからないが、わがままな女性は居るにはいる。この後に及んで、そんなことを言って破断にしてしまう女性も凄すぎる。


主人公はびっくりして、連絡を取ったみんなに謝って下さいと詰め寄るが、彼女の住まいは東京で、結局彼がその責任を取らされることになる。



高校生たちは、クリスマスコンサートと言いながら、クリスマスソングを1曲も演奏していない。

そのうち、それを知った高校で音楽の教師をしている先生が、この先生は彼らの学校の先輩であり、練習場を貸してくれた人物である、それならばうちの生徒たちが「クリスマスコンサート」を開くので一緒に出ないかと言うことになり、最初で最後の演奏が決まったのである。


このコンサートは体育館で開かれており、彼らは寒い冬の外で、凍えながらその出番を待っている。


ただ1曲だけの演奏である。気になる処があると言えばあるには違いないが、練習をしても同じである。中古自動車と同じでことで、ここを直すとあっちが気になる。


生徒たちが勝手に決めたクリスマスコンサートだと先生は言っていたが、外で聞いていると彼らはクリスマスソングを1曲も演奏していない。


このまま最後までいくとしたら、これは彼らの為に企画されたコンサートであると、主人公は気づくのである。ウルウルウル、泣ける。




今日の演奏会は、我々のために先生と高校生たちが企画してくれた演奏会だった。

この高校の先生の輪郭は、何も出てこないのだが、こういうのは凄く嬉しくて、本当に泣ける。作者はこの最後のフレーズを書く為に頑張ったように思える。


本当に僕は、こういうあまり多くは語らないが、心優しい大人に憧れる。優しくなければ生きている資格がない。


もう一つ書いて置きたいことがある。




広島のお盆の灯篭(とうろう)のこと。

この本を読んでいて、広島で不思議に思っていた謎がひとつ溶けた。夏になるとあっちこっちで灯ろうを売っているのだ。驚いたことにコンビニでも売っている。白い灯ろうと色取り取りの灯ろうの2種がある。広島ではこの灯ろうをお盆に毎年お墓に立てるのである。朝顔灯ろうと呼ばれている。


白い灯ろうは新盆で立てるもので、それ以外は色あざやかな灯ろうである。


僕の働く工場に大阪で育った冬梅さんと言う女性がいて、子供とコンビニに行くと子供がこの灯ろうを欲しがって困ると嘆いていた。


彼女の家には立てるべき故人はいないのだが、彼にするとクリスマスツリーと何ら変わらないものらしい。


この朝顔灯ろうは、広島の紙屋町に住む紙屋の老舗の主人が娘の死を悼んで始めたものであると、この本に書いてあった。


広島の人と話をすると、この風習は全国にあると思っているのだが、これは広島近辺だけである。僕も初めて知った時驚いたし、コンビニで売っていることにも驚いた。その位、身近な存在である。


この本は暖かい心の交流と広島の風物詩を想い出させてくれた。

お盆を飾る夏の風物詩で、とても綺麗だったことを覚えている。


今回は、ちょっと長過ぎかも知れないど、本人は大満足でした。    了




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