第一章 森精族と龍と冒険

第11話 貴族集合制裁判

「起きろ、おい…」

男が俺に話しかける。なんか硬い。地面が硬い。

「うぁ…誰だ?」

硬い、地面というか草なのか?というかここは。

「裁判だから早く起きろ。」

「さ、さいばん?!」

この男は何言ってるんだ?ゼータ?ゼータ?俺あれから寝てたけど。

男は続ける。

「しかし、絶対に上には言わないけど凄いなお前。あんな化獣デカブツを騎士でもない冒険者でも傭兵でもないやつなのに一撃で倒しちまうんだからよ。」

「あの、裁判って?」

俺は男に聞く。

「聖剣使ったろ。それで多分死刑かもって。」

「死刑?!」

確かに聖剣を使ったけども、って聖剣だから仕方ない。

「どうにかならないですかね。」

俺は再び聞く。先程まで暗闇に目が慣れていなかったからよく見えなかったがどうやら騎士の風貌をしている。

「ならねぇだろ。ただ民衆は、反対してるらしいぞ。貢献してるから殺すなってな。」

「そうか、ならいいかもな。」

俺は笑って言う。

「そんなに期待するなよ。貴族達はこの前の戦争でイライラしてるんだから。」

「そうだな。」

「とりあえず…檻から出ろ。」

「わかったよ。」

俺は鉄格子の空けてくれた所から出た。


裁判が始まった。

「この者は、永明の神であるニュー様の創造した聖剣をあのような汚らしい化獣大きいだけのモンスターに使ったのです。許し難いです。」

この男は、ノンポス・スタルティスという貴族だ。そして裁判は、貴族集合制という体制が取られており、八人の貴族が当事者のことを判断して判決すると言う巫山戯た体制だが、今の貴族のことを、批判できる立場の人は誰もいなかった。だが、…

「私としてはそうは思いません。」

「え?」

ノンポスが腑抜けた声を出すと、そこに居たのはミステク団長だった。鎧を着ていなかったので話し出すまで分からなかった。

「それは一体どういうことかね。」

イディル・ブリング国王が、質問する。国王まで出てくるのか、聖剣が絡むと。

「はい。彼の功績はブリング王国とマキナ共和国との戦争で、突如出現した竜を、自分の身を突き破る勢いで殺したのです。」

確かに戦争の時ゼータと契約して滅ぼすギリギリまでいったけど、死んでないんだが。

「ちょいと待ってくれんか、その自分を貫いたという武器を聞いていないのだが。」

質問したのは辺境伯のラダム・クリークだ。

「それが、その聖剣ヴィンクスです。」

「「「え?」」」

戦争の情報が上手く伝達されないことはあるが、聖剣となれば知らないことは、ないだろう。というか死刑ほぼ確定じゃないかこれ。

「かの者は、二回も無許可で聖剣を使用したのか。」

ラダムは、絶望的な顔をしていた。彼は熱心にニュー様を信仰しており、ちなみに彼は魔法ではなく精霊術というものを使えるらしい。

「でもなぜ、その情報が伝達されなかったのですか。」

「それは、…」

団長は、黙り込んでしまった。


「私的には彼を聖剣の研究材料に使いたいのだが?」

そこに現れたのは、ヴィートラ・ウトピア博士だった。

「ヴィートラ博士、何を仰るのですか?」

ラダム辺境伯は聞く。

「くっくっく…ええ、私としては、ニュー様の与えてくださった聖剣のパワー最大出力量レンジを知りたいのです。」

ヴィートラ博士は、不敵な笑みを浮かべながら話す。

「それと、彼自身の才能限界ポテンシャルもね。」

ヴィートラ博士はニヤつきながらこちらを指さしてきた。

「でも、…」

ノンポスが、発言しようとした時に、

「彼は生かすべきだろう。」

と、国王が言った。

「ですが…ですが彼は聖剣を無断に使用したのですよ!」

ノンポスは言う。

「民衆達が言っているのです。『彼は我々を救ってくれた英雄だ』と。これ以上のクーデターが起きた場合国家が崩壊しかねない。それに、」

王の話を遮ってノンポスは言う。

「ニュー様に忠誠を誓うブリング国の王としてそれは如何なものかと。」

「…」

全ての貴族が黙り込んでしまった。

「…では、彼の今までの功績を抹消するというのはどうでしょう。」

国王は再び口にした。そして続ける。

「やはり、彼の親であるボランス・ワルードが貴族であり、彼もワルード家としての名誉もあるでしょう。だから彼の」

「ですがですよ!…聖剣は、受け継いだ伝統であり、」

ノンポスは、必死になって言うが、

「そうですよ」「そうだ、」「王、あなたは何を言っているのですか」

貴族達が、一斉に異口同音を唱えている。

「ではその者を死刑にすることで、正義以外の執行による血塗られた聖剣になるのではないでしょうか。」

王は問うた。

「…」

貴族達は黙り込み、

「では、経歴抹消が妥当と思うのだが、皆はどうだろう。」

王が告げると、嫌々貴族達は、納得した。

「それと彼の身元は?」

ヴィートラ博士は、皆に問う。

「ヴィートラ博士、任せられるか?」

王は再び問うた。

「はい、彼の身元はこちらで預からせてもらいます。」

そう、この貴族集合制裁判は、被疑者の発言権は、存在しないのだ。

「これより閉廷とする。」

王が裁判の終わりを告げた。

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