#25
村を出たドミノは、先ほど見つけた大型の魔獣の足跡がある場所へと向かった。
やはりというべきか、その近くには数十人の人間が通った跡が残っていた。
どうやっているのかはわからないが。
略奪者の集団は大型の魔獣を使役しているようだ。
魔獣は野生動物以上に人間には懐かない。
むしろ人を食料としている生き物だ。
ハーモナイズ王国が反乱軍に倒される数年前に、漆黒の剣士によって大型の魔獣はこの世界から姿を消したはずなのだが。
こないだ廃墟の街に現れたことといい、何か大きな事件でも起こっているのかもしれない。
「ま、私には関係ない……」
そう呟きながら獣道を進むドミノ。
集団が歩いた痕跡を追いながら、自分には世界のことなどどうでもいいと歩く。
歩を進めながらシスルの考えた作戦を思い出す。
彼の作戦は村の周りに柵を作り、さらに侵入してきた略奪者や大型の魔獣用に落とし穴を仕掛けるというものだった。
それらの準備が出来たら、ドミノとレオパードでこれから見つける略奪者たちの場所を逆に襲撃して挑発。
敵を村へと誘い込む。
これは今できる最善の策だと、時間をかけずにこの作戦を考えたシスルには舌を巻くばかりだと、ドミノは思う。
「いたな……」
しばらく痕跡を辿ると、略奪者の集団のキャンプを発見した。
ドミノは少し離れた位置から双眼鏡を覗く。
略奪者たちは、村から奪った農作物でも売り払ってきたのか、まだ陽が高いというの、豪勢な食事を地面に並べて酒盛りをしている。
生やしっぱなしの髭にこれまた奪ったであろう装飾品を身に付けた略奪者たちを見て、ドミノはいかにも盗賊だと思わず笑ってしまっていた。
杯を交わし合う略奪者の集団の側では、使い込んだ剣や斧などの武器が見える。
「弓矢はなさそうだな。それと、やはりいたか……」
さらに彼らの後ろには、大型の魔獣が静かにその身を屈めていた。
特に鎖など拘束はされていないところを見ると、常識では考えられない力を使って魔獣を使役しているのだろうことは判断できる。
ドミノは、略奪者たちが魔獣と特別な関係――たとえば飼い主とペットとだからなのかとも考えたが。
人喰いの化け物が人間と意思を通わせることができるはずがないと、その考えを打ち消す。
「となると、魔法ということになるが……」
もう一つの可能性でいうと、前にマジック·ベビーが使ったあの不思議な力――魔法となる。
だが、略奪者たちの盗賊然とした姿を見る限り、とてもそのようには思えない。
第一にそんな魔法のような力を使える盗賊らが、こんな辺境の中でも、さらに人里離れた小さな村など襲う必要はない。
もっと宝石や金銭が手に入るようなところを狙うだろう。
「……考えてもしょうがないか」
ドミノは答えが出ないことを考えるのは止め、その場から去り、一度村へと戻る。
略奪者の様子からして、今日は眠るまで酒を飲み続けるだろうと思った彼女は、飲酒が明日にも響き、早くても二日後までに準備を終えればいいことを、シスルたちに伝えることにしたのである。
帰り道の森を進みながらドミノは思う。
これならば、村を守りきることができるかもしれないと。
――村の周りに柵を作り始めてから二日後。
村人たちも木の槍に使い方にも慣れ、敵が攻めてきたときにどういう指示を出すかを覚えさせた。
こちらの迎撃の準備は整ったと判断したドミノは、予定していた通りに略奪者たちのキャンプへと夜襲をかけ、村に敵をおびき寄せることにする。
「いいか。私が合図したら村まで走れよ」
敵の居場所の前まで辿り着くと、ドミノが細かい内容をレオパードに伝えていた。
とりあえずここでは戦わないため、二人が略奪者の集団を挑発する。
話を聞き終えると、レオパードが彼女に訊ねる。
「作戦はわかったけどさ。どうせ夜襲をかけるなら、魔獣が大人しいうちにアンタの銃で撃ち殺せばいいんじゃない?」
「そいつはいいかもな。試してみるか」
以前に大型の魔獣を倒したガナー族の象徴であるホイールロック式の拳銃。
魔獣が略奪者たちの傍で静かにしているのなら、その間に倒してしまえばいいと言うレオパードの案に、ドミノは乗ることした。
二人は、闇夜に紛れて略奪者たちの張るテントへと近づいていく。
ドミノが様子を見ていたときと同じで、略奪者たちはまた酒を飲んでいた。
だが、違ったこともあった。
どういうわけだが、敵の人数が明らかに増えている。
他の場所にいた仲間を集めたのか。
ドミノは内心で驚いていると、レオパードが彼女に向かって小声で口を開く。
「ねえ、ちょっと話が違うんじゃない? 略奪者の集団は十人かそこらって話だったでしょ?」
「私が見に来たときは、たしかに十人くらいだった。そうか……。連中がのんびりと酒を飲んでいたのは、仲間が来るまで時間を潰していたからか」
略奪者たちの数は倍以上になっていた。
レオパードはドミノにどうするのか、作戦を練り直すかと訊ねたが、彼女はこのまま続行すると答えた。
それは村人たちが理由だった。
戦いに慣れていない彼ら彼女らは、当然戦争の経験などない。
自分たちがこれから略奪者の集団を迎え撃つという状況は、精神的にかなり負担となっているはずだ。
緊張の糸が切れる前――。
村人たちのことを考えると、できる限り戦いを長引かせないほうがいい。
そう、ドミノはレオパードに言う。
「敵の数が増えたのは痛いが、まあ問題はない。大型の魔獣さえ倒せば後はどうにかできる」
「う~ん、アタシはちょっと心配だけど。アンタがそういうならやるか」
「めずらしく
「はぁッ? アタシいつも素直ですけど~」
からかうように言ったドミノに向かって、レオパードは頬を膨らませて返事をした。
「むぅ」といったいかにも不機嫌そうな顔をした彼女を見て、ドミノは笑みを浮かべたままその肩をポンと叩く。
「じゃあ、始めるとしよう。お前はあいつらの側にある焚き火に爆弾を放り込め。私はテントのほうと大型の魔獣に撃ち殺す」
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