#24

それからドミノはシスルに声をかけ、村人たちを戦えるようにできるかを訊ねた。


シスルは元反乱軍のメンバーだ。


反乱軍には農民や商人などの非戦闘員も多かったという話を知っていたドミノは、彼ならば何か対抗策を考えられると思ったのだ。


村人たちが不安そうにドミノたちを見つめている中、シスルはクスッと笑みを浮かべて答える。


「かなりムチャなことを言うな。でも、彼ら彼女らにも戦ってもらうというのはいいかもしれない」


シスルは今後のことも考え、村人たちが自衛できる手段を覚えることは良いと判断した。


今回の襲撃を乗り越えても、次にいつ村が襲われるかはわからない。


ハーモナイズ王国が反乱軍に倒され、世界中が混乱に満ちている状況だ。


自分たちを守れるようにしておいたほうがいいと、シスルはドミノの案に賛成する。


「では、なんとかできるということでいいんだな」


「ちょっと待ってドミノッ!? みんなを戦わすなんて無理だよ!」


シスルの同意を得たドミノだったが、レオパードが激しく反対してきた。


たしかに彼女の言う通り無茶な話なのだが、ドミノは断固として譲らない。


「村を出るつもりがないなら、やるしかない」


「だけど、大型の魔獣と略奪者の集団を同時に相手なんて、ホントにできると思ってるの!? あのときみたいに、またマジック·ベビーがなんとかしてくれるわけじゃ――」


「問題は二つだ」


ドミノはレオパードの言葉を遮って、指を二本立てた。


「細かい作戦はシスルに考えてもらうとして、略奪者の集団を村人たちに任せて、大型の魔獣は私とお前で相手すればなんとかできる……と思うぞ、勇者さん」


「できると思うって……」


「勝算はあるさ。お前の大剣なら魔獣に通じるし、私にもこいつがある」


腰に付けたヒップホルスターに手をやるドミノ。


そこにはガナー族の象徴であるホイールロック式の拳銃が収めてある。


たしかに戦えなくはない。


以前だってレオパードの大剣で魔獣の皮膚を斬ることはできた。


それと、マジック·ベビーの不思議な力のおかげもあったが、実際に止めを刺したのはドミノの拳銃だ。


やってやれないことはない。


「うぅ、やるしかないか……」


レオパードはうぐぐと言葉を詰まらせたが、最終的にはドミノの提案を受け入れた。


そして、不安そうにしている村人たちに声をかける。


「よし! じゃあみんなの力を貸してッ! アタシたちも一生懸命戦うからッ!」


レオパードが檄を飛ばすと、村人たちは金髪の少女に向かって一斉に叫び返した。


その様子を見ていたマジック·ベビーは、まるでパレードでも見ているかのように笑う。


そんな赤ん坊に気が付いたドミノは、足元ではしゃいでいるベビーを抱き上げる。


「お前はいつも笑ってるな」


少し呆れながらも、いつでも笑顔のマジック·ベビーを見たドミノは、そんな赤ん坊を頼もしく思った。


それからシスルに指示を仰ぎ、村人たちは動き出した。


まずは村の周りに柵を作り、簡単には侵入できないようにする。


略奪者の集団の人数は話によると約十人ほど。


対するこちらはドミノたちを入れて戦える大人は二十人。


実力的に劣るとは思われるが、数でいえばこちらが勝っている。


あとは柵を破壊して敵が入ってきたときの対応を村人たちに仕込めば、略奪者のほうはなんとかできるだろう。


「大型の魔獣のほうはどうする? もちろん私とレオパードで当たるつもりだが」


「魔獣にとって柵は意味がないだろうが、破壊されたところから敵が入って来るとわかればむしろ戦いやすいさ。それよりも、敵がいつ攻めてくるかを把握しておきたいな」


シスルにそう言われたドミノは、敵の動きは自分が調べると答えた。


せっかくこちらが戦闘準備をしていても、その間に襲われたらたまったものではない。


最悪、こちらの準備が終わる前に略奪者の集団が動くようならば、ドミノが手持ちの爆弾や煙玉で時間を稼ぐと言う。


「私なら弓矢よりも遠くの距離から戦えるからな。なんとか準備までは持ち堪えてみせる」


「そいつは頼もしいな。それにしても、まさかこんな大事になるとは」


「本当だな。気軽に賊を退治するつもりで来てみれば、これではまるで戦争だ」


話し合っている二人の横では、早速柵を作る班と、レオパードから武器の扱いについて教えてもらっている村人たちの姿が見える。


そこでは、男性も女性もドミノが即席で造った木の槍を手に振るっていた。


さらに子供たちも柵を作る手伝いをしている。


大人も子供も老人も性別すらも関係なく、村全体でここを死守すると皆が意気込んでいて士気は十分に高い。


シスルの読みでは、これならば大型の魔獣以外はなんとかできるだろうと踏んでいる。


「それにしても、大型の魔獣なんてまだいたんだな。とっくに絶滅したと思っていたが。そういえばアンタらも戦ったことがあるって感じだったが、よく勝てたな」


「あぁ、こいつに助けられたんだ」


ドミノはシスルに返事をしながら、傍で眠っているマジック·ベビーの頭を撫でた。


シスルには彼女の言っている意味がよくわからない。


赤ん坊に助けられたというのは、何か例え話なのかと小首を傾げている。


「その話について詳しく聞きたいんだが」


「そうだな。お前になら話してもいいか。金にもならないのに、わざわざ手を貸してくれるイイ人のお前にならな。こいつをゆりかごに戻しておいてくれ」


ドミノは笑ってそう答えると、略奪者の集団がいる場所を探すといってその場から去って行く。


彼女からマジック·ベビーを手渡されたシスルは、眠っている赤ん坊を眺めながら、小さくため息をつくのだった。

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