#23

子供たちに群がれていたレオパードとマジック·ベビーを連れ、ドミノたちは空き家へと荷物を運んだ。


家自体はそれなりに大きく、ドミノたちが住むには十分な広さがあったが、やはり誰も住んでいなかったため埃っぽい。


まず埃塗れの室内を掃除することになったが、ドミノはあるものを見て驚く。


「炉があるのか?」


ここはもとは鍛冶師が住んでいたのか、家の奥には小さいながら火炉があり、一通りの工具がそろえられていた。


ドミノの案内してくれた男女二人に訊ねるには、なんでも二人が生まれる前にはここで技を磨いていた鍛冶職人が村に滞在していたようだ。


埃こそ被っているとはいえ、入れ槌やピンセットのような鍛冶屋箸、やすりなど、火さえ炉に入れれば今すぐにでも鉄が打てそうな状態だった。


「もしかして、あなたは鍛冶師だったのですか?」


女のほうが訊ねるとドミノは首を左右に振った。


自分は知っての通り賞金稼ぎだ(今は賞金首になっているかもしれないが)。


鍛冶師としての技術は、幼い頃の家庭事情で多少の心得があるくらいだと、彼女は答えた。


「よかったら後で使ってみてください。綺麗にして炉には火を入れておきますから」


男のほうがそういうと、ドミノたちに掃除は自分たちがやるからと家の外へと追い出された。


家の外へと出たドミノは、休んでいるユニコを撫でながら村の光景を眺める。


ここには笑顔があり、村にも目に見てわかるような被害はなさそうだ。


略奪者の集団に襲われていると聞いていたが、思っていたよりも平和に見える。


「さて、ここで待っていてもしょうがない。私はちょっと村の外を見てくる」


「じゃあ、アタシも行く」


ドミノの言葉に、レオパードがついて行こうとすると、マジック·ベビーも自分も行くといわんばかりに何やら手を動かしていた。


だが、ドミノは二人に待機を命じる。


「お前たちは子供らの相手をしてやれ。かなり気に入られているようだしな」


「でも、もし敵がいたらアンタひとりだけじゃ危ないじゃん」


「大丈夫だ。シスル·パーソン、一緒に来てもらえるか?」


ドミノがシスルに同行することを頼むと、彼は六尺棒ろくしゃくぼうを手に取ってコクッと頷く。


それから二人は、不満そうなレオパードと手を振って見送っているマジック·ベビーを置いて、村の外へと出た。


馬車で通った道から獣道へと入り、人が通った痕跡を探す。


以前にも似たような仕事の経験があったドミノにとっては、これくらいはお手の物だ。


「臭うな……」


獣道を進んでいると、シスルが急に口を開いた。


ドミノにはそういわれても、特に何も臭わなかったが、彼は盲目というのもあって嗅覚が人よりも優れているのかと思う。


「臭うだって? 私にはわからないが、一体何の臭いだ?」


「この臭いは……」


シスルが答えようとしたとき、ドミノの目に大きな足跡が見えた。


それは人間の何倍もある足跡で、彼女にとっては最近見た――知った大きさのものだった。


「まさか、これは……?」


「魔獣だよ」


シスルの言葉を聞いたドミノは、彼にほうを振り向き、その表情をしかめるのだった。


魔獣の足跡――それも大型の魔獣のものを発見したドミノたちは一度村に引き返し、掃除を終えていた男女二人に住民らを集めてもらうことに。


二人が村人たちを呼びに行っている間に、マジック·ベビーの傍でレオパードにも事情を伝える。


大型の魔獣の存在を聞いたレオパードは、先ほどのドミノと同じように顔を強張らせていた。


彼女も大型の魔獣の脅威を肌で感じたのだ。


当然の反応だろう。


その後、男女二人が村人たちを連れて戻ってきた。


ドミノは集まった村人たちを眺めながら考える。


略奪者の集団が大型の魔獣を使役しているのかはわからないが、これは想定外だ。


もしあのマジック·ベビーを見つけたときのような大型の魔獣が現れたら、こんな小さな村はひとたまりもない。


依頼を受けておいてなんだが、村を出るのが最善の行動だろう。


「残念だが、もうここには住めない」


突然ドミノにそう告げられた村人たちからは不安の声が漏れている。


その様子を見たレオパードは彼女に言う。


「その言い方ッ!? もうちょっとわかるように言ってあげないとダメじゃんッ!」


「お前なら上手く言えるか?」


「アンタよりはね」


レオパードはドミノにそう返事をすると、村人たちに話を始めた。


ついさっきドミノとシスルが村の外を調べていると、そこで大型の魔獣の足跡を発見した。


正直いって、自分たちだけでは略奪者の集団と大型の魔獣を同時に相手にはできない。


村にも大きな被害が出るだろう。


被害が出るその前にこの場から去ったほうが賢明だと、レオパードは安全策を皆に伝えた。


だが、村人たちからは不満の声があがる。


村を守ってくれるという話ではなかったのかと。


それがどうして急に自分たちが村を出なければ行けなくなったんだと、皆口々に言い始めた。


レオパードは申し訳なさそうに言葉を返す。


「たしかにそう言ったけど、状況が変わったんだよ。相手が略奪者の集団だけだったらなんとかできたんだけど、大型の魔獣がいたとなると話が変わってくるんだ」


大型の魔獣と聞いても村人たちは、どうもピンときていないようだ。


皆不満そうな顔のまま、この村を出ていくところなどないと、レオパードに答えた。


ずっとこの村で生きてきた。


小さいながら先祖から受け継いだこの土地を捨てて、他の場所に住むことなど考えられないと、力強い言葉で皆が強固な意思を伝えてくる。


「言いたいことはわかるけど、こっちはアタシたち三人しかいないんだよ。ここは被害が出る前に村を出たほうが――」


「いや、待てレオパード」


レオパードが村人たちに訴えていると、ドミノが口を開いた。


ドミノは振り返ったレオパードを見て、今思いついたという考えを言う。


「村人たちにも戦ってもらおう」

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