#22

その後にドミノは、シスルと共にレオパードたちと合流。


ドミノは馬車に繋がれたユニコを撫でながら、略奪者の集団に狙われているという村へと出発しようと声をかける。


「こんな時間から悪いな。また私たちを運んでくれ」


声をかけてきたドミノに、ユニコはヒヒーンと鳴き返す。


その鳴き声は、まるで「任せて!」と言っているようだった。


それから御者台ぎょしゃだいに男女二人が乗り、ドミノたちが荷台に腰を下ろすと街を出る。


「アンタもよくついてきたね。夜にいきなり略奪者と戦うから手伝ってとか言われてさ。物好きもいいとこだよ」


大した事情も聞かずについてきたと聞いたシスルに、レオパードは驚いているようだ。


そんな金髪の少女の態度に、シスルはクスッと笑みを返す。


「旅は道連れってね。それに困っている人を放ってはおけないしな」


「初めて生で聞いたよ、そんな台詞せりふ。物語の中だけの言葉だと思ってた」


シスルの手を貸す理由を聞いて、レオパードはもはや驚くを通り越して呆れている。


そんな会話をしながら揺れる幌馬車内で、笑っているシスルのところに、ゆりかごから出たマジック·ベビーが這って近寄っていく。


「報酬は前払いで渡している。反乱軍にいた男にとっては楽な仕事だろう。それに、こんな辺境にいる野盗なんて大して脅威でもないだろうしな」


ドミノがシスルに近づこうとしているベビーを抱き上げて口を挟むと、レオパードが顔をしかめた。


彼女の態度を不可解に思ったドミノだったが、幌馬車から空を眺め始めたマジック·ベビーを見て、彼女も空を見上げる。


今宵は月と星が浮かぶ綺麗な夜空だった。


マジック·ベビーはその短い手を伸ばして。それらを掴もうとしている。


そんなベビーを見て、レオパードが言う。


「ま、アタシとアンタ、それにこの人がいれば楽勝だろうけどさ~。あと、最悪その子がなんとかしてくれそうだし。さあ、もう寝よ寝よ。ユニコのことはあのお兄さんとお姉さんに任しちゃっていいんでしょ?」


「あぁ、徹夜で申し訳ないが、そういう契約だ」


ドミノはそう答えると、マジック·ベビーをゆりかごへと戻した。


まだ起きていたそうなベビーを撫で、もう眠るように声をかける。


「バタバタとせわしないが、お前ももう寝ろ。明日の朝には安全な場所に到着するからな」


「略奪者の集団に狙われている村のどこが安全なんだか」


毛布をかぶりながら呆れてドミノへそう言ったレオパードに、シスルもまた毛布を羽織りながら、そんな彼女の態度に笑みを浮かべている。


一方のドミノは特に気にすることなく、毛布を手にせずに周囲への警戒をし始めるのだった。


そして一夜明け、ユニコの引く馬車は村へと到着した。


馬車が止まったことに気が付いたドミノたちは、幌馬車から顔を出してその光景を眺めていた。


山を背にした村には、朝から村人たちが外に出て畑を耕している姿が見える。


昨夜いた街と比べると、その十分の一ほどの大きさしかない小さな村だ。


ドミノは、こんな小さな村を襲う略奪者の集団は、よほど食うものに困っているのかとあくびを堪えてながら思っていた。


ユニコの手綱を引いていた男女二人が、御者台ぎょしゃだいから降りて村人たちにドミノたちのことを話をしている。


すると、突然子供たちの集団がドミノたちがいる幌馬車へと駆け出してきた。


「ゆうしゃさまだ! ゆうしゃさまが来たんだ!」


子供たちはそう叫びながら、荷台から顔を出していたマジック·ベビーに触れている。


マジック·ベビーが両手をあげて子供たちに応えていると、皆口々に可愛いと言いながらベビーの頭を優しく撫で始めていた。


「ありゃりゃ、こりゃ大歓迎だね~」


「そのようだな」


嬉しそうに言ったレオパードにドミノが答えると、二人の傍でシスルは微笑んでいた。


子供たちはマジック·ベビーを撫でながら、三人へと視線を移す。


その眼差しは、まるで昨夜に空に浮かんでいた星のように輝いており、子供たちはキラキラとした瞳のままで三人に声をかける。


「誰がゆうしゃさまなの?」


「おねえさん? おにいさん? それともそっちの子?」


子供たちは、ドミノ、レオパード、シスルのうち誰が勇者なのかを訊ねてきた。


当然三人の中に勇者はいない。


だが、急に何かを思いついたのか、ドミノが子供たちに向かって言う。


「こいつが勇者だ。見てみな、こんな大きくて重い剣、勇者じゃなきゃ使いこなせないだろう」


「ちょっとドミノ!? アンタなに言い出してんだよッ!?」


ドミノの言葉にレオパードが声を張り上げると、子供たちがさらに目を輝かせて両手を上げた。


たしかに腰に拳銃を帯びた妙齢の女性や、六尺棒ろくしゃくぼうを持った長髪の青年よりも、金色の髪をした大剣使いの少女のほうが、世に知られている勇者像に近いだろう。


子供たちは何の疑いもなく、レオパードのことを物語に出てくる勇者だと思い込んだようだ。


空へと高々と手を上げ、レオパードに歓声を送っている。


「どうすんのこれ!? この子たちアンタの冗談を信じちゃってるじゃんッ!?」


「冗談じゃないだろう? これから村を救うのは事実なんだ。この子供たちにとって、お前が勇者なのに変わりはない」


「アンタねぇッ!」


「ま、そう怒るな。勇者さま」


それから子供たちに身体を引っ張られて馬車から降りたレオパードは、揉みくちゃにされていた。


レオパードが自分は勇者ではないと言い続けても、子供たちは彼女を無視して大盛り上がりしている。


マジック·ベビーがそんな光景を見て嬉しそうにしていると、村の住民たちに説明をし終えた男女二人が戻ってきた。


二人はドミノたちへの報酬――これからこの村で長期滞在するための住居へ案内すると、彼女たちに声をかける。


「少し古いですが、今は誰も住んでいない家がありましてね。皆さんにはそこで生活してもらうおうと思っています」


「もちろん、これから掃除してピカピカにしますよ。あたし、こう見えても掃除は得意なんです」


少し申し訳なさそうにいう男に続いて、女のほうが腕まくりをして意気込む。


二人の話を聞いたドミノはコクッと頷くと、その空き家へと向かうことにした。

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