#7
それからドミノは、頼まれていた箱をレオパードと共に探し回った。
街にあった建物を端から端までを
「文字のような模様がある丸い箱……。こいつに間違いないな」
そのスイカを大きくしたくらいのサイズの箱が見つかった頃には、すっかり陽が落ちて夜になっていた。
おそらくだが、ここ周辺の魔獣らは数が多そうで、今から出発するのは危険だ。
基本的に夜行性である魔獣は、昼間よりも行動の範囲が広がるのだ。
そう考えたドミノは、この廃虚の街で一泊することを決めると、レオパードへ、街の外に停めてある馬車を取りに行くように言った。
「えー、なんでアタシがそんなことしなきゃいけないんだよぉ」
「お前も乗る馬車だ、当然だろう。街の外の北側にあるサボテンにくくり付けている。大きな岩が目印だから行けばすぐにわかる」
「えー、外なの? ったく、面倒くさいなぁ」
「いいから早く取ってこい。馬車には晩飯の材料と、それを作るための道具もあるんだ」
「マジで!? もう~それを早く言ってよぉ」
レオパードは食べ物が詰まれていると聞くと、急に態度を変えて馬車を取りに向かった。
ああ見えても彼女は、あれだけ分厚く巨大な大剣を自由自在に扱う剣士なのだが。
中身は見たままの子供だと、ドミノは疲労感が強いため息を吐きながら思った。
ドミノは、意気込んで馬車を取りに行ったレオパードが出て行くと、目の前にあった丸い箱へと手を伸ばした。
箱に描かれた見たこともない文字の模様は、何かの呪文や儀式で使われているものなのか。
見た感じ、箱の素材も普通の金属ではなさそうだ。
しかし、依頼主のことを詮索しないというギルドの決まりに従って、彼女は深く考えるのを止める。
「これがなんだろうが、私には関係ない……」
ただ依頼主に渡して報酬をもらうだけだ――。
ドミノはそう内心で呟き、箱を抱き上げると、突然箱が光を放ち始めた。
これはなんだ?
以前に話で聞いた魔法というやつなのか?
ドミノが箱を抱いたまま立ち尽くしていると、そこへ馬車を取りに行ったレオパードが戻って来る。
「急いで取ってきたぞ! さあ、早く夕食にしよう! って……ちょっと!? どうしたんだよそれッ!?」
レオパードは、ドミノの抱いている丸い箱を見て驚愕している。
それも当然だ。
箱が光り輝くなど、まるでおとぎ話の世界のことだ。
彼女もまたドミノの同じように、両目と口を大きく開いてしまっていた。
「こいつは、想像していた以上に厄介な仕事だったのかもな」
「そんなこと言ってる場合かッ!? てゆーかアンタなんともないのッ!?」
ドミノが
それと同時に光が収まっていき、ドミノとレオパードは、球体の箱に何が入っていたのかを知った。
「ねえドミノ、これって……」
「あぁ、赤ん坊……だな」
ハーモナイズ王国の残党――テンプル騎士団総長であるジャド·ギ·モレーから頼まれた探し物とは、まだ言葉もろくに話すこともできない赤ん坊だった。
とりあえず目的の物を見つけ、廃虚の街で一泊することを決めたドミノは、レオパードが取ってきた馬車から夕食の材料や道具を降ろしていた。
その間に、水を汲みに行かされたレオパードが戻って来ると、球体の箱から出てきた赤ん坊が、食事の準備をしているドミノに手を伸ばしている姿が見える。
「おいおい、赤ん坊が箱から出ちゃってるよ」
レオパードがそういうと、ドミノは準備を中断して赤ん坊を抱き上げた。
ドミノに抱き上げられた赤ん坊は、何を言うでもなく彼女のことを見つめている。
そして、何か言いたそうな顔をして、その短い手をドミノへと伸ばしていた。
そんな赤ん坊を再び箱の中へと戻して寝かせるドミノ。
だがドミノが寝かそうと箱に戻しても、赤ん坊はまた出てきては彼女に触れようとしていた。
その様子を見るに、この目的の箱に入っていた赤ん坊は言葉を話せないが、自分で歩くことができるのがわかる。
それは、かなり頼りないよちよち歩きといえるものだったが、確実に自分の意思で箱から出て、ドミノにかまってほしそうに彼女へと近づこうとしていた。
ドミノはそんな赤ん坊に対して、何度も食事の準備を中断しては、その小さな身体を箱へと戻す。
「コラ、ダメだろう。これからお前が食べる物を作るんだから。動かずに寝ていろ」
ようやく声を出して赤ん坊をたしなめたドミノだったが、赤ん坊は理解していないのか、いくら箱に戻しても出てきてしまう。
そんな二人のやりとりを見ていたレオパードは、思わずクスッと笑ってしまっていた。
「抱いてほしいんじゃない? アンタ、ずいぶんとその子に気に入られてるね」
「困ったな。これじゃメシを作れない」
箱から何度も飛び出してくる赤ん坊を放っておくわけにもいかない。
ドミノがそう言いながら困っていると、レオパードが赤ん坊を抱き上げた。
レオパードがよしよしとあやしながら笑顔を向けると、赤ん坊は不思議そうな顔をして彼女のことを見つめている。
「アタシがこの子を見てるから、アンタはその間にちゃっちゃと作っちゃって」
「そいつは助かる。だが、赤ん坊って一体何を食べるんだ?」
「さあ、アンタのお乳でもやればいいじゃない?」
「出るか、そんなもん。そういうお前は出るのか?」
「出るわけないじゃん」
ドミノをからかうように言ったレオパードは、赤ん坊を抱きながら笑う。
赤ん坊は、彼女の冗談に呆れているドミノと笑顔の金髪の少女を交互に見て、嬉しそうにはしゃぎだした。
「見てよほら、この子が喜んでる。きっとアタシたちの言っていることがわかるんだね」
「そうかもな。……とりあえず固形物じゃなければいいか。よし、今夜はスープにしよう」
「いいね、スープ。アタシには肉を多めに入れてね」
「肉なんてないぞ。私は基本的に豆からタンパク質を取る」
「えー肉ないのかぁ……。残念」
肉がないと聞き、がっくりと肩を落とすレオパード。
ドミノがそんな彼女を見て再び呆れていると、赤ん坊は嬉しそうに笑っていた。
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