#6

魔獣たちがドミノとレオパードに向かって一斉に飛びかかって来る。


レオパードはドミノの前へと出て、その大人の身の丈ほどもある巨大な大剣を振った。


彼女の放った一撃で数匹の魔獣が吹き飛ばされ、ドミノは弾丸を装填そうてんした拳銃を再び撃ち、魔獣たちを退しりぞかせる。


「ねえ、アンタさぁ。そんないちいち面倒くさいことしながら戦ってんの? 効率悪くない?」


「戦闘中に会話をするほうが効率が悪いと思うが?」


「いい性格してんね」


「さっきも言ったが話は後だ。来るぞ」


目の前にいた魔獣たち退かせたが、敵はさらに集まってきていた。


すっかりと囲まれてしまったドミノとレオパードだったが、二人は言葉を交わすことなく、互いに守るように背中を合わせる。


ドミノは拳銃に弾丸を込めて身構え、レオパードも大剣の持ち手を握り直す。


魔獣たちはそんな二人へと飛びかかる。


その数は、先ほどの倍以上だ。


襲い掛かる魔獣たちに向かってレオパードが大剣を振り、ドミノが彼女の剣を抜けた魔獣らを、両腕に装着したガントレットで殴り殺す。


二人とも今日初めて一緒に戦うとは思えない、見事なコンビネーションプレイをみせる。


「思っていた以上に数が多いな」


「ビビッてんのアンタ? それでも賞金稼ぎ?」


「そういうお前は一言多い。私に掴まれ、奴らの包囲を突破して背後から一気に叩く」


「どうやって? まさか空でも飛ぶつもり?」


「いいから掴まれ」


レオパードは辟易へきえきとしながらも、ドミノの身体にしがみついた。


魔獣たちがすでに飛びかかってきていたが、ドミノが右手を近くにあった建物へと向け、装着していたガントレットからワイヤーを発射。


発射されたワイヤーは、建物に付けられていた旗の付いたポールへと巻き付く。


そして、再びドミノはガントレットを操作し、ワイヤーが二人を引っ張り上げて建物の屋根へと飛んでいく。


「スゴイッ! どうなってんのそれッ!?」


「秘密だ。教えられない。ま、知ってもこれと同じ物を造れやしないがな」


ドミノの言葉を聞きせず、声を張り上げて驚くレオパード。


そのパッと明るくなった表情からして、彼女は実に楽しそうにしていた。


そして建物の屋根へと乗った二人は、すぐさま屋根から飛び降り、魔獣の群れの背後から攻撃を開始する。


ドミノの拳銃が唸りをあげ、レオパードの大剣が魔獣たちを一気に吹き飛ばしていく。


銃声と金属音が鳴り響き、血と硝煙しょうえんが辺りを埋め尽くす。


「ハッハァー! 楽勝!」


「まあ、こんなもんだろう。いくら数がいようが、所詮は獣だ」


包囲を抜けた二人は、わずか数秒で数十匹もいた魔獣たちを殲滅した。


レオパードが魔獣たちの死骸を眺めていると、ドミノが彼女に向かって何かを投げる。


「わぁッ!? ちょっといきなりなんだよッ!?」


「お前への報酬だ」


ドミノが彼女に投げたのは、ジャド·ギ·モレーから前金としてもらっていた宝石だった。


レオパードは突然こんな高価なものを受け取って、慌てふためいてしまう。


「こんなものもらっていいの? 賞金稼ぎって、アタシの中じゃがめついイメージなんだけど、ずいぶんと気前がいいじゃない」


「それだけの働きはしてくれたからな。正直、お前がいなかったらこんなあっさりと魔獣たちを片付けられなかった。当然の報酬だ」


「フフフ、そっかそっか。ま、当然だよねぇ」


口角を上げて渡された宝石をポケットへとしまうレオパード。


ドミノは何も言うことなく、そんな彼女を置いてその場を後にする。


しかし、レオパードはどうしてだが、ドミノの後を追いかけてきた。


歩きながら振り返ったドミノに、レオパードが言う。


「ねえドミノさぁ、仕事でここへ来たって言っていたけど」


「あぁ、ある物を探しに来たんだ。というか、お前はもう帰っていいぞ。後は一人でやれる。この街にいた魔獣も、さっきので全部だったろうしな」


ドミノは冷たくそう答えると、再び前を向いて歩を速めた。


だが、レオパードはなぜかまだ彼女について来る。


しばらく無視していたドミノだったが、ずっと後をついてくる彼女に向かって、足を止めて口を開く。


「いつまでついてくるつもりだ?」


「いやさぁ。アタシ、馬を殺されちゃってるんだよね~。だから移動する手段がないっていうか……」


「そうか。ここから一番近い町までは、子供の足でも歩いて二日もあれば着けるだろう」


「いやだからさ」


「せいぜい気を付けろよ。この街ほど群れていることはないと思うが、道には魔獣がいるからな。まあ、それくらいは知っているか」


「意地悪しないで助けてよ!」


ドミノの冷たい態度に、レオパードは声を張り上げた。


とっくに気が付いているのだろうと、彼女は今にも泣きそうな顔で喚き散らす。


「こんなとこで馬もなしで置いていかれたら死んじゃうでしょ! 飢え死にだよ飢え死に!」


「食料くらい持っているだろう。うまくやりくりすれば問題ないはずだ」


「持ってるけど二日ももたないよ! アタシは育ち盛りなんだ!」


「大丈夫だ。人間は二日くらい何も食べなくても死ぬはしない」


「死ななくても腹減りの状態で魔獣に襲われたら食われちゃうでしょ!」


レオパードは、ドミノが何を言おうが大声を出し続けて反論する。


どうやら彼女は、ドミノの乗ってきた馬を当てにしているようで、意地でも離れないつもりのようだ。


「置いていかれたら死んじゃうよ! 賞金稼ぎの女に見捨てられて、かわいそうなアタシは荒野で骨になっちゃうんだ!」


「勝手に骨になってろ」


「ちょっと酷くない!? もうッ骨になったら化けて出てやる! そんでアンタに一生つきまとってやるからな!」


「……」


「なんとか言えよ!」


その後も、いくら無視しても後をついてきて叫び続けるレオパード。


ドミノはついに観念して、彼女を近くの町まで送ることを承諾した。

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